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キス!(未遂)お昼寝中につき
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んんん~。
6時間目が終わり、ホームルームまでの約10分。
1つ上の階、人気のない特別教室がある廊下をさっきから行ったり来たりうろうろしている。
考えがまとまらない時は、あたしはこれが一番落ち着く。
製薬会社の爆破を外から見ていた黒スーツ。
同社長の刺殺体。
推定時刻と社長宅の距離からして、あの時間にあそこに立って居ることは可能。
栽培されていた植物とナイフの毒。
爆破犯も黒スーツ? ジュニアは否定的。
火を付けるメリットは?
廊下を端まで歩いて折り返して来ると、階段を下りた踊り場に見慣れた後ろ姿。
イチっ。
声を掛けそうになって、一度飲み込む。
「鳥羽くん」
踊り場の窓から外を見ていたイチがゆっくりと振り返った。
「おお。何してんの?」
「うろうろ。動いてると落ち着くの」
「回遊魚か?」
薄く笑う。
その顔に、あたしも自然と笑みがこぼれた。
「この後、深雪の事よろしくね」
「ああ」
手を振って、あたしはまた廊下をうろうろするために身を返した。
###
橋本の護衛が済んだら戻って来よう。
カエの姿が消えた廊下を視線が追う。
「太一ぃ」
階段下から掛かる声に、今度は視線を下に移した。
「亮太」
振り返った先にはクラスメイトが人懐っこい笑みを浮かべて立っていた。
先日、イチをサッカーの試合に引っ張り込んだ張本人だ。
ヤバ、見られてた?
「なんか嬉しそうな顔で話してたじゃん。
誰々?」
廊下を戻って行ったカエはしばらく戻らないだろうとわかっていても、覗き込まれるのは気が気でない。
「誰でもねぇよ。サッカー部の件なら諦めろ」
そう言って、イチはカエから離れるように階段を下り始めた。
「イヤ、まじな話太一なら即レギュラー採用だって、キャプテンも連れて来いってうるさいんだよ」
亮太もつられて階段下でイチが来るのを待ち受ける。
「イチ。今日の帰りだけど……」
「おおっ、ジュニアいい所に来た!
ジュニアも太一はサッカー真面目にやってみるべきだと思うだろ?
つーか、ジュニアも来いよ。足早いし」
通りかかったジュニアも巻き込んで囃し立てる。
「無理。僕放課後はしばらくデートだもん」
『……?』
ジュニアの一言に、一瞬2人の脳が機能停止した。
「なにいぃぃっ!」
先に回復した亮太が大声を上げる。
「誰だよー。うちの学校の子?
てか、その頭で行くの?
まぁ止めないけど」
もう、ジュニアの代名詞と言ってもいい噴水ちょんまげ。
デートって。カエの護衛の事だよな。
カエが絡む時は3人でいる事が多い分、〈仕事〉とは言え何となく複雑な気分になる。
「えー。この頭ダメ?」
抗議の声を上げるが、続きはチャイムの音に遮られてしまう。
バラバラと教室に帰る足音にイチ達も急かされるように足を速めた。
###
『イチ聞こえる?』
昇降口の外に立ち、下校して行く生徒達を眺めるイチの耳にリカコの声が入ってくる。
「感度良好」
小型とは言えインカムは多少目立つがあえて気にはしない。
「お。目標発見。追跡開始」
『いってらっしゃい。
カイリはどこ?』
『200メートルくらい先かな』
イチは黒スーツと面識があるし、単独行動は避けようという事でカイリがフォローに入っている。
ついでにインカムとGPSの動作確認。
生徒会室でお留守番はあたし、ジュニア、リカコさん。
「画面上に地図が表示されたら、ここのGPSマークをクリックして。
建物内で使うこと前提だから半径100メートルに設定されてるけど、尺は変えられるから。
青と紫出たね。後は個人のマークをダブルクリックすると、そこが中心に切り替わる」
ノートパソコンに向きっきりのジュニアとリカコさんを見ながらあたしは机にべろーんと突っぷす。
やる事なぁい。暇ぁぁ。
外に目を向けると、校庭と外の道路を仕切るフェンスに沿って植えられる木々に、雑木林を思い出し瞳を閉じた。
昨日ももっと動けていればなぁ。
でも、さすがにイチもジュニアもいるのにスカートで格闘は……。
###
『目標自宅到着』
「お疲れ様。
カエちゃん、今日はとりあえず大丈夫だったし、今週いっぱい様子を見てお終いにしようか」
「……」
「カエちゃ~ん」
リカコの呼びかけに反応がないカエをジュニアが回り込んで覗き込んだ。
「寝てる。
構ってもらえないから寝ちゃうなんてちっちゃい子みたい」
カエの顔に掛かる髪を指で優しくすくい上げる。
「あぁあ。無防備な寝顔を晒しちゃって。可愛いからキスしちゃお」
「やめなさい」
唇を近づけるジュニアに、リカコがきつい声を出した。
「……。ちぇ~っ」
全く、奔放過ぎて困るわ。
こっそりと息を吐く。
『何?』
「何でもない、こっちの事よ」
インカムから聞こえるイチの声にリカコが平然と答えた。
ジュニアがインカム付けてなくて良かった。
パソコンの横に置かれたままのインカムにちらりと目を走らせる。
リカコはインカムのマイク穴を指で塞ぐと優しい眼差しをカエに向けた。
「今週は始まりからなかなかハードだったし、休ませてあげましょう。
カイリ達が着く前に起こせばいいわ」
男の子達と同じように走り回る、小柄なカエちゃんも体力には限界があるわよね。
6時間目が終わり、ホームルームまでの約10分。
1つ上の階、人気のない特別教室がある廊下をさっきから行ったり来たりうろうろしている。
考えがまとまらない時は、あたしはこれが一番落ち着く。
製薬会社の爆破を外から見ていた黒スーツ。
同社長の刺殺体。
推定時刻と社長宅の距離からして、あの時間にあそこに立って居ることは可能。
栽培されていた植物とナイフの毒。
爆破犯も黒スーツ? ジュニアは否定的。
火を付けるメリットは?
