逆転!? 大奥喪女びっち

みく

文字の大きさ
142 / 310
【新妻編】

141 富士見櫓を後にして

しおりを挟む

 家光の瞳が興味あり気に輝くと、春日局から嘆息が漏れ出る。


「椿……、言葉遣いがなっていない」

「っあ、ごめんなさ……あ、申し訳御座いません……! 椿は江戸城下の貧乏長屋に住んでいた身でありまして……」


 春日局に窘められた椿は慌てたように頭を下げると自己紹介を始めるのだが……。


「身の上話は必要ない。薊のように果たせることのみを話せ。それと、家光様の自称は“私”だ」


 ぴしゃりと春日局に冷たく指導を入れられてしまった。


「あっ、はい! 家光さま、椿……あ、私は薊さんのように政はからきしですが、今勉強中です。椿……あ、私は薊さんより家光さまに似ておりますから、何かしらのお役に立てるかと思います。いつでも気軽にお呼び下さいませ。どうぞよろしくお願いしますっ!」


 椿は頭を下げつつ、何とか言い切ると深々と座礼してから顔を上げる。

 椿は自称を“椿”と自らの名で呼び、言葉遣いも少々幼く感じた。
 年齢はわからないが、同い年……もしかしたら家光より年下なのかもしれない。

 面を上げた顔にはあどけなさが残る笑顔。
 昔の自分を見た気がして家光はほっこりした。


「……よろしくね、椿ちゃん(可愛いなこの子……)」

「あっ…………はいっ、家光さまっ!」


 この子なら仲良くなれそうだなと家光は目を細める。つい“ちゃん”付けで呼んでしまった。
 家光に呼ばれた椿は嬉しそうに破顔していた。


「……椿はまだ少々指導が行き届いておりませんが、後に家光様の良い影武者となると思います。二人の内どちらかを適宜お使い下さい。こちらでも必要な場合に使用致しますが、お使いになられる際は風鳥、又は月花、そして正勝にお申し付け下さいませ」


