逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【京都・昇叙編】

090 勾玉

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「し、色情て……(どういうことっ?)」

 竹千代は目を見開く。

 色情て一体……!?
 いや……、そりゃ、イケメン好きだけどもさっ!?
 私誰も襲ったこと無いっすよ……?
 国千代じゃあるまいし……。

 そうは思ったが、こと・・の話には続きがありそうなので、押し黙る。


「あんたが興奮したり、情欲を感じるとっていうんかな? それが周囲に撒き散らされるんよ」


「ふぁーー!?」


 こと・・の言葉に、竹千代は口をあんぐりと大きく開けて素っ頓狂な声を上げた。


「その気ぃに当てられた人間は、あんたの虜になるわけや。人によるけど、大体の人間を意のままに操れるっちゅー代物やな」


「……んなアホな……」


 こと・・が腕組みし、にやりと片側の口角を上げると、竹千代は呆れ顔で呟く。


「阿呆なもんかいなぁ。うちも似たようなもんを持ってるんやけど、この気ぃってやつは、便利な反面厄介でなぁ」

「厄介……?」

「下手すると、扱う側も色狂いになってしまうんやわ」

「っ!?(色狂いって……、く、国千代……!?)」


 こと・・がゆったりとした口調で説明してくれるのだが、竹千代の脳裏には、以前国千代が大奥に来た坊主と襖の開いた部屋で致していた光景が浮かんでしまう。

 それはもう堂々としたものだった。
 国千代は、竹千代が見ていることを知っていて、身体を坊主に弄られながら勝ち誇ったように彼女に向けて嘲笑を送ったのだ。
 竹千代はただびっくりして目を見開いて見ていたが、その時はただただ。


(やべぇな……、あいつ……。おっさんとやってるわ……って、お坊さんそこそこイケメンだけどもさ……。でもなぁ……、犯罪じゃない?)


 相手との歳の差が一回り以上離れていそうだったことから、もっと自分を大事にすればいいのに、と国千代に憐れみの目を向けていたのだが、彼女は気付かず「あんあん」である。
 もちろん国千代の色事はそれだけではなかった。
 自分が見たわけではないが、出入りの商人とも関係しているという噂もある。


 まだあの子、十にも満たないんですけど……!?


 そんな出来事が何度も続いて、竹千代は心配していたのだが父も母も程々にと言うだけで、止めもしない。
 おかしいなとは思っていたが、それがまさか特殊な血の所為だったとは思い至るわけもなし。
 竹千代も大奥内に惹かれる男がいなかったわけではないが、福が彼女の回りを歳の近い童子小姓で固めていたために、に気付かず済んでいたのだ。

 その事実に行き着き、竹千代は驚いて口元を手で覆うのだった。


「……心当たりあるやろ?」

「っ……、で、でも私はそんなこと……」


 こと・・に流し目をされて、竹千代は躊躇いがちに瞳を伏せる。


「せやねぇ、あんたは何でか今まで目覚めてへんねぇ? 理性が強いんかな? 本能やからねぇ。大人でもない限り、わりと早う目覚めるもんやけどなぁ?」

「っ(な、中身が大人なので……っ!!)」


 こと・・がちらちらと、こちらを窺うような視線を送りながら告げると、竹千代は言葉を詰らせるのだった。


 私、中身は大人なのよ……!


 ……とは言えないよなぁ……。


 竹千代の顔はこと・・に悟られまいと、自然と愛想笑いを浮かべてしまう。


「けど、そろそろ歳も歳やし疼いてくるはずやわ……?」


 不意にこと・・の瞳が妖しく光る。


「……う、疼く……?(な、何、それ、疼くって……あっちのこと!?)」


 突然艶のある視線を送られて、たらたらと。
 竹千代の額から冷や汗が頬を伝い顎から滴り落ちて衿を濡らした。


 疼くって……。
 か、身体のこと……、よね……?


 そりゃあ、竹千代になる前は立派なアラフォー女性だったから?
 それなりに性欲もあったし、一人エッチなんて日課だったわよ?
 数々の大人のおもちゃ恋人達と楽しんだわよ。


 けど、今は、ねぇ?


 ……昼間は小姓の子達と勉強にお稽古、夜は身体が子供だから疲れてすぐ寝てしまうし、常に誰かが傍にいるからそれどこじゃないっつーの……!!

 忙しくてそんなことしてる暇がないっ、というのが本音なんだな、これが。

 今は部屋の移動合間にイケメンを眺めてうっとりするくらいで、福に何だかんだと邪魔されるから触れないし、夜にふと起きても、すぐ傍に見張りが居るから自慰もままならないわけで。


 私、さすがに国千代みたいに人前でも平気でするとか無理だしっ!


 羞恥心っていうの……?
 私にだってそれくらいあるのよ。


 一人エッチは好きよ。
 でも、ここじゃそれは至難の業なんだよ……。


 物理的にさ。


 ……そんなことを考えていると。


「……さっき久脩に色目使ってたやんか? ええ目付きしてはったよ?」
「そ、そんなつもりは……(ただ、身体が熱くなった気がしたってだけで……)」

 こと・・に囁かれちらりと、自然と上目遣いになった竹千代は久脩を盗み見る。

 すると。


「…………ん?」


 竹千代の視線に気付いた久脩が目元を緩めて、穏やかに微笑んだのだった。


「っっ!!」



 どっくんっ! と。



 一際大きな鼓動が心の臓を叩いたと同時、竹千代の頬が真っ赤に染まる。
 竹千代の視線は久脩の目元ではなく、唇と咽喉仏、厚い胸板、そして骨ばった大きな手に注がれていた。


「はぅぅっ!? 何で何で……!? 私の身体、おかしいっ(あの手に触れられたい、あの薄い唇から名前を呼ばれたい、抱きしめられたいっ! ……なんてことっ!?)」


 竹千代は頭を左右に振って身を縮めるように身体を震わせる。


「……やっぱ始まってるみたいやな。久脩、飲ませたり」
「はい」


 こと・・が、久脩の胸元を手の甲で“とんっ”と軽く叩くと、久脩は先程手にしていた勾玉を竹千代に差し出した。


 とくとくとくとく。


 久脩に見られていると思うと、竹千代の鼓動がせっついて忙しなくなる。


「ぁ……。な、何……?(久脩さんに見つめられると、身体が熱くなる気がする……。脈も何か早……)」


(動悸が……っ、ぎゃーっ!? まさか、これが疼きっちゅーやつですか!?)


 竹千代は逸る鼓動と熱くなる頬に戸惑い、久脩を直視できずに視線を逸らすのだった。


(目を合わせなきゃ平気よ、平気……)


 竹千代はなるべく遠くを見るように、中庭の白洲を心を無にして眺めようと努めるのだが……。


「こちらを口の中にお含み下さい」


(っ、あう、ダメだ! イケボ過ぎて私には無視できんっ!!)


 久脩の声につい視線を戻し、彼を見上げてしまうのだった。

 そんな竹千代の様子などお構いなしに、久脩が親指と人差し指で長さ約一寸(約三センチ)程の勾玉をつまみ上げ、彼女の口元に近付けてくると、瞳にじわりと涙が滲み揺れる。


「え……っ、すごい……。そんな大きいの……、入らない……」


 そして、竹千代の鼓動がどくどくどくと先程よりも強く波打つと、身動きが取れずに久脩をただ見つめていた。


「お、大きいの……、ですか……(はは……、何だかいけないことをしている気分になりますね……)」


 竹千代の言葉に他意は無かったが、赤い顔で恥ずかしげに告げられた久脩は息を呑んだのだった。
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