廊下を端まで歩いて折り返して来ると、階段を下りた踊り場に見慣れた後ろ姿。
イチっ。
声を掛けそうになって、一度飲み込む。
「鳥羽くん」
踊り場の窓から外を見ていたイチがゆっくりと振り返った。
「おお。何してんの?」
「うろうろ。動いてると落ち着くの」
「回遊魚か?」
薄く笑う。
その顔に、あたしも自然と笑みがこぼれた。
「この後、深雪の事よろしくね」
「ああ」
手を振って、あたしはまた廊下をうろうろするために身を返した。
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橋本の護衛が済んだら戻って来よう。
カエの姿が消えた廊下を視線が追う。
「太一ぃ」
階段下から掛かる声に、今度は視線を下に移した。
「亮太」
振り返った先にはクラスメイトが人懐っこい笑みを浮かべて立っていた。
先日、イチをサッカーの試合に引っ張り込んだ張本人だ。
ヤバ、見られてた?
「なんか嬉しそうな顔で話してたじゃん。
誰々?」
廊下を戻って行ったカエはしばらく戻らないだろうとわかっていても、覗き込まれるのは気が気でない。
「誰でもねぇよ。サッカー部の件なら諦めろ」
そう言って、イチはカエから離れるように階段を下り始めた。
「イヤ、まじな話太一なら即レギュラー採用だって、キャプテンも連れて来いってうるさいんだよ」
亮太もつられて階段下でイチが来るのを待ち受ける。
「イチ。今日の帰りだけど……」
「おおっ、ジュニアいい所に来た!
ジュニアも太一はサッカー真面目にやってみるべきだと思うだろ?
つーか、ジュニアも来いよ。足早いし」
通りかかったジュニアも巻き込んで囃し立てる。
「無理。僕放課後はしばらくデートだもん」
『……?』
ジュニアの一言に、一瞬2人の脳が機能停止した。
「なにいぃぃっ!」
先に回復した亮太が大声を上げる。
「誰だよー。うちの学校の子?
てか、その頭で行くの?
まぁ止めないけど」
もう、ジュニアの代名詞と言ってもいい噴水ちょんまげ。
デートって。カエの護衛の事だよな。
カエが絡む時は3人でいる事が多い分、〈仕事〉とは言え何となく複雑な気分になる。
「えー。この頭ダメ?」
抗議の声を上げるが、続きはチャイムの音に遮られてしまう。
バラバラと教室に帰る足音にイチ達も急かされるように足を速めた。
###
『イチ聞こえる?』
昇降口の外に立ち、下校して行く生徒達を眺めるイチの耳にリカコの声が入ってくる。
「感度良好」
小型とは言えインカムは多少目立つがあえて気にはしない。
「お。目標発見。追跡開始」
『いってらっしゃい。
カイリはどこ?』
『200メートルくらい先かな』
イチは黒スーツと面識があるし、単独行動は避けようという事でカイリがフォローに入っている。
ついでにインカムとGPSの動作確認。
生徒会室でお留守番はあたし、ジュニア、リカコさん。
「画面上に地図が表示されたら、ここのGPSマークをクリックして。
建物内で使うこと前提だから半径100メートルに設定されてるけど、尺は変えられるから。
青と紫出たね。後は個人のマークをダブルクリックすると、そこが中心に切り替わる」
ノートパソコンに向きっきりのジュニアとリカコさんを見ながらあたしは机にべろーんと突っぷす。
やる事なぁい。暇ぁぁ。
外に目を向けると、校庭と外の道路を仕切るフェンスに沿って植えられる木々に、雑木林を思い出し瞳を閉じた。
昨日ももっと動けていればなぁ。
でも、さすがにイチもジュニアもいるのにスカートで格闘は……。
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『目標自宅到着』
「お疲れ様。
カエちゃん、今日はとりあえず大丈夫だったし、今週いっぱい様子を見てお終いにしようか」
「……」
「カエちゃ~ん」
リカコの呼びかけに反応がないカエをジュニアが回り込んで覗き込んだ。
「寝てる。
構ってもらえないから寝ちゃうなんてちっちゃい子みたい」
カエの顔に掛かる髪を指で優しくすくい上げる。
「あぁあ。無防備な寝顔を晒しちゃって。可愛いからキスしちゃお」
「やめなさい」
唇を近づけるジュニアに、リカコがきつい声を出した。
「……。ちぇ~っ」
全く、奔放過ぎて困るわ。
こっそりと息を吐く。
『何?』
「何でもない、こっちの事よ」
インカムから聞こえるイチの声にリカコが平然と答えた。
ジュニアがインカム付けてなくて良かった。
パソコンの横に置かれたままのインカムにちらりと目を走らせる。
リカコはインカムのマイク穴を指で塞ぐと優しい眼差しをカエに向けた。
「今週は始まりからなかなかハードだったし、休ませてあげましょう。
カイリ達が着く前に起こせばいいわ」
男の子達と同じように走り回る、小柄なカエちゃんも体力には限界があるわよね。
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