逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【新妻編】

136 告げ口に甘い顔

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「……福、やり過ぎだよ……。結婚したわけだし……私だってもう子供じゃない。女だってこと自覚してるのに……。めっちゃ怖かったんだよ……?」


 春日局を見上げ訴える家光の首筋、寝間着の襟の奥、腕に赤い鬱血がちらほらと。
 そして、縛られた痕が手首にくっきり。

 痛々しい姿に春日局が唇を引き結ぶ。


「……………………っ、私の想像を超えていたようで……」

「……他人は自分の思い通りには動かないよ……?」


 家光に云われ、先程まで不快そうな顔をしていた春日局の表情が能面のように ふっと消えた。


「……そのようですね。……孝様には二度とこのようなことが無い様、私からよく言って聞かせます。再教育も致します」

「え?」

「暫く孝様には御目見えに出られないようにも致しましょう」

「福……! 本当!?」


 ――やった! 言ってみるもんだね!


 春日局の発言に家光の表情が明るくなる。


「……ええ、これは想定外です。私は決して貴女を傷付けるためにああした訳では御座いません」

「福……!」

「怖かったでしょう? 暫し心と身体を休め、その後で御世継ぎを宜しくお願い致します」


 家光の瞳が見開かれると春日局は家光の頬に手を伸ばし、そっと優しく触れた。
 彼は目元を緩める。
 最近はあまり見なくなった、幼い頃によく見た優しい眼差しが家光を見つめていた。

 普段は無表情で何を考えているのか解らない男ではあるが、家光には時折甘い顔をする。
 家光が生まれてからもう十八年経っているが、髪が伸びた以外その姿に変化は見られない。相変わらず年齢不詳のいい男である。


「っ……、あ、そこは変わらないのね」


 ――は~、やっぱ福ってイケメンだわ……けど世継ぎて……ブレないな……!


 家光は優しく頬を撫でて来る春日局に安堵し“ふふっ”と吹き出した。

 昨晩の出来事を洗いざらい話したからか、随分とすっきりした気がする。
 春日局が再教育をすると云ってくれたからか、不思議と安心出来た家光だった。

 何だかんだで家光は春日局を信用しているのである。


「御世継ぎは大事ですからね」

「……世継ぎねえ……」

「……孝様とは必要御座いませんので、御側室と励んでいただければ……と」

「励む……」


 春日局が今度は家光の頭を撫でながら言い含めるように告げると、家光の眉間に皺が寄った。


 ――励むって……あれか、そりゃそうか……、私が産まないといけないんだもんな……。


 男女が逆転しているこの世界でも、子を産むのは女しか出来ない。

 家光は自分の知っている正史で徳川家光に何人もの子が居たことを知っている。
 恐らく自分も産むことになるのだろう。

 そう考えるとまだ処女なのに……と、憂鬱になってしまう。


「只今御側室の選定を進めております故、今暫くお待ち下さい」

「側室の選定か……、せめてイケメンだといいなぁ……」

「いけめん……ですか?」

「あっ、二枚目?」


 家光が上目で春日局を見上げると、春日局は“ふぅ”と眉根を寄せた。
 撫でていた家光の頭から手を放し、姿勢を正す。

 そして、家光を真っ直ぐに見据えた。
 お仕事モードの顔である。


「……家光様、差し出がましい様ですが、御側室は顔の善し悪しで選定しているわけでは御座いません」

「え、そうなの?」


 ――でも、イケメン率高くない?


 江戸城に勤める者達は家光調査によると、七割がイケメンと認識している。
 普通の男や不細工なんかもたまに見掛けるが、それでも皆明るく愛想の良い男達が多い為、酷い不細工は居ない気がした。

 自分はルッキズムだ! とまでは言わないが、家光はイケメン好きである。
 出来れば、側室が自分好みならいいのになと願わざるにはいられない。


「優秀な子種を提供出来る男性を……と考えております」

「優秀……? 何だか曖昧な言い方ね」


 家光は春日局の云う所の“優秀”が何を指しているのかがわからない。


「同じ種ばかりで早世されても困りますからね。子種の種類は多ければ多い程好い」

「……そっか」


 春日局の言葉に家光は何となく納得した。

 以前座学で習ったことだが、江戸では出生数は多いが生まれてすぐに亡くなる子が多いと聞く。
 現代のようにワクチンや薬などが無く、衛生面もあまり良くないからなのだろう。

 運良く幼少期を越えられたとしても、成人するまで育たないケースもある。
 家光自身も幼い頃、治ることはわかっていたが熱をよく出し何度も死に掛けたわけで。


 それでは人口が増えることは難しい。
 ではどうするか…………、


 多くの子を産むしかない。


 一般の民には種違いを産む……ということは現実的ではないのかもしれないが、将軍にはそれが可能なのである。


「……家光様のお好みと合致するかは存じ上げませんが……、中々良い男が集まっております故、お楽しみに」

「っ……お楽しみにって……、も、もぉ……!」


 春日局がふっと口角を上げてほくそ笑むと、家光の頬が赤く染まった。
 家光の頬が赤く染まった途端、春日局の上げた口角が引き結ばれる。


「…………ですから、家光様」

「ん?」

「……正勝にはくれぐれもご注意下さい」

「へ? 正勝? あ、旅の最中もそんなこと言ってたね」


 春日局の言葉に急に何の事かと、家光は首を傾げた。

 正勝は確かに自分を慕ってくれているが、家光は兄のようなものだと思っているわけで、春日局の云うような心配など全くないはず……。

 春日局が何をそんなに警戒しているのか、家光には今一ピンと来ない。


「今回あれ・・は貴女をお助けしなかったようですね」

「あ……うーん。やっぱ出世したいんだろうね」

「出世……………………ええ、そうです。出世したいのでしょう」


 家光が出世・・と口にすると、春日局は少し間を置いてから頷く。
 そんな僅かの間に気付かない家光は腕組みをして“ふぅ”と溜息を吐いた。


「だよねぇ……。私の小姓だったわけだし、これからどんどん活躍していくんでしょ?」

「そうです。正勝は今後妻を娶り、出世していきます。そして家光様の腹心の部下として永くお仕えする身」

「そうよね。助けてくれなかったのはちょっと哀しかったけど……、福も手出し無用って言ってたわけだし? まあしょうがないよね。はは……」


 ――出世が掛かってたらそりゃ、助けないよね……!


 命が懸かってるわけでもなし、初めては好きな人と……というのは家光の我儘である。
 正勝にがっかりするのはお門違いというもの。

 わかってはいるが、思いの外落胆している自分に家光は愛想笑いを浮かべていた。
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