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コトの始まり 3
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「イチっ!」
耳鳴りがひどくて自分の声すら定かじゃない。
彼の身体に包み込まれた顔を上げると、目の前からゆっくりと離れていく黒いツナギから顔を出したイチがそのまま尻餅をつく。
生きてたぁ。
絡む視線にお互いの無事を確認して安堵する。
「よし、出るぞ」
「背中焦げてるよ。大丈夫?」
黒い服で分かりづらいけど、布がザラザラと焼けたっているのがわかる。
「どうにか。窓が割れて酸素が入ったから、バックドラフトみたいな状態になったのかもな」
踊り場に出るとコンクリートにはヒビが入ってるし、窓枠は見事に消し飛んでる。
「先に上がれ」
壁に向かってしゃがみ込んだイチの肩に足を掛け、煤に汚れた穴を抜けた。
「酸素~っっ!」
時々響く爆発音を聴きながら、それでもまだひんやりとした夜の空気を、これでもかと言うくらい肺に送り込んであげる。
「リカコさん? タイチ、カエ西棟離脱」
上がって来たイチがインカムに話しかけるのを聞きながら、見回す視界にひしゃげた窓枠が入った。
原型とどめていないってことは、相当な圧力がかかったんだろうな。
『イチっ! 良かったぁ。
2人とも怪我はない?』
『カイリィ。大丈夫だって!
2人を探しに行くってきかないんだ! 止めてっ!』
「そのまま炎に巻かれてしまえ。
怪我はないけど、火事がすごくて裏門には合流出来そうにないな。表門は?」
ええと。第5会議室は北側に面していたから、中央棟の方向から見るに西棟の南側に出たのかな。
ここからなら表門の方が近いし、炎も出ていない。
『表門は野次馬だらけよ。消防と警察に無線が入った。報道ヘリも飛ぶだろうから後3分で完全撤退するわよ。
イチ、中央棟を背中にまっすぐ行くと塀に当たるから、壁の上で待機』
イチがあたしに付いてくる様に合図して走り出す。
『裏門でA班回収後、B班を『梯子』で回収。
各自怪我には充分気を付けて。
真影さん。裏門に向かって下さい』
「リカコさん壁の高さは?」
『2m30㎝。余裕ね』
「へいへい」
『塀だけにぃ?』
ジュニアの楽しげな声は、すんなりと受け流される。
「カエ。壁上待機で梯子回収」
「はーい」
高い壁がそそり立ちあたし達を出迎えた。
『A班回収』
『お先に』
イチの耳には、インカムからの声が入る。
ツナギの太ももポケットに仕込んでおいた鉤付きのロープを取り出して準備完了。
「飛ばすぞ」
並走していたイチがスパートをかけて、壁に背中を付けるとレシーブを受けるように両手を出す。
タイミングを合わせて足を乗せ、文字通り壁の上に飛ばされた。
2m以上はありそうな壁の天辺に手を掛け、打ち上げられた勢いに乗ってそこに腰を下ろすと用意しておいた鉤付きロープを下に投げる。
イチが素早く昇り切ったところでロープを回収していると爆走する車の音。
『見つけた』
振り返ると細い路地を大型の黒いバンが猛スピードでバック走行してくる。
「真影さん。無鉄砲」
バンの初老の運転手は無口だけど、昔は絶対ヤンチャだった雰囲気を持っている。
あたしとイチの真下にピタリと停車。バンの屋根に取り付けられた2本の梯子に飛び移った。これなら周囲に車のドア開閉の音が立たない。
梯子の先端に固定されクルクル巻いて収納されていたブルーシートの紐を解き、梯子ごと身体を覆うように広げカナビラで固定すると、イチが運転席の窓を叩いた。
それを合図にバックで走ってきた道を、普通走行で戻って行く。
所要時間2分52秒。
後方の表門辺りでパトカーと消防車のサイレンが聞こえる。
何気なく。はためくブルーシートの隙間に違和感を感じて外を見ると、壁の反対側の林の中に男が1人で立っていた。
こんな時間に?
