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彼女がぽろりとデレたのなら
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「ふーん、なるほどねぇ。こんな幼馴染いるわけないじゃない。朝から起こしに来て、うわ、ちょ、いきなり始めんの」
「実況、やめてもらえませんか、レンコさん」
リアル幼馴染からのダメ出しに虫の声程度の声で抵抗する。
心折れたときはダメだ。本当に声が出ない。
三十分ほどたち、一通り幼馴染のアレな本を読み切ったレンコがパタンと本を閉じた。
「いやー、ひどかったわ。それであんたどの子好きなの? やっぱり二話の幼馴染? あの朝からいきなり襲い掛かってくる女子?」
「現実を知っているからこそ、理想を求めて何が悪いのでしょうか」
「それ私に言っている?」
「滅相もございませんぜ、レンコ殿」
まあ、俺もレンコの少女漫画を強引に読んだわけだし、このあたりで水に流してくれそうな気配に乗っかるしかない。
この許しのビックウェーブ、乗るしかない。
いやまて、俺はなんで許されようとしているんだ?
「レンコこそ、サクランボの髪飾りで歯が木っ端みじんになるイケメンが好みなのかよ」
「あれは……ネタ枠よ?」
「ネタ枠」
「うん」
なぜだろうあれだけ体を張っていたイケメンに俺は同情した。
普段ならイケメンなんぞに同情なんてしないが、ネタ枠扱いのあいつに思わず同情してしまった。
「お前、昔から本当に辛辣だよなぁ」
「そうかしら」
「そうだよ。ほら中学の時だって、部活のサッカーの応援に来てもいっつも野次ばっかだったじゃないか」
話を反らそうと俺はちょっと昔話をすることにした。
パッと出てきたのは中学時代の話。
中学の俺はサッカー部で、レンコは柔道部、この二つの部は顧問の先生同士が仲が良く、よく練習試合などは同じ学校に2部活まとめて行くことが多かった。
「それはタツタが下手だからだったでしょ」
「そんなことはないだろう」
「だってゴール決めたことほとんどないよね」
「何度も言うが、それはフォワードの仕事だ。俺はサイドバック、守備がメインだ」
中学のサッカー部では俺のポディションは守備を仕事にするサイドバックだった。
たとえ前に出てもフォワードにパスを回すことがメインのポディションだ。
ゴールを狙える立場ではない。
「でもさ、中学二年の時、練習試合で一点入れたことあるじゃん」
「あの時なぁー」
レンコの言葉に思い出される中学二年の夏の記憶。
練習試合の最後、アディショナルタイムも残りわずか、フォワードが打ったシュートがポストにぶつかり俺のところまではじかれてきた。
シュートラインはフリーだった。
だから思わず、全力でシュートを放った。
それが人生での初得点、そして―――
『やった―っ! すごいタツタ!』
防球ネット越しから大きな声が聞こえてくる。
見ると興奮したレンコが俺の活躍を自分のことのようにはしゃいで喜んでいる。
それは俺が最後にデレた彼女を見た瞬間でもあった。
「――あの時は格好良かったよ」
「お、おう……」
俺を見るレンコの表情にドキリとした。
頬が種に染まり、にこりと微笑む彼女の表情は先ほどまで恥ずかしがっていたものとは違う。
それは触れたくなるような、触れてはいけないような。
独り占めにしたくなるような、そんな表情。
とたん、かちゃりとドアから音が聞こえた。
「え?」
「え?」
二人同時に変な声が出た。
今のがデレたということになったのだろうか。
俺は再び扉まであゆみより、ドアノブに手をかけた。
かちゃっと軽い音がして扉が開く。
扉の先には何もなかった。
ただただ暗闇が続くだけの世界がそこにあった。
『さあ、生きるものは、この先に進むように』
どこからか機械音声のような声が聞こえてくる。
誰かが監視していたのだろうか。
いや、この超常的な事態を察するにもしかすると『神様』とかそういう類のものも考えないといけないのかもしれない。
さすがにまさかとは思うけど、今のこの状態を見るにそういう類でなければ説明がつかない。
「レンコ、どうする?」
さすがに一人で進むわけにもいかないと、俺は扉の先を伺いながら、レンコに声をかける。
「私は、いけない」
「いけないってお前――」
突然背中から抱きしめられる。
予想外の行動に俺は少し困惑し、お化け屋敷を怖がる乙女キャラじゃないだろお前というツッコミは飲み込んだ。
レンコは震えていた。
「だって私、死んでいるんだもの」
「は……い? お前何を言っているんだ」
「覚えてないんだ……タツタは。いや、そっか、もしかしたら――」
ぶつぶつとレンコが何かつぶやいている。
何か嫌な予感がして、俺はレンコを腕を振り払い、彼女へ振り返った。
とたん、ドスンと予想外のタイミングで俺は衝撃を食らった。
レンコがおもいっきり俺を押したのだと気が付いた時には俺は闇の中に真っ逆さまに落ちていた。
「――おわぁぁぁぁ!?」
どうして、どうして、どうして!
