警視庁の特別な事情1~JKカエの場合~

綾乃 蕾夢

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闇医者? ヤブ医者?

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たつみさん?
 お久しぶりです。リカコです」
『……。理加子が直接電話をしてくるなんて、よっぽどな事があったな』
「緊急度合いが分かっていいでしょ?」

 三条橋の下、コンクリートの柱の基礎に腰を下ろしてリカコがにこりと微笑む。
 足元ではカイリが手錠代わりのインシュロックをかけた黒スーツの身体検査をしている。

 まぁ、大小取り揃えたナイフが出てくる事。
「この前はアコニチンのDNA鑑定ありがとう。今日本庁の鑑識で確認したんだけど、やっぱり合致したわね。
 でね。ちょっと相談があるんだけど、その事がらみで犯人の身柄を引き取りに来てもらえないかしら?」
『例の黒スーツか?』
「ご明察」

 以前公園で一戦交えた事はカイリ達が巽にも話している。
「しかも高富氏殺害の自供録音付き」
『何⁉︎ あれはプロの仕業じゃないかって、本庁でも噂になってたやつだぞ。
 ……。見返りはなんだ?』
 警戒した口調で聞いてくる。

「やだわ。巽さんにはいつもお世話になってるもの。検挙率を上げてもらいたいだけよ」
『今日は香絵と本庁に顔出したろ?』
「親子の会話がなされてるなんて、素敵ね」
『理加子』

 たしなめるような巽の声に誤魔化すのは諦める。
「〈おじいさま〉にこの件からは完全に手を引くように言い渡されたの。なのに舌の根も乾かぬうちにこれじゃあね。
 逆鱗げきりんに触れて組織解散になったら、学費出なくなっちゃうかしら?」
 これが結構切実だったりするのだ。

『……。お前達が関わってない。なんて誤魔化し切れるとは思わないぞ』
「巽さんなら大丈夫よ。ありがとう。
 陰で動くの得意だから、何かあったらお手伝いするわよ。声かけてね」
『お前達に頼むようじゃ、おしまいだよ』
 重いため息をつく。

『みんな怪我は無かったのか?』
 当然来ると分かっていた質問だけど。

「それはゴメン。
 下の3人はドクターのところに行かせたの。みんな直ぐにどうって傷じゃないけど……」
『誰が一番重い?』
「んー。イチ。かな」


 ###

「せんせー。なんかヤバそうなの来ましたよぉ~」
 あからさまにすさんだ感じのドアをくぐり抜けると、派手目な化粧をしたナースのミーナさんが奥の診察室に声をかける。

 閑古鳥かんこどり鳴きまくりの院内。

「ミーナさんひどぉい」
「香絵ちゃん新手のファッションセンスだね」
 目を丸くしたミーナさんにジト目を返す。
「まぁね」
 ここへの道すがらも、変な目で見られましたよ。

「うわっ。
 ジュニア、なんだその腕は」
「痛い」
「当たり前だ。バカ。
 ミーナちゃん縫合セット出しといて。
 香絵は?」

 奥から顔を出したのは無精ひげのボサボサ頭。
 白衣の下のヨレヨレシャツ。
 まさに闇医者。イヤ、ヤブ医者か?

「胸元さっくり」
 ミーナさんに連れられて診察室に入りがてらジュニアが余計な一言。

「お。いいとこ切られたな? 見せてみろ」
「殴るよ」
「医療行為だろぉ?
 元気そうだな。まぁ、なんにせよジュニアの後だ。
 イチは?」

「俺は付き添い」
「……ふーん。
 請求はいつも通り、巽にツケとくからな」
 イチの顔をジィッと見た瞳が診察室へと移動していく。
「はーい」

 待合室の古ぼけたベンチに腰を下ろし一息つく。
 隣にイチが座る気配がして。

「?
 イチ。どした?」
 妙な違和感に言葉が口をつく。

「あ?」
 あれ? 気のせい?
「なんか……」

 イチの顔をジィッと見つめる。
 なんだろう? おかしい。探せ。
 グィッと顔をイチに近づける。
 頭で警報が鳴ってる。
 イチの顔。瞳。唇。

「カエ?」
「イチ」
「何見つめあってるの?」
 唐突にジュニアの声。

「うわっ。イヤ、違うよっ。
 イチ、なんか変じゃない?」
 かぁぁっと赤面するのが分かる。

「えぇ?」
 怪訝けげんな顔で覗き込むジュニアの横から、ドクターがスッと割り込んで来る。

 ポグッッ!

 何の前置きもなく、イチに腹パンチ。
「え? なぜ今腹パン?」

 あたしがドクターを見上げる横でイチが苦しそうに身体を2つに折る。
「えっ。何?
 そんな強烈な感じじゃ無かったよっ?
 イチっ?」

「ほら、腹出せ」
 上から見下ろすドクターをイチが凶悪な形相で睨み返す。
「悪い顔だなぁ。お医者様を誤魔化せると思うなよ」
 横からあたしがTシャツをめくる。

 お腹から脇腹にかけてが真っ青になっている。
「うわぁっ、ヒドッ。
 いつやられたのよっ!」

「ったく、お前らはナイフ持ったムエタイ選手とフォークダンスでも踊ってたのか?
 ミーナちゃぁん、エコー検査の用意しておいてぇ」
「は~い」
 奥の処置室から返事が返ってくる。

「大丈夫だよ。ちょっとアザになっただけだろう」
 額に脂汗が浮く。
「腹部外傷。内臓出血してたら今日は入院だ」

 ぴこぴこっ。
 緊迫した中にLINEの着信音。
「リカコさんだ。
 イチは大丈夫だった?
 だって。気づいてたんだ。リカコさん」
 チラリとイチを見る。

「理加子?
 ああ。もう1人スカしたガキがいたっけなぁ。滅多に病院に顔出さないヤツ。
 とりあえず検査だ、行くぞ」
 ドクターが、イチの襟を掴んで連行していく。

「カエ」
 空いた席にジュニアが腰を下ろす。
「そんな悲しそうな顔しないの。大丈夫だよ」
 引き寄せてくれたあたしの頭が、コツンとジュニアの肩にもたれた。
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