野次馬にしてはおかしなところに立ってるなぁ。
でもそれも一瞬の事。走行する車のスピードに、すぐに見えなくなる。
それよりも頭上に響くヘリの音に、あたしはイチと視線を合わせた。
ブルーシートで覆ったとはいえ、夜中に現場近くで走行するバンの屋根で、固定梯子にへばりついている黒いツナギの2人組。
怪しさ大爆発。
カメラが回っていたかは定かじゃないけど、ヘリの音はあたしたちの来た方向に遠ざかり消えていった。
車は大通りに出ると、すぐに近くの高架下に入り込み空いているスペースに駐車される。両側のスライドドアの開く音に、あたし達は梯子から滑り降りて車内に乗り込んだ。
ドアが閉まるなりまた動き出す車内であたしとイチはひっくり返ったままお互いの拳をコツンと合わせた。
「はぁぁ。キッツかったぁ」
「あの爆発は何だったんだ?」
バンの後部席。運転席と助手席以外の椅子は全て収納されて黒いカーテンで仕切られていて、スモークの貼られた窓の中、足元を照らす光によくわからない機材やパソコンに侵食された一画が浮かび上がる。
「お疲れ様。
偶然にも今日、爆弾魔の計画と私たちの侵入が重なったのか。
私たちが侵入した事で爆破が行われたのか。
それは何とも言えないわね」
白いシャツに黒のスラックス姿で丸椅子に座るリカコさんが長い髪を耳にかけ、優しく微笑んでくれた。
「お帰りぃ」
左右のスライドドアの前でスタンバイしてくれていたカイリとジュニアに場所を空けるために、身体を起こして狭い車内に座り直す。
緑色のツナギを着て、前髪を噴水ちょんまげにしているジュニア、青色のツナギを着て長い前髪を搔き上げるカイリ。
深夜0時にここを出た時にはしっかりセットされてたけど、今はグッダグダに崩れている。
「ジュニア。やっぱり爆弾もらっといて正解だった」
「でっしゃろ? 追加生産承りまっせ」
イチが短めの髪をクシャクシャッとかいて立ち上がると、ポケットからカメラを取り出してリカコさんに放り投げる。
「地下のアレ。火事で燃えたら今日の仕事無駄骨?」
「なんとも言えないわ。消防なり警察が地下室を見つけてくれればそれでいいし、たとえ燃えてても灰を調べれば何か燃えたのかは分かるから。
情報は上げておく。判断するのは〈おじいさま〉よ」
と、イチがツナギのファスナーを下す。
「コラァ! 狭い車内でパンイチになるなって、何回言ったら覚えんのよっ」
もおぉ。所在無く視線を逸らしちゃう。
「あ? 10年くらいやってんのに今更治んねぇよ」
Tシャツトランクス姿で黒いツナギをひっくり返すと、リバーシブルの紫色のツナギになる。こちらは焦げてない。
「そうだイチ。背中見せて」
Tシャツの背中を勝手にめくり上げる。
日焼けして赤くなっちゃったような感じではあるけど、水ぶくれにはなっていない。
リバーシブルの布の厚さが助けになったのか?
