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【新妻編】
176 和解
しおりを挟むイケメンの顔が崩れたその様子に家光は身を守っていた腕を解き、今度は腕を組む。
そうして背筋を伸ばして口角を上げた。
「……なるほど。改心したんだね?」
「ん……? 改心しましたよ。俺はここで生きて行くと決めたからな」
家光が訊ねると孝は額を覆っていた手で前髪を掻き上げ爽やかな笑顔をみせる。
……余計なことを言わなければ極上のイケメンスマイルだ――。
「……ふーん……」
――孝の奴……顔だけはマジイケメンだな……、あ、おでこ赤くなってない……?
髪を掻き上げた額が赤くなっているような気がして、家光はちょっと笑いそうになってしまった。
可愛ところもあるのかも……なんて思いながら、まだまだ騙されないぞと警戒心を完全には失わない。
そんな家光に孝はといえば――。
再び居住まいを正し、その瞳を優し気に細めて家光を見ている。
「家光から俺に触れて欲しいというまでは、大人しくしてる」
孝、彼は家光との距離は保ったまま、背筋を正し凛とした様子で腿に手を添え柔和な顔だ。
……今夜の孝は本当に改心しているように見受けられる。
「っ……そんな日が来るかなぁ??」
――ちょ、なに、あんたなんでそんな優しい顔するの……!?
孝の瞳に家光の胸がきゅっと疼いた気がした……。
「……はははっ! 来るさ、きっとな」
「なに、その自信。私のこと馬鹿にしてんの?」
――あっ、ちょっと強く言い過ぎたかな……!?
朗らかに孝が笑うと、家光はつい不機嫌な態度で冷たく当たってしまう。
なぜなのかはわからないが、孝を前にするとついそうなるようだ。
……やはり相性が悪いのだろうか。
これまでは孝が悪かったが、自らも実は悪いところがあるのかもしれない。家光はまた孝を怒らせたらどうしようかと思ったが、彼が激高することはなかった。
「そうじゃない。お前が俺を求めてくれるように、俺が努力するんだよ。この世で一番愛しい者のために、な」
「いっ……!? …………き、キザァ……」
いつものように家光の挑発に乗って怒鳴るかと思われた孝は、今度は真っ直ぐに家光を見つめている。
先程告げた通り、孝、彼からは決して触れようとしたり距離を詰めようとはしていない。
だのに彼の真摯な瞳は家光を射抜いて、家光の目は見開き頬は熱くなった。
――ちょ、な、なん……。
家光の心は騒めき、考えが纏まらない。
動揺が激しくやっと絞り出したのは“気障”。
……さっきから鼓動が早くて仕方ないのだが、これは一体どうしたというのか。
(きっと和解に向けての緊張だよ、いや、和解はもうしたんだっけか……?)
孝があまりにも紳士的で、家光はどうにも落ち着かず固まってしまった。
「……さあ家光様、もうおやすみください。布団をお掛けしますよ。俺が隣で眠るのは許してくれよな?」
固まる家光を余所に孝はふっと目元を緩めてから掛布団を手にして、横になるよう促す。
家光は一瞬困惑したように眉を寄せたものの、大人しく布団に横になった。
身体を横たえた途端「あふっ」と欠伸が漏れ出す。
……そういえば随分と長い間話をしていた。
いつもなら途中から口論になっていてもおかしくないというのに、今夜は口論にはならずに済んでいる。
家光の身体は睡眠を欲していたのだろう、元強姦魔(未遂)の前だというのに緊張感もへったくれもなく、睡魔に襲われぼぅっとしてきた。
……そのぼうっとする頭で家光は孝のことを考える。
(まあ、なんやかんや言っても正室だし……信じてやってもいいか……。)
孝に心を許したわけではないが、反省している孝を許してやると家光は決めたのだ。
だが、このまま寝落ちしては孝は納得せずに、また謝罪の機会を所望するだろう。
……それはちょっと遠慮したい。
簡単に許すのもどうかと思うが、次回に持ち越したくはない――。
「……孝」
「ん?」
「……握手して、仲直りね?」
寝そべる家光にそっと掛布団を掛けてくれる孝に家光は片手を伸ばす。
握手して仲直り……とは子供の要領だが、もう眠くて頭が回らない。
……明日も膨大な量の仕事が待っている。
春日局の“御世継ぎがー”との嫌味もそろそろ再発する頃だ、明日からは孝と朝の御参りもしなければならないだろう。
――握手でもしておけば仲直りになるっしょ……眠い……。
今後の為にも家光はさっさと和解しておきたかったのだ。
「っ……お前って……ほんっと……」
孝が差し出された手を見下ろし、眉を顰める。
「ちょっと……もう“ぶおんな”とか悪口言わないでよ……?」
――不愉快な気分で一日の終わりを迎えたくないわ……。
イケメンに言われる悪口は破壊力抜群だ。心に深く傷を負うのはもう懲り懲りである。
せっかく最近少しはイケてるかなと自信がついてきたところなのに貶さないで欲しい――孝の言葉は家光の心に深く刺さってしまうのだから。
……家光はつい睨み付けるように孝を見上げた。
「っ、かっわいいなぁ~……。お前は俺の天女だ……♡」
家光の予想に反して、孝から出た言の葉は褒め言葉であった。
……目尻には皺が寄り、嬉しそうに彼は家光の手を取り、両手でそっと包み込んでいる。
「っっ!?!?」
――ちょっと待て……、孝はやっぱりおかしいままだぞーー!?!?
あんた誰よ……、と家光の目が瞬刻見開いた。
だが孝が握った家光の手を布団の中へと導き、布団を“ぽん……ぽん……”とあやすように優しく叩き出すので、家光はその様子を黙って見守る。
「……家光ありがとう、おやすみ。明日から朝の御勤め宜しくな。俺 頑張るから」
「……う、うん……お、おやすみなさい……?」
――な、なんだ……?? これ、孝……だよね……?? てか、子供じゃないんだけど……??
孝は家光が寝付くまでそうしているつもりなのだろうか……。
その手付きは優しく、一定の間隔で続いている。
……優しいだけの孝はなんだか気持ちが悪い気がしたが、家光の目蓋は次第に落ちて、気付けば意識は夢の中へと落ちていった。
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