逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【城下逃亡編】

230 開けた浴衣

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 ぴちち、ぴちちち……。
 部屋の外から小鳥の鳴き声がして家光は静かに目を開ける。


「……んん……」


 濃い一日が終わり、また次の日がやって来た。
 ……雨戸の隙間から朝陽が零れ畳を照らす。
 今日は晴れのようだ。


 ――昨日は楽しかった、満には振られてしまったが楽しかった。


(確か……昨夜はみちるさんと同衾したんだっけ……?)


 ふと昨夜を思い出し、もしかしたら夢だったのかと考えてみたが違ったらしい。

 いつもより綿が少なめの見知らぬ褥に掛け布団。
 ここは恐らく満の家――。
 だが家光が横たわる隣に満の姿はない。

 昨日満に助けてもらったところまではなんとなく憶えているものの、その後は随分と自分に都合の良い展開ばかりで、実際にあったことなのか今となっては定かではない。

 それに……夢であって欲しい。
 どきどきしたのも束の間、満にそんな気は毛頭なく、彼はすぐに寝息を立てて眠ってしまったのだ。
 素肌も見せてしまったというのに、満から何の反応も得られなかった。
 ……異性として見てもらえず悲しい思いをした――なんて夢オチで終わらせたい。


「……みちるさぁん……」


 物干しのある縁側の雨戸は未だ締め切ったままだが、玄関側の腰高障子からの明かりで部屋は見通しが利く。薄暗い部屋を見回すが、満の姿はやはりない。
 まだ夢うつつの頭で か細く泣き言めいたように彼の名を呼んだ。

 すると“がたがた”と腰高障子が音を立てて開く。


「……あ、千代さん。おはようございます」

「あっ、みちるさんっ! お、おはようございますっ……!」


 家光は慌てて上体を起こし頭を下げた。

 名前を呼んですぐに開いた障子戸の先には、水の入った手桶を手にした満の姿があった。昼間だからだろう、栗色のかつらと眼鏡を身に付けた変装スタイルだ。
 眼鏡越しでも藍宝石ネオンブルーの瞳は余りに魅惑的で、目が合うと惹き付けられ囚われそうになるから恐ろしい。


「っ……まだ寝ていていいですよ。今から米を炊きますから」

「いえっ、私もお手伝いします!」

「……そ、そうですか……? では、先に雨戸を開けちゃいますね」

「はいっ♡」


 家光の姿を見るなり満は目を逸らし、井戸から汲んできた水を土間にあるかめに注ぎ入れる。
 手伝いを申し出ると僅かに目線を合わせてくれたが、またすぐに目を逸らされた。

 満は米が炊き上がるまで家光を寝かせてくれようとしていたらしい。
 雨戸を先に開けるからと部屋に上がり、未だ褥に座ったままの家光の前を通り過ぎた。

 ……何となく満の様子がおかしい気がする。


「……(みちるさんて何考えてるのか全然わからないな……)」


 ――まあ、昨日もそうだったもんね……♡


 優しいと思ったらすぐに素っ気なさを出してくるのが満である。
 些細なことを気にしたところで今更満に対する想いに変わりはない。
 ……彼を諦めるどころか妙に嵌ってしまったようだ。

 家光は雨戸を開ける満の背を見つめ、掛け布団を畳んでいく。城で使っている布団よりも薄い――、だが昨夜は充分温かかった。
 寝ている間に掛け布団の一部が開け、寒さを感じたこともあったような気もするが、とにかく温かったのは満と同衾したからに違いない。
 昨夜は結局何もなかったが、好きな男と同衾できた家光の気分はすこぶる良い。
 布団や身を包む浴衣からの芳香が、彼に包まれているようで擽ったく、鼻歌でも出てしまいそうだ。


「…………っ、千代さん」

「……はい?」

「その……、前が開けているので直しましょうか……。その……、目のやり場に困ります……」

「へ? ……あっっ!!」


 雨戸を開くと眩しい朝陽が部屋に一気に入り込む。温かい日の陽気が肌を照らし、家光ははっとした。
 ……浴衣が寝乱れて開け、自慢の白桃がほぼ晒されているではないか――。


 “すっ、すみませんっ!!”


 家光は慌てて衿を掴み柔肌を隠した。
 昨日着ていた小袖はまだ乾いていない様子で、開いた障子戸の先、外で下着である肌襦袢と共に天日に干されている。
 半日もあれば乾くだろうが、それまでは今の浴衣でいるしかなさそうだ。

 ……だがどちらにしても着付けはまだ出来ない。
 もう一度満に着付けてもらわねばならないのだが、こんな明るい部屋でまたとなると、顔から火が出そうになりながら俯き硬直した。


「はー……着付けをしましょうか」

「は、はひっ……!」


 ――今の溜息……?


 雨戸を戸袋に片付け終えた満から、大きな溜息と共に畳の上を歩く振動が伝わってくる。

 ……痴女に思われたのかもしれない。
 だが、わざとではないので許して欲しい――。

 家光は目蓋をぎゅっと閉じると身体を強張らせた。


「……その……私も男なので、朝からだと刺激が強過ぎて……」


 褥にやって来た満は膝をつき、顔を真っ赤に染め俯く家光のよれよれになった衿を掴み、昨夜のように開くことはせず前身頃を合わせて緩んだ帯を結び直していく。


「……っ、す、すみません……、わざとじゃないんです……!」

「……そうですね。わざとなら今頃おそ……――から」

「……え? お、おそ……?」


 顔を上げられないままの家光の耳に満の呟きが僅かに聞こえる。
 “おそ――”……その声は途中から小さくなり、よく聞き取れなかった。


「……こほんっ、いえ、なんでもありません……。一先ず今はこの浴衣でお過ごしください。朝餉が終わりましたら着物を借りに行ってきますから そちらを着ましょう。今夜までには千代さんの小袖も乾くと思いますよ。ただ――」

「あ……ありがとうございます」


 ……咳払いを一つ。
 満は家光の昼間活動できる着物を近所に借りに行ってくれるようだ。“私の着物じゃ千代さんに似合うものがありませんから――”とのこと。
 家光的には満の着物で全然構わないし、むしろ着たかったが満が嫌ならそれに従うのみである。

 小袖は今夜までには乾くらしい。
 ただ……“ただ――?”満の最後の言葉が引っ掛かる。
 僅かに耳を赤くした満に家光は気付くことなく、お礼だけ告げて話の続きを待つことにした。
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