チラリとイチを見上げると〈何も言うな〉という目であたしを見下ろしている。
ジュニアには余計な心配や罪悪感を持たせたくない。
それはわかってるけど……。
Tシャツの裾を元に戻して、あたしもファスナーに手をかけた。
「大丈夫か。
あたしも着替えよ」
「パンイチ?」
無邪気なんだかあざといんだか計りかねるジュニアの一言。
んー。あざといな。
「残念でしたー」
ツナギの下は半袖のTシャツと、デニムのショートパンツ。
このまま外を歩いていても違和感はない。
まだ寒い時期だけど。
車内に転がっていたあたしのカバンから長袖の上着を取り出して、代わりにたたんだツナギを突っ込んだ。
「えー。おソロのツナギ着ようよ」
「嫌だ。あたしのツナギ、どピンクなんだもん。
16にもなってあんなピンク着れない」
ジュニアに応えるあたしに向かってカイリが何か話し出そうとして、突然鳴り出した電話の着信音に和やかだった空気が凍る。
「総監からです」
運転席を区切るカーテンから、携帯電話を握った真影さんの手が出てきた。
一番近くにいたジュニアが電話を受け取りリカコさんまで送られていく。
こういう役目はどうしても最年長のリカコさん行き。カイリも同い年だけど、ねぇ……。
大きく深呼吸をして通話ボタンをスライドする。
「リカコです。お疲れ様です。
はい。負傷者はありません」
なおもいくつかのやり取りをした後、いつものアドレスにデータと報告書を送る旨を伝え、電話を切った。
「お疲れ様。〈おじいさま〉何だって?」
「やっぱり爆発の件が気になったみたい」
カイリに答えて運転席をピッピッと指差す。
運転席の真影さんは〈おじいさま〉の腹心。
こっちとしても余計なことは聞かれたくない。
「お腹すいた」
唐突にジュニアが切り出す。
「こんな時間に食べてると太るわよ」
時計を見ると3時手前。もちろん夜中の。
「夜食っていうか。朝食でよくない?」
「そうだよなぁ。俺たち寮に帰っても何にもないし。メシ食って帰ろうぜ」
あたしの意見にイチも賛成してくれた。
「ヘイ。ミスター真影。ゴートゥ・ザ・ファミレス」
「了解しました」
ビシッと仕切りカーテンを指差すカイリに明らかに冷たい真影さんの声。
その怪しい英語もどき、どうにかなりませんか?
「明日は第1月曜日だから、朝正門で生徒会と風紀委が張ってるわよ。
寝坊しないようにね」
リカコさんの言葉に、ファミレスのメニューを一生懸命思い出していた脳ミソが現実に引き戻される。
「月曜日かぁ」
学生の朝は辛い。
何も好きで深夜の製薬会社に不法侵入していた訳ではない。
ちょっとした。いや、ちゃんとした理由が有る。
森稜高校1年3組 間宮香絵
森稜高校1年1組 鳥羽太一
森稜高校1年1組 十条剣士
森稜高校2年5組 烏丸海流
森稜高校2年2組 長谷川理加子
以上5名。
〈おじいさま〉こと、警視庁のトップ警視総監が試しに作った直属の『何でも屋』。
上層部の中でも限られた人間しか知らないし、表沙汰になる事も決してない。
しかも未成年だから捕まっても少年A。おっと。今のはよくないね。
これが警視庁内部のちょっと特別な事情。
耳鳴りがひどくて自分の声すら定かじゃない。
彼の身体に包み込まれた顔を上げると、目の前からゆっくりと離れていく黒いツナギから顔を出したイチがそのまま尻餅をつく。
生きてたぁ。
絡む視線にお互いの無事を確認して安堵する。
「よし、出るぞ」
「背中焦げてるよ。大丈夫?」
黒い服で分かりづらいけど、布がザラザラと焼けたっているのがわかる。
「どうにか。窓が割れて酸素が入ったから、バックドラフトみたいな状態になったのかもな」
踊り場に出るとコンクリートにはヒビが入ってるし、窓枠は見事に消し飛んでる。
「先に上がれ」
壁に向かってしゃがみ込んだイチの肩に足を掛け、煤に汚れた穴を抜けた。
「酸素~っっ!」
時々響く爆発音を聴きながら、それでもまだひんやりとした夜の空気を、これでもかと言うくらい肺に送り込んであげる。
「リカコさん? タイチ、カエ西棟離脱」
上がって来たイチがインカムに話しかけるのを聞きながら、見回す視界にひしゃげた窓枠が入った。
原型とどめていないってことは、相当な圧力がかかったんだろうな。
『イチっ! 良かったぁ。
2人とも怪我はない?』
『カイリィ。大丈夫だって!
