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いつか手放す愛
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翌朝、目が覚めて窓を開けると、手元でかさりと音がした。
見れば、手紙が挟まっている。
差出人の名前を見て、一気に目が覚めた。
読むべきか少し考えて、結局、手紙を開いてしまった。
【読んでくれて、ありがとう。リオン。急に手紙を送ってごめんね。でも、直接会って話しをするより、こっちの方が君への負担が少ないかなと思って、書きました。
君の人生に僕は必要ないのかもしれない。だけど、僕の人生には、君が必要なんだ。
君じゃなきゃ、駄目なんだ。
信じられないでしょうが、君と僕は親友で、恋人同士でした。
出会ったのは7年前。付き合い始めたのは、2年前でした。
君と出会う前の僕は、一人ぼっちでした。
家族もいる、友達もいる、でも僕を一番に想ってくれる人はいませんでした。
何でも持っているはずなのに。貴族で、他の人より恵まれている筈なのに、一番欲しい『特別な人からの愛情』というものを僕は持っていませんでした。
毎日、心のどこかに穴が開いているみたいに寒くて、寂しかった。
でも、そんな人生を変えてくれたのが、君です。
愛しています。君が僕を忘れていても、僕は君を忘れません。
もう一度、はじめからやり直したいんです。
僕の友達になってください。
好きになって欲しいとは言わない。優しい言葉も、愛情も、何もいらない。
ただ、そばに居たいんです】
手紙の内容を読んで、7年前、初めて出会った日に、ユーリが俺に言ったことを思い出す。
『じゃあ、僕の一番の友達になってよ、リオン』
『命令じゃなくて、お願いだよ。一緒にいて』
ユーリは、もう一度やり直そうとしているんだ。
何度忘れられても、また一から全部、積み重ねようとしてくれている。
俺は、このままでいいのか?
俺の決断は、本当にあいつを幸せにするのか?
ユーリのためと言いながら、結局俺は、自分が傷つきたくなかっただけなんじゃないのか。
いつか彼の愛情が尽きて、捨てられる。そんな未来を勝手に想像して、ユーリと向き合っていなかったのは、俺の方なんじゃないのか。
俺は、選択を間違えたのではないか。
今すぐ走り出したい衝動を抑えて、俺は手紙の続きを読んだ。
不穏な文字の羅列に、手に汗がにじんで、手紙の端が湿る。
【昨夜、南の方へ緊急出立命令が下りました。恐らく、数週間はそちらに戻れないかもしれません。
でも、必ず帰ります。だから、その時は、君の隣にいることを許してくれると嬉しい。
君を、愛しています】
俺は手紙の最後の文字を読むと、急いで身支度を整え、寮を後にした。
南部では今、職を失った大量の傭兵が反乱を起こし、要塞に立てこもっているらしい。
いわゆる攻城戦――今回の場合のような要塞攻略には、攻める側は守る側の3倍から5倍の兵力が必要とされている。
兵が必要ということは、それだけ要塞を攻めるのは難しいことなのだ。当然、被害も甚大なものとなる。
ユーリは軽い文体で書いていたけれど、死ぬ恐れだってある。
このまま、彼と二度と会えなくなったら?
捨てられることより、永遠に失うことの方が、何倍も、何百倍も怖い。
俺は、武器を管理する倉庫番に弓と剣、防具一式を準備させると急いで身にまとった。
今から全力で追いかけたら、ユーリの要塞突入に間に合うかもしれない。
あいつが散る時は、俺も一緒にいく。
もう二度と、一人にさせない。どんなことがあろうと、隣にいる。
馬を引いて裏門をくぐる直前、誰かに呼び止められた。
振り返ると、騎士が数人こちらを睨みつけている。その集団の中から、一人前に出てきた。
背が異様に高く、少し猫背ぎみの男――彼はたしか、ユーリと同期の騎士貴族、ジャレット・ルイスと言ったか。
ユーリの近くにいる俺に、いつも忌々しげな視線を向けてくるから、自然に顔と名前を覚えていた。
神経質そうな鋭利な面立ちで、こちらを明らかに悪意と敵意の混じった目で見下ろしてくる。
「お前。出立命令は下っているのか?武装して一人でどこへ行くつもりだ。命令書を見せろ。騎士はルールが基本だ。勝手な行動は許されない」
「命令ではありません。俺の意思で、とある人に会いに行きます。急いでいるので、失礼します」
「私用で行くと?平民のくせに。だいたい、お前のことは昔から気になっていたんだ。薄汚れた元傭兵のくせに、貴族騎士であるユリウス殿に近づき、馴れ馴れしく接するなど本来あってはならないことだ。分かっているのか。お前は――」
「なぁ、その話、長くなるか?」
さすがに苛ついて、俺はドスのきいた声で唸ってルトガーを睨み上げた。
「俺、今凄く急いでいるんですよ」
元傭兵なめるんじゃねぇよ。痛い目みたいか?――と瞳で訴えると、彼は口の端をひくりと動かして、一歩後ずさった。
そのわずかな瞬間で馬にひらりとまたがると、そのまま駆け出した。
門をくぐり、一気に加速する。
