逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【新妻編】

148 切腹……!?

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「あっ、振ちゃん、急に起きちゃダメだよ!?」


 ――振ちゃん何かしたっけ……?


 振の突然の土下座に家光は面食らってしまう。


「っ、いえっ、申し訳御座いません……! 家光さまの前で倒れるなど武家の人間としてあるまじき行為。私が倒れている間、家光さまの御身に何かあれば取り返しのつかない所でした……!! 必要とあらば今切腹を……!!」


 未だ身体のだるさが多少残ってはいるが、主君の手を煩わせた罪は贖わなければならない。
 それくらいなら出来そうである。

 “確か、この押入の中に……”

 振はふらふらと もたつく足で静かに立ち上がり、部屋の押入に入った布団の底を漁った。
 そこには護身用の短刀が置かれているのだが、振は勝手知ったる寺故、知っているのだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 振ちゃん!? それっ!?(刃物じゃん!)」

「振殿、何を……!?」


 振の突然の行動に家光が声を上げると同時、風鳥は動き出していた。
 振は押入から取り出した短刀の鞘を引き抜こうと握っている。


(ちょ、振ちゃん何をするつもり……!?)


 家光は何事かと目を見開いた。


「今、切腹を……!」


 今にも引き抜かれようとする鞘から刃が光るのが見えたが、振の手の上から風鳥の手が覆い被さり抜かせないように留めている。


「振殿! 早まらないで下さい! それを抜いてはなりませんっ!!」

「っ、ですがっ、私は……!」


 風鳥の険のある声が部屋に響いた。
 振は短刀を引き抜こうとするが風鳥の力は強く、互いの力が拮抗する。

 ……振も男である。
 風鳥の力の方が強いのは押さえられて直ぐに解ったが負けたくなかった。


「っ……それを家光様の前で抜いてはなりません……! 洒落じゃ済まなくなりますよ……!!」

「っ、ですがっ、私は家光さまの前で醜態を晒した愚か者です……!」


 風鳥と振が家光の前で睨み合う。
 そんな中で家光は駆け出していた。


「そんなの気にしてないよぉっ!!」


 ――目の前で切腹なんて見たくないっ……!!


 家光が振の後ろからタックルさながら抱きついて叫ぶ。


「……っ、……家光さま……?」


 抱きつかれた振は虚を衝かれ、自らの背後に目線を流した。

 家光は必死に振を止めようと抱きつく腕に力を込めている。
 その必死さは、今は振だけに向けられたものであった。


 ――家光さま……、こんな私を……心配して下さっているのですか……?


 目蓋を硬く閉じ「だめ、だめっ!」と訴える家光の声が背中に響いて、まさか彼女が止めに入るとは思わなかったのだろう、振の瞳は動揺に揺らいでいた。

 その間隙を縫い、風鳥が「御免!」と振の手元に素早く手刀を入れる。


「ぁっ……!」


 振の手首に強い痛みが走り、小さな声を上げた時には既に短刀は畳に落ちていた。
 落ちた短刀は僅かばかり中の刃が見えたが、引き抜かれることなく直ぐ様風鳥によって拾い上げられ元の鞘。

 そのまま風鳥は静かに元の位置押入へと向かう。


「っっ…………」


 振は叩かれ赤くなり始めた手首を擦った。
 気まずいのかそのまま黙り込んでしまう。


「鞘を抜かなくて良かったです。家光様の御前で出してしまうと謀反を疑われるところでしたよ?」


 風鳥が押入の布団の底へと短刀を持った腕を差し入れながら振を窺うと、振は頭を左右に振る。


「な……!? 滅相もない……! 私は自らの命を捧げる覚悟で……!」


 振は言い返していた。

 家光を傷付けるつもりなんて全くない。
 自分の失態のけじめを付けたいが為に起こした行動なだけである。

 ところが振の言い分を聞いた風鳥は短刀を仕舞い終え、振の元へとやって来て冷ややかな目で彼を見下ろした。
 そして その冷たい瞳同様に、抑揚のない声で静かに話し出す。


「……振殿。貴方が死ぬのは構いません。ですが、家光様の御前で切腹はお止め下さい。死ぬならどうぞ お一人の時に。古那殿や春日局様のお立場もお考え頂ければと存じます」

「ぁっ……、申し訳ありません……。そこまでは頭が回っておりませんでした……」


 風鳥にたしなめられ、振は はっとした顔を見せた。

 確かに、主君に望まれたわけでもないのに、御前で刀を抜く行為は謀反を疑われても致し方ない。
 そのつもりが無かったとしても親族である古那や、自分を大奥に入れてくれた春日局の立場が悪くなる可能性も否めないではないか。

 普段から家では役立たずと云われている身分で、恥の上塗りをする所だった……と振は再び膝を着いて平伏そうとしたのだ、が、出来なかった。


「振ちゃん……」

「ぁっ、……い、家光さま……」


 そう、振は今、家光に抱きつかれており、彼女は未だ離れてはいないのだ。


「……振ちゃんごめん。私が走らせたから倒れちゃったんだよね?」


 家光の声が振の背に沁み込んでいく。
 振は黙ったまま、今更ながらに硬直してしまった。
 そして徐々に頬に赤みが差し、振は俯いてしまう。


「ぃ…………、ぇと……」

「……ごめんね」


 ――振ちゃんて……やっぱり男の人なんだね……、細身だけどいい身体してる……着痩せするタイプ……? せっかくだからもう少し堪能しててもいいかな……?


 家光は心配を装いながらも、抱きしめた振の背に片頬を寄せた。
 たまに月花とハグしたりするが、振は見た目は女性に見えても月花のように柔らかくはない。


「っ、いえっ、これは そもそも私の身体が弱いからで……!」

「……これは私の責任だから……振ちゃんは何も悪くない。切腹なんてしないでよ……」


 ――イケメンの切腹シーンなんて見とうないわっ……!


 振が口を開くと、声の振動が家光の頬に伝わった。
 彼の声は慌てているようだが、家光を振り払おうとはしない。


「ですが……、家光さまにご迷惑を……ここに来るまで重かったでしょうに……」


 ――家光さま……、


 このまま……どうか、このまま……と恋い慕う女からの抱擁に、振が胴に回った家光の手に触れようとする、と。


「いいんだよ、振ちゃん。ここに運んだのは私じゃないし」


 ――振ちゃんて真面目だなぁ……。


 躊躇う様に告げた振に家光は彼の身体から手を放し、あっさりと離れてしまった。
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