2人を探しに行くってきかないんだ! 止めてっ!』
「そのまま炎に巻かれてしまえ。
怪我はないけど、火事がすごくて裏門には合流出来そうにないな。表門は?」
ええと。第5会議室は北側に面していたから、中央棟の方向から見るに西棟の南側に出たのかな。
ここからなら表門の方が近いし、炎も出ていない。
『表門は野次馬だらけよ。消防と警察に無線が入った。報道ヘリも飛ぶだろうから後3分で完全撤退するわよ。
イチ、中央棟を背中にまっすぐ行くと塀に当たるから、壁の上で待機』
イチがあたしに付いてくる様に合図して走り出す。
『裏門でA班回収後、B班を『梯子』で回収。
各自怪我には充分気を付けて。
真影さん。裏門に向かって下さい』
「リカコさん壁の高さは?」
『2m30㎝。余裕ね』
「へいへい」
『塀だけにぃ?』
ジュニアの楽しげな声は、すんなりと受け流される。
「カエ。壁上待機で梯子回収」
「はーい」
高い壁がそそり立ちあたし達を出迎えた。
『A班回収』
『お先に』
イチの耳には、インカムからの声が入る。
ツナギの太ももポケットに仕込んでおいた鉤付きのロープを取り出して準備完了。
「飛ばすぞ」
並走していたイチがスパートをかけて、壁に背中を付けるとレシーブを受けるように両手を出す。
タイミングを合わせて足を乗せ、文字通り壁の上に飛ばされた。
2m以上はありそうな壁の天辺に手を掛け、打ち上げられた勢いに乗ってそこに腰を下ろすと用意しておいた鉤付きロープを下に投げる。
イチが素早く昇り切ったところでロープを回収していると爆走する車の音。
『見つけた』
振り返ると細い路地を大型の黒いバンが猛スピードでバック走行してくる。
「真影さん。無鉄砲」
バンの初老の運転手は無口だけど、昔は絶対ヤンチャだった雰囲気を持っている。
あたしとイチの真下にピタリと停車。バンの屋根に取り付けられた2本の梯子に飛び移った。これなら周囲に車のドア開閉の音が立たない。
梯子の先端に固定されクルクル巻いて収納されていたブルーシートの紐を解き、梯子ごと身体を覆うように広げカナビラで固定すると、イチが運転席の窓を叩いた。
それを合図にバックで走ってきた道を、普通走行で戻って行く。
所要時間2分52秒。
後方の表門辺りでパトカーと消防車のサイレンが聞こえる。
何気なく。はためくブルーシートの隙間に違和感を感じて外を見ると、壁の反対側の林の中に男が1人で立っていた。
こんな時間に?
野次馬にしてはおかしなところに立ってるなぁ。
でもそれも一瞬の事。走行する車のスピードに、すぐに見えなくなる。
それよりも頭上に響くヘリの音に、あたしはイチと視線を合わせた。
ブルーシートで覆ったとはいえ、夜中に現場近くで走行するバンの屋根で、固定梯子にへばりついている黒いツナギの2人組。
怪しさ大爆発。
カメラが回っていたかは定かじゃないけど、ヘリの音はあたしたちの来た方向に遠ざかり消えていった。
車は大通りに出ると、すぐに近くの高架下に入り込み空いているスペースに駐車される。両側のスライドドアの開く音に、あたし達は梯子から滑り降りて車内に乗り込んだ。
ドアが閉まるなりまた動き出す車内であたしとイチはひっくり返ったままお互いの拳をコツンと合わせた。
「はぁぁ。キッツかったぁ」
「あの爆発は何だったんだ?」
バンの後部席。運転席と助手席以外の椅子は全て収納されて黒いカーテンで仕切られていて、スモークの貼られた窓の中、足元を照らす光によくわからない機材やパソコンに侵食された一画が浮かび上がる。
「お疲れ様。
偶然にも今日、爆弾魔の計画と私たちの侵入が重なったのか。
私たちが侵入した事で爆破が行われたのか。
それは何とも言えないわね」
白いシャツに黒のスラックス姿で丸椅子に座るリカコさんが長い髪を耳にかけ、優しく微笑んでくれた。
「お帰りぃ」
左右のスライドドアの前でスタンバイしてくれていたカイリとジュニアに場所を空けるために、身体を起こして狭い車内に座り直す。
緑色のツナギを着て、前髪を噴水ちょんまげにしているジュニア、青色のツナギを着て長い前髪を搔き上げるカイリ。
深夜0時にここを出た時にはしっかりセットされてたけど、今はグッダグダに崩れている。
「ジュニア。やっぱり爆弾もらっといて正解だった」
「でっしゃろ? 追加生産承りまっせ」
イチが短めの髪をクシャクシャッとかいて立ち上がると、ポケットからカメラを取り出してリカコさんに放り投げる。
「地下のアレ。火事で燃えたら今日の仕事無駄骨?」
「なんとも言えないわ。消防なり警察が地下室を見つけてくれればそれでいいし、たとえ燃えてても灰を調べれば何か燃えたのかは分かるから。
情報は上げておく。判断するのは〈おじいさま〉よ」
と、イチがツナギのファスナーを下す。
「コラァ! 狭い車内でパンイチになるなって、何回言ったら覚えんのよっ」
もおぉ。所在無く視線を逸らしちゃう。
「あ? 10年くらいやってんのに今更治んねぇよ」
Tシャツトランクス姿で黒いツナギをひっくり返すと、リバーシブルの紫色のツナギになる。こちらは焦げてない。
「そうだイチ。背中見せて」
Tシャツの背中を勝手にめくり上げる。
日焼けして赤くなっちゃったような感じではあるけど、水ぶくれにはなっていない。
リバーシブルの布の厚さが助けになったのか?