 家光が黙って頷くと、春日局は続ける。


「お前達もよいな?」

「「はっ!」」


 風鳥、正勝の返事が聞こえ、天井から『は~い!』と月花の声も聞こえた気がした。


「…………月花も言葉遣いがなっていないようだな……。まだ教育が必要か……」


 春日局は天井を見上げ“ちっ”と舌打ちをする。


『……っ、はいっ!』

「…………宜しい」


 天井から今度ははっきりと返事が聞こえ、春日局は満足したような笑みを浮かべた。


「……それでは家光様、本日はご足労頂き有難う御座いました。我々は残って少々話が御座います故、これにて失礼致します。お気を付けてお戻り下さいますよう……」

「うん、わかった。じゃあ戻るね」


 春日局が頭を下げると薊、椿がそれに続き座礼する。
 そんな中、家光は立ち上がっていた。

 正勝、風鳥も座礼していたが、すぐに顔を上げ立ち上がる。



「…………いえみ」「家光様」


 出入り口近くの正勝、風鳥の近くまでやって来た家光に正勝は一瞬声を掛けるのを躊躇い出遅れ、風鳥が彼女に声を掛けていた。


「ん?」

「城下を見下ろさなくて宜しいのですか? ここからは富士が臨めるとか……」


 風鳥は家光が好きそうだなと勧めてみたのだが、家光は首を縦に下ろす。


「うん、福達まだ話があるみたいだから邪魔すると悪いし、今度にするよ」

「そうですか。……では参りましょう」


 正勝をその場に残し、家光と風鳥はさっさと歩いて行ってしまった。
 その後を正勝も追おうとするのだが。


「ああ正勝、お前も残るように」

「っ、はっ……!」


 春日局に引き留められ、家光に向いていた足の方向を変え部屋に戻る。


『風鳥私が景色見たいってよくわかったね!』

『……家光様がお好きそうだなと思いまして』

『ふふふっ、そうなんだ! そういや、上に月花が居たんだね!』

『はい。いつもどちらかは付いておりますよ』

『そうなんだね~! 頼もしいねっ! …………――…………――…………』


 家光達が楽し気に語らいながら去って行く声が背に届き、正勝は眉根を寄せていた。









 さて、富士見櫓を下りた家光と風鳥だったが……。


「振ちゃんが見当たらないなぁ……どこに行ったんだろ……」


 家光が辺りを見回すが振の姿が見当たらない。
 周りには草木が植えられており、見通しが良いとは言えないので、散歩しているのだろうと暫く待つことにした。

 そんな時、風鳥が声を掛けて来る。


「なあ家光」

「ん?(呼び捨て……あ、二人きりだから?)」


 家光は柔和な顔で風鳥を見上げた。
 こうして気安く呼んでくれるのは風鳥と月花くらいなので、かなり嬉しい。


「……振殿とは仲が良いのか?」

「え? あ、うん。最近仲良くなってね。振ちゃんて同性同士って感じがして楽っていうか……」

「ふーん……。同性同士って……振殿は男だけど……?」


 ――振殿は家光を見る時、優しい顔をしている……あれは好きな女にする顔だ。


 風鳥は家光と振が仲が良いのは知っていたが、家光の振に対する感情がどんなものかと訊いてみたかったのだ。


「風鳥みたく威圧してこないし?」

「威圧? ……俺威圧してるか?」

「ふふっ、どうかな?」


 風鳥が首を傾げると、家光は上目遣いに にっと口角を上げる。
 挑発するような微笑みに風鳥の頬がほんのり色付いた。


「っ、可愛い顔して……、接吻すんぞこら」


 風鳥は家光の頬を掴み、口を窄めさせると家光に迫る。


「ちょっ、な、何急に……!?」

「あんた、あの日孝様と未遂だったろ……?」

「っ、知ってたの!? って、そっか……風鳥もあそこに居たんだもんね……?」

「っっ……!(ヤベッ)」


 家光が目を剥くと風鳥は はっと口元を手で覆った。


「居たくせに、助けてくれなかったんだ……」


 ――正勝といい、風鳥といい私のこと好きな癖にあんまりじゃない……!?


 “口だけだったのか!”と、家光は下唇を噛み締める。


「…………悪いな。俺も雇われた身だ。俺の仕事はあんたの命を護ること。孝様があんたを殺すとは思えなかったし……夫婦の閨に割って入るのも無粋だろ?」

「……あ。……そ、そっか……、風鳥は私の護衛だもんね……。命の危険と操の危険は別ってことか……(それならしょうがない……のかなぁ……??)」


 風鳥の言葉に家光はどうにか納得しようと眉を顰めた。
 正勝もそうだったように、風鳥にも立場があるのだ。


 ――初めては好きな人と……って、私が我儘なだけなんだね……。


 もしかしたら処女に拘るあまり、周りに迷惑を掛けているの……?
 けど、政略結婚してやってるんだし、それくらい良くない!?
 子供だって産まされるわけでしょ? それくらい良くない!?


 家光の心の中で葛藤が繰り返される。
 初めてだけは どうしても譲れそうになかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【美醜逆転】ポジティブおばけヒナの勘違い家政婦生活(住み込み)

猫田
恋愛
 『ここ、どこよ』 突然始まった宿なし、職なし、戸籍なし!?の異世界迷子生活!! 無いものじゃなく、有るものに目を向けるポジティブ地味子が選んだ生き方はーーーーまさかの、娼婦!? ひょんなことから知り合ったハイスペお兄さんに狙いを定め……なんだかんだで最終的に、家政婦として(夜のお世話アリという名目で)、ちゃっかり住み込む事に成功☆ ヤル気があれば何でもできる!!を地で行く前向き女子と文句無しのハイスペ醜男(異世界基準)との、思い込み、勘違い山盛りの異文化交流が今、始まる……

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...