逆転!? 大奥喪女びっち

みく

文字の大きさ
147 / 310
【新妻編】

146 正盛と重澄

しおりを挟む

 正盛まさもり重澄しげすみの二人はどうも家光に心酔しているらしい。

 初めて会った日から正盛と重澄の家光を見る目はおかしかった。同性だというのに二人の瞳孔は開きっぱなしで、家光に憧憬の眼差しを向けていた。

 彼女達は家光よりも年下ながら明るく頼もしい娘達で、おもての仕事だけでなく、毎日ではないが着物の脱ぎ着や食事の世話等々、何かと家光の世話を焼いている。
 正勝が居なくても彼女達のお陰で困ることが何もなかったほどである。

 正盛と重澄は共に与えられた仕事が嫌な仕事であっても前向きに取り組むので、家光は“真面目な娘達だなー”と思っていたのだが。


 ……はて、今日の仕事はどうしたのだろうか……。


(というか、家光影武者が城に居るというのに何故ここに……? って、あっ……あれは……!!)


 今日家光が城下に行くことを知っているのは春日局、影武者の椿、正勝。そして護衛である風鳥と月花だけのはず。

 家光は正盛から少し離れた場所に重澄も見つけてしまい、首を捻っていた。
 正盛のいる所には重澄も一緒に居ることが多い。


 “やっぱりあの二人一緒なんだ……”と家光はくすり。吹き出した。


 重澄も正盛同様、家光と目が合った気がしたのか建物の陰に身を隠す。


「…………振ちゃん、私達 監視されてるみたいよ?」

「え……?」

「逃げよう!」

「あっ……、家光さまっ!?」


 家光は振の手を取り、その場から走り出した。




 家光と振が逃げ出した途端、離れた場所で「あっ!」という二つの声が重なり正盛と重澄が互いの声に顔を合せると睨み合う。


「……っ、堀田殿、お仕事はどうされたんですか……!? 家光様のお傍に居られなくて宜しいのですか? 今日なら独占できますよ……?」


 重澄がにやにやと唇を歪ませ正盛に城に戻るよう促してくる。
 それに対し、正盛もニィッと笑みを浮かべた。


「ふ。何、ぼくは今日は城下にお使いを頼まれていてね……。ついでに美味しい団子屋にでも寄って行こうと思っていたところだよ」


 ……つい先日、家光に城下でお薦めの茶屋か何か知らないかと訊かれて答えていた正盛は、家光が城を出る所を今朝偶然見つけ後を付けて来ていたのだ。

 恐らく家光は自分の教えた団子屋へと行くはず……、と踏んで先回りすることにし踵を返す。
 無闇に捜し歩くより、先回りした方が確実だと思ったからだ。


「なっ……奇遇ですね! 丁度私も団子が食べたいと思っていた所なのよ」


 重澄は最初からそっちに行くつもりだった……とでも言うように正盛の後ろに続いた。
 重澄も出勤途中に家光を見掛け、こっそり後をつけて来ている。

 家光しか見ていなかった所為か、今日こそ正盛を出し抜いたと思ったのに すぐ傍に居たとは気が付かなかった……。
 重澄は正盛の嗅覚の鋭さに苛立ちを覚えた。

 走り去った家光を追うこと無く、彼女を慕う正盛が自信満々に茶屋に行くというからにはきっと裏があるのだろう。
 いつも正盛が一歩先を行っている気がして、重澄は面白くなかった。

 正盛の物言いと態度に家光にまた会える気がして、正盛に「ついて来ないで下さい」と云われつつもついて行った。




 ……実は正盛と重澄は家光がお披露目された日、一目見るなり愛慕の情を抱いてしまったらしい。

 決定打は次の日。

 家光の部屋で仕事中、互いに足が痺れてしまい恥を忍んで申し出た所、家光は優しく「二人共、楽にしていいよ」と声を掛けていた。
 国松派の者達から予め家光の悪い噂を聞いていた二人は、実際には全く違った家光彼女にすぐ嵌ってしまったという。


 家光とは同性同士だが彼女達にはそんなことはどうでもいいようで、

 家光が幸せならば。
 家光の助けになるならば。
 家光の傍に居られるならば。

 ……そんな想いで二人は家光が正室や側室と上手くいくよう、見守ることにしたのだった。

 もちろん、身の安全も保障したい。
 自分達の方が年下なのだが家光は愛する人で庇護対象者なのである。
 その共通認識の下、正盛と重澄は今日こんにちの家光と振のデートを見守っていたのだ。

 ただ問題は……同じ小姓同士は気に入らなかった。
 正盛と重澄は馬が合わないのである……。

 表立っての喧嘩はしないが、互いに ちくちくと嫌味を言い合う程には仲が悪かった。


「ふふふっ、酒井殿。そこの団子屋が人気のようですよ?」

「そうですか! では私はこちらで……、って堀田殿はどちらへ!?」


 正盛と重澄の二人が一軒の団子屋の前に差し掛かると、その団子屋は まだ店が開いていないにも関わらず人々が列を成していた。
 正盛はその列の最後尾に並ぶかに見えたが、重澄を置いて歩き出す。


「え~、ぼく? ぼくはもう少し歩こうかと……」


 ――家光様にお教えした団子屋は別の団子屋なのですよ……ふふふ。


 正盛は顔の横で軽く手を振って「では~」と優美に笑みを浮かべていた。


「っ、わっ、私も……!!」


 重澄は置いて行かれまいと、正盛の後を追い掛ける。


 “ちっ。”


 小さな舌打ちが聞こえ、二人は長蛇の列から離れ歩き出した……。




 そんな正盛と重澄の愛慕の情など知りもしない家光はといえば……。









「はぁっ、はぁ……。ここまで来れば……」


 ――よし、撒いた!


 橋の側、土手を下り河原までやって来た家光は後ろを振り返り、辺りを見回す。
 そこに正盛と重澄の姿はなく、家光は安堵し 走ったことで掻いた汗を拭った。

 ……のも束の間。


「はぁ はぁ……っ……はぁ、はぁ……い、家光さま……はぁ、はぁ……」

「振ちゃん……?」


 共に走った振の息遣いが随分と荒々しく、息苦しそうだ。
 家光は振の様子を注意深く窺う。


「はぁ、はぁ……」

「振ちゃん大丈夫!? 顔色が……!(真っ青!!)」

「はぁ……、す、すみません……。その……久しぶりに走った、もの……、で……」


 家光が振の頬に触れるがその顔は普段よりも病的に青白く、目も虚ろだった。
 ドサリ、と振は膝から崩れ落ち、家光に寄り掛かるようにしてその場に倒れ込んでしまう。

 家光は何とか彼の身体を支えるものの、華奢に見えても振は男である。
 その身体は ずしりと重かった。
 それでも振は何とか自身で身体を支えているのか、まだ受け止め切れる重さである。


「っ、振っ! しっかり……! 今人を呼んで来るから……!」

「はぁ、はぁ……、すみません……、し、ばらく……はぁ……、こうしていれば……治る、か……と……――――」


 家光が声を掛けるものの、振の瞳は閉じていく。

 ……そして振は意識を失い、辛うじて踏み留まっていた身体の重みが全て家光に掛かってしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。

具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。 ※表紙はAI画像です

処理中です...