混乱する中も、俺はじたばたと宙でもがく。
だが、そんな抵抗はむなしく、闇の中に落下する俺はどんどんと扉から遠ざかっていく。
「……ばいばい、大好きな人」
そうレンコの声が聞こえた気がした。
小さくなっていく光を見て、俺は、ただ彼女に手を伸ばすことしかできなかった。
光が捉えられなくなる。視界が闇に飲まれていく。
意識が闇に取り込まれていく。
そんな中、どうしても彼女の最後の表情がこびり付て離れない。
そう、あの時、彼女は泣いているように、俺は見えた。
「実況、やめてもらえませんか、レンコさん」
リアル幼馴染からのダメ出しに虫の声程度の声で抵抗する。
心折れたときはダメだ。本当に声が出ない。
三十分ほどたち、一通り幼馴染のアレな本を読み切ったレンコがパタンと本を閉じた。
「いやー、ひどかったわ。それであんたどの子好きなの? やっぱり二話の幼馴染? あの朝からいきなり襲い掛かってくる女子?」
「現実を知っているからこそ、理想を求めて何が悪いのでしょうか」
「それ私に言っている?」
「滅相もございませんぜ、レンコ殿」
まあ、俺もレンコの少女漫画を強引に読んだわけだし、このあたりで水に流してくれそうな気配に乗っかるしかない。
この許しのビックウェーブ、乗るしかない。
いやまて、俺はなんで許されようとしているんだ?
「レンコこそ、サクランボの髪飾りで歯が木っ端みじんになるイケメンが好みなのかよ」
「あれは……ネタ枠よ?」
「ネタ枠」
「うん」
なぜだろうあれだけ体を張っていたイケメンに俺は同情した。
普段ならイケメンなんぞに同情なんてしないが、ネタ枠扱いのあいつに思わず同情してしまった。
「お前、昔から本当に辛辣だよなぁ」
「そうかしら」
「そうだよ。ほら中学の時だって、部活のサッカーの応援に来てもいっつも野次ばっかだったじゃないか」
話を反らそうと俺はちょっと昔話をすることにした。
パッと出てきたのは中学時代の話。
中学の俺はサッカー部で、レンコは柔道部、この二つの部は顧問の先生同士が仲が良く、よく練習試合などは同じ学校に2部活まとめて行くことが多かった。
「それはタツタが下手だからだったでしょ」
「そんなことはないだろう」
「だってゴール決めたことほとんどないよね」
「何度も言うが、それはフォワードの仕事だ。俺はサイドバック、守備がメインだ」
中学のサッカー部では俺のポディションは守備を仕事にするサイドバックだった。
たとえ前に出てもフォワードにパスを回すことがメインのポディションだ。
ゴールを狙える立場ではない。
「でもさ、中学二年の時、練習試合で一点入れたことあるじゃん」
「あの時なぁー」
レンコの言葉に思い出される中学二年の夏の記憶。
練習試合の最後、アディショナルタイムも残りわずか、フォワードが打ったシュートがポストにぶつかり俺のところまではじかれてきた。
シュートラインはフリーだった。
だから思わず、全力でシュートを放った。
それが人生での初得点、そして―――
『やった―っ! すごいタツタ!』
防球ネット越しから大きな声が聞こえてくる。
見ると興奮したレンコが俺の活躍を自分のことのようにはしゃいで喜んでいる。
それは俺が最後にデレた彼女を見た瞬間でもあった。
「――あの時は格好良かったよ」
「お、おう……」
俺を見るレンコの表情にドキリとした。
頬が種に染まり、にこりと微笑む彼女の表情は先ほどまで恥ずかしがっていたものとは違う。
それは触れたくなるような、触れてはいけないような。
独り占めにしたくなるような、そんな表情。
とたん、かちゃりとドアから音が聞こえた。
「え?」
「え?」
二人同時に変な声が出た。
今のがデレたということになったのだろうか。
俺は再び扉まであゆみより、ドアノブに手をかけた。
かちゃっと軽い音がして扉が開く。
扉の先には何もなかった。
ただただ暗闇が続くだけの世界がそこにあった。
『さあ、生きるものは、この先に進むように』
どこからか機械音声のような声が聞こえてくる。
誰かが監視していたのだろうか。
いや、この超常的な事態を察するにもしかすると『神様』とかそういう類のものも考えないといけないのかもしれない。
さすがにまさかとは思うけど、今のこの状態を見るにそういう類でなければ説明がつかない。
「レンコ、どうする?」
さすがに一人で進むわけにもいかないと、俺は扉の先を伺いながら、レンコに声をかける。
「私は、いけない」
「いけないってお前――」
突然背中から抱きしめられる。
予想外の行動に俺は少し困惑し、お化け屋敷を怖がる乙女キャラじゃないだろお前というツッコミは飲み込んだ。
レンコは震えていた。
「だって私、死んでいるんだもの」
「は……い? お前何を言っているんだ」
「覚えてないんだ……タツタは。いや、そっか、もしかしたら――」
ぶつぶつとレンコが何かつぶやいている。
何か嫌な予感がして、俺はレンコを腕を振り払い、彼女へ振り返った。
とたん、ドスンと予想外のタイミングで俺は衝撃を食らった。
レンコがおもいっきり俺を押したのだと気が付いた時には俺は闇の中に真っ逆さまに落ちていた。
「――おわぁぁぁぁ!?」
どうして、どうして、どうして!
混乱する中も、俺はじたばたと宙でもがく。
だが、そんな抵抗はむなしく、闇の中に落下する俺はどんどんと扉から遠ざかっていく。
「……ばいばい、大好きな人」
そうレンコの声が聞こえた気がした。
小さくなっていく光を見て、俺は、ただ彼女に手を伸ばすことしかできなかった。
光が捉えられなくなる。視界が闇に飲まれていく。
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そんな中、どうしても彼女の最後の表情がこびり付て離れない。
そう、あの時、彼女は泣いているように、俺は見えた。
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