チラリとイチを見上げると〈何も言うな〉という目であたしを見下ろしている。
ジュニアには余計な心配や罪悪感を持たせたくない。
それはわかってるけど……。
Tシャツの裾を元に戻して、あたしもファスナーに手をかけた。
「大丈夫か。
あたしも着替えよ」
「パンイチ?」
無邪気なんだかあざといんだか計りかねるジュニアの一言。
んー。あざといな。
「残念でしたー」
ツナギの下は半袖のTシャツと、デニムのショートパンツ。
このまま外を歩いていても違和感はない。
まだ寒い時期だけど。
車内に転がっていたあたしのカバンから長袖の上着を取り出して、代わりにたたんだツナギを突っ込んだ。
「えー。おソロのツナギ着ようよ」
「嫌だ。あたしのツナギ、どピンクなんだもん。
16にもなってあんなピンク着れない」
ジュニアに応えるあたしに向かってカイリが何か話し出そうとして、突然鳴り出した電話の着信音に和やかだった空気が凍る。
「総監からです」
運転席を区切るカーテンから、携帯電話を握った真影さんの手が出てきた。
一番近くにいたジュニアが電話を受け取りリカコさんまで送られていく。
こういう役目はどうしても最年長のリカコさん行き。カイリも同い年だけど、ねぇ……。
大きく深呼吸をして通話ボタンをスライドする。
「リカコです。お疲れ様です。
はい。負傷者はありません」
なおもいくつかのやり取りをした後、いつものアドレスにデータと報告書を送る旨を伝え、電話を切った。
「お疲れ様。〈おじいさま〉何だって?」
「やっぱり爆発の件が気になったみたい」
カイリに答えて運転席をピッピッと指差す。
運転席の真影さんは〈おじいさま〉の腹心。
こっちとしても余計なことは聞かれたくない。
「お腹すいた」
唐突にジュニアが切り出す。
「こんな時間に食べてると太るわよ」
時計を見ると3時手前。もちろん夜中の。
「夜食っていうか。朝食でよくない?」
「そうだよなぁ。俺たち寮に帰っても何にもないし。メシ食って帰ろうぜ」
あたしの意見にイチも賛成してくれた。
「ヘイ。ミスター真影。ゴートゥ・ザ・ファミレス」
「了解しました」
ビシッと仕切りカーテンを指差すカイリに明らかに冷たい真影さんの声。
その怪しい英語もどき、どうにかなりませんか?
「明日は第1月曜日だから、朝正門で生徒会と風紀委が張ってるわよ。
寝坊しないようにね」
リカコさんの言葉に、ファミレスのメニューを一生懸命思い出していた脳ミソが現実に引き戻される。
「月曜日かぁ」
学生の朝は辛い。
何も好きで深夜の製薬会社に不法侵入していた訳ではない。
ちょっとした。いや、ちゃんとした理由が有る。
森稜高校1年3組 間宮香絵
森稜高校1年1組 鳥羽太一
森稜高校1年1組 十条剣士
森稜高校2年5組 烏丸海流
森稜高校2年2組 長谷川理加子
以上5名。
〈おじいさま〉こと、警視庁のトップ警視総監が試しに作った直属の『何でも屋』。
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