背後で「上に報告させてもらうからな!」という声が聞こえた気がしたけれど、聞こえないふりをした。
見れば、手紙が挟まっている。
差出人の名前を見て、一気に目が覚めた。
読むべきか少し考えて、結局、手紙を開いてしまった。
【読んでくれて、ありがとう。リオン。急に手紙を送ってごめんね。でも、直接会って話しをするより、こっちの方が君への負担が少ないかなと思って、書きました。
君の人生に僕は必要ないのかもしれない。だけど、僕の人生には、君が必要なんだ。
君じゃなきゃ、駄目なんだ。
信じられないでしょうが、君と僕は親友で、恋人同士でした。
出会ったのは7年前。付き合い始めたのは、2年前でした。
君と出会う前の僕は、一人ぼっちでした。
家族もいる、友達もいる、でも僕を一番に想ってくれる人はいませんでした。
何でも持っているはずなのに。貴族で、他の人より恵まれている筈なのに、一番欲しい『特別な人からの愛情』というものを僕は持っていませんでした。
毎日、心のどこかに穴が開いているみたいに寒くて、寂しかった。
でも、そんな人生を変えてくれたのが、君です。
愛しています。君が僕を忘れていても、僕は君を忘れません。
もう一度、はじめからやり直したいんです。
僕の友達になってください。
好きになって欲しいとは言わない。優しい言葉も、愛情も、何もいらない。
ただ、そばに居たいんです】
手紙の内容を読んで、7年前、初めて出会った日に、ユーリが俺に言ったことを思い出す。
『じゃあ、僕の一番の友達になってよ、リオン』
『命令じゃなくて、お願いだよ。一緒にいて』
ユーリは、もう一度やり直そうとしているんだ。
何度忘れられても、また一から全部、積み重ねようとしてくれている。
俺は、このままでいいのか?
俺の決断は、本当にあいつを幸せにするのか?
ユーリのためと言いながら、結局俺は、自分が傷つきたくなかっただけなんじゃないのか。
いつか彼の愛情が尽きて、捨てられる。そんな未来を勝手に想像して、ユーリと向き合っていなかったのは、俺の方なんじゃないのか。
俺は、選択を間違えたのではないか。
今すぐ走り出したい衝動を抑えて、俺は手紙の続きを読んだ。
不穏な文字の羅列に、手に汗がにじんで、手紙の端が湿る。
【昨夜、南の方へ緊急出立命令が下りました。恐らく、数週間はそちらに戻れないかもしれません。
でも、必ず帰ります。だから、その時は、君の隣にいることを許してくれると嬉しい。
君を、愛しています】
俺は手紙の最後の文字を読むと、急いで身支度を整え、寮を後にした。
南部では今、職を失った大量の傭兵が反乱を起こし、要塞に立てこもっているらしい。
いわゆる攻城戦――今回の場合のような要塞攻略には、攻める側は守る側の3倍から5倍の兵力が必要とされている。
兵が必要ということは、それだけ要塞を攻めるのは難しいことなのだ。当然、被害も甚大なものとなる。
ユーリは軽い文体で書いていたけれど、死ぬ恐れだってある。
このまま、彼と二度と会えなくなったら?
捨てられることより、永遠に失うことの方が、何倍も、何百倍も怖い。
俺は、武器を管理する倉庫番に弓と剣、防具一式を準備させると急いで身にまとった。
今から全力で追いかけたら、ユーリの要塞突入に間に合うかもしれない。
あいつが散る時は、俺も一緒にいく。
もう二度と、一人にさせない。どんなことがあろうと、隣にいる。
馬を引いて裏門をくぐる直前、誰かに呼び止められた。
振り返ると、騎士が数人こちらを睨みつけている。その集団の中から、一人前に出てきた。
背が異様に高く、少し猫背ぎみの男――彼はたしか、ユーリと同期の騎士貴族、ジャレット・ルイスと言ったか。
ユーリの近くにいる俺に、いつも忌々しげな視線を向けてくるから、自然に顔と名前を覚えていた。
神経質そうな鋭利な面立ちで、こちらを明らかに悪意と敵意の混じった目で見下ろしてくる。
「お前。出立命令は下っているのか?武装して一人でどこへ行くつもりだ。命令書を見せろ。騎士はルールが基本だ。勝手な行動は許されない」
「命令ではありません。俺の意思で、とある人に会いに行きます。急いでいるので、失礼します」
「私用で行くと?平民のくせに。だいたい、お前のことは昔から気になっていたんだ。薄汚れた元傭兵のくせに、貴族騎士であるユリウス殿に近づき、馴れ馴れしく接するなど本来あってはならないことだ。分かっているのか。お前は――」
「なぁ、その話、長くなるか?」
さすがに苛ついて、俺はドスのきいた声で唸ってルトガーを睨み上げた。
「俺、今凄く急いでいるんですよ」
元傭兵なめるんじゃねぇよ。痛い目みたいか?――と瞳で訴えると、彼は口の端をひくりと動かして、一歩後ずさった。
そのわずかな瞬間で馬にひらりとまたがると、そのまま駆け出した。
門をくぐり、一気に加速する。
背後で「上に報告させてもらうからな!」という声が聞こえた気がしたけれど、聞こえないふりをした。
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