【第一幕完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

葵井瑞貴

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~ 覚醒 ~

2話

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 薄く開いた窓から吹き込む風に乗り、手のひらほどの背丈の女性たちが部屋の中をたゆたうように舞っている。

 背にある半透明の羽がはばたくたび、星屑ほしくずのような鱗粉りんぷんがキラキラと散り、空気に溶けて消えていく──。

 きゃらきゃらと笑いながら飛び回る彼女らは、風の精〝シルフ〟。
 木のこずえ住処すみかとする妖精なので、おそらく屋敷の裏手に広がる森から来たのだろう。

 そこから下へと視線を移すと、日当たりのよいテーブルの上では三角帽子をかぶった親指サイズの小さなおじいちゃんが三人。身を寄せ合ってうたた寝していた。

 赤茶色の豊かな顎髭あごひげをたくわえた彼らは、家に住み着く〝ブラウニー〟という小人こびとだ。
 昼下がりのうららかな陽気に誘われ、こくりこくりと舟をこぐ姿がなんとも愛らしい。
 
 目の前にいる人ならざる者たちは、古来よりこのグランフェリシア王国に住まう〝妖精〟。
 彼らは人間が入植するはるか昔からこの地に根を張っていた、いわゆる先住民族とも言える存在である。

 しかし人間たちが王国を築き、武器を作り、国内外で争いを起すようになるにつれ、迫害を恐れた妖精たちは魔法で姿を隠すようになっていった。

 そんな妖精たちを認識するすべを持っていたのが《緑の民》。

 初代の民長は妖精たちとの共存を望み、決して彼らを傷つけないと妖精王に魂の誓いを立てた。
 その覚悟と信念が認められ、人ならざる者たちと交流する呪文と知恵を特別に授けられたのだ。

(ありゃ、本当に《緑の民》の呪文が使えちゃった……)

 ということは、あれはただの夢ではなく、セレスティアとして生まれる前の経験──いわゆる前世の記憶というやつなのだろうか。

 そんなことをぼんやり考えていると、床から小さな足音が聞こえ、次いで白い毛玉がぴょんとベッドに飛び乗ってきた。

 見るからにふわっふわで柔らかそうな純白の毛並み。
 小さな耳の生えた丸い顔に、つぶらな瞳は紫と金の神秘的なオッドアイ。
 身体つきはむっちりとしており、お世辞にも細身とは言いがたい。

 毛量が多いせいか、それとも単に短足だからなのか。
 四肢はほとんど見えず、丸くなって寝そべる姿はまさに──。

「しろたぬき?」

 思ったことをついポロッと呟けば、眠りにつこうとしていた白い毛玉の謎妖精がクワッと目を見開いた。

『なんですって? 白タヌキ? ちょいとお待ちなさい、このちんちくりん娘。まさかその言葉、アタクシに言ったんじゃありませんわよね?』

「わたし、ちんちくりんじゃないもん」

『アタクシだって、タヌキじゃありませんことよ!』

 じゃあ、なんの妖精なのだろうと首を傾げれば、白い毛玉の謎妖精は『ふんっ』と鼻を鳴らし、二本足で立ち上がった。
 腕を組むように前足を胸の前で重ね、もふもふの豊満ボディを揺らしながら短い足でのっし、のっしと詰め寄ってくる。

『いいこと、よーく、お聞き! アタクシはマリアベル・フワルンティ。夫は猫妖精ケットシー界の三大公爵家のひとつ、フワルンティ公爵家の前当主ざます! ミセス・フワルンティとお呼びなさい』

 どう見ても外見はたぬき寄りだが、正体は猫の妖精〝ケットシー〟だったらしい。
 失礼なことを言ってしまったと、セレスティアは居住まいを正して頭を下げた。

「まちがえて、ごめんなしゃい。みせ、みせしゅ、ふわりゅん……ふわるん……」

 どう頑張っても口がうまく回らない。
 特にサ行とラ行の発音がセレスティアは苦手なようだ。

 きちんと名前すら呼べず、さらに申し訳なくなって「ごめん、なさい」ともう一度丁寧に謝ると、マリアベルがふわふわの手でセレスティアの頭に触れた。

『マリアベルでいいわ。アタクシも、ちんちくりんなんて言ってごめんなさいね、セレスティア。仲直りしてくれるかしら?』

「もちろん! あれ? なんで、わたしのなまえ、しってるの?」

『アナタたち人間はアタクシたち妖精が見えていないでしょうけれど、こちらには丸見えですもの。……あら? そういえばアナタ、なぜアタクシが見えているんですの?』

 問いかけられたセレスティアは、前世の記憶と思われる夢の内容を打ち明けた。

 相変わらず発音はたどたどしく、何度も言葉がつかえてしまう。
 それでもマリアベルは急かすことも嫌な顔をすることもなく、真剣に話を聞いてくれていた。

 そしてそれは他の妖精たちも同様だ。
 
 宙をたゆたっていたシルフたちは静かにセレスティアの肩に止まり、日向ひなたでうたた寝をしていたブラウニー三人衆もベッドによじ登り、うんうんと相槌あいづちを打ちながら耳を傾けてくれている。

 すべてを話し終えると、妖精たちは自分のことのように傷ついた面持ちでうつむき、黙り込んだ。
 シルフとブラウニー三人衆はぴったりとセレスティアに寄り添い、マリアベルはこぼれた涙をそっと拭ってくれる。

「ねぇ、まりあべる。みどりのたみ、どうなったか、しってる?」
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