さくらの花はおわりとはじまりをつげる花

かぜかおる

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さよなら①

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パチリ、と目が覚める。
すごくすっきりした目覚め。
ここしばらく無かったくらいに熟睡した気がする。

ベッドから降りて、軽く伸びをした後周りを見ればやはりサクラちゃんはいなかった。

サクラちゃんを探しに保健室を出て、階段をのぼる。
なんとなくだけど、きっと2階にはいない。そう思って、2階は確認せずそのまま3階までのぼる。

3階だからといって、特段作りは違わないようで一番端っこの、階段をのぼって右にある教室を覗き込む。

「サークラちゃんっ!」

呼びかけるも、この教室にはいなかった。
次に階段を挟んで隣の部屋を覗けば、そこにサクラちゃんがいた。

「おはよう、サクラちゃん。」

お行儀悪く、机に座って窓の外をぼんやりと眺めていたサクラちゃんは私に気がつくと、満面の笑みを浮かべながらこちらに振り向いた。

「おはようっ、吉野お姉ちゃんっ!」

サクラちゃんは、さらに背が伸びてもうほとんど私と変わらないまでになっていた。髪の毛は肩甲骨のあたりまで伸びている。
パタパタと駆け寄ってくる元気の良さは、最初に会った日のサクラちゃんを彷彿とさせた。

でも多分、それは違う。



いつの頃からか、ぱったりと2人の喧嘩する声が聞こえることは無くなった。
そして少し経つと、3人の笑い声や一緒に食卓を囲む姿すら見られるようになった。

2人は笑う、私の冗談に。2人は話す、私とだけ。

3人同じ部屋にいても、話すのは私とお父さんか私とお母さん。
3人同じ食卓を囲んでも、文字通り囲んでいるだけ、食べるものは私とお父さんが同じか私とお母さんが同じ。

2人は言葉も目線も交わさない。

そんな不自然な家族が出来上がっていた。
いや、もはや家族ではなく、二組の親子でしか無かったのだと思う。

それでも、3人が同じ空間で笑い合っているのが嬉しくて、仮初めの家族を感じていたくて、私は道化を演じるようになった。

明るく、元気な、優等生。いつも笑顔を浮かべて、場を盛り上げる、そんな女の子。



「ねえ、吉野お姉ちゃん今日は何して遊ぶ?」

瞳をキラキラと輝かせた笑顔で、そう尋ねてきた。

「ごめんね、今日は遊べないや。」

「え、なんで?」

「もう、帰らなきゃ。」

一瞬寂しそうな顔をした気がしたけど、すぐに困ったような笑顔を浮かべていた。

「帰っちゃうの?」

「うん。」

「どこに?」

その言葉に、ツキリと胸がいたむ。
サクラちゃんはじっと私の目を覗き込んでいた。

「・・・誰もいない暗い家?」

「ううん。」

「・・・喧嘩ばっかりのおうち?」

「ううん。」

「・・・お父さんとお母さんが目も合わせない場所?」

「ううん。」

「大きくて広い家?」

「ううん。どれも違うよ。」

「じゃあ、どこに帰るの?」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・狭い、お家だよ。」

「・・・」

「私が帰るのは、狭いお家。」

狭いとは言っても、3人で住んでいた一軒家に比べれば、だけど。

「2LDKのちょっと古い賃貸マンション。お母さんと私それぞれの部屋と居間とトイレと洗面所とお風呂があるお家。」

2人で住むには十分広い、小学校に入る前に住んでた部屋よりずっと上等で広い家。

でも、あの一軒家よりはずっと狭い家。

「・・・帰り、たいの?」

「ううん、帰らなきゃいけないの。」

「なんで?」

サクラちゃんの顔には、悲しそうな笑顔が浮かんでいた。

「だって・・・。」

一瞬口籠ってしまう。

「帰りたい訳じゃないなら、帰らなければいいじゃない。家族のいない家なんかに帰らなくてもいいよ。」

サクラちゃんの言葉は、それは、とても甘美なお誘いだけど。

「だって、家族は壊れちゃったから。もう元には戻らない、戻れない。」

「だったら・・・」

「だから、・・・だって、ここは私の居場所でも、帰る場所でもないでしょう。家族はいないけど、帰る場所はあそこなの。帰る場所があるのなら、帰らなきゃ。」

家に、家族を求めるから帰りたくなくなるのだ。
家に、家族を求めなければそこはただの帰る場所。

サクラちゃんは、唇を噛みしめこちらをじっと見つめている。
きっと、納得できないのだと思う。
私だって納得はしていない、気持ちの整理もついていない。

ただ、事実を事実として、受け入れただけ。

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