13番目の天使-ソウル・クラッシャー-

きのせ

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15話:救われぬ心

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 井原要は、諦め始めていた。誰も助けてくれない。一般生徒は、皆葉月翔太に関わりたくないのだ。だから、見て見ぬふりをする。目の前で理不尽な出来事であっても目を逸らすだけだ。皆臆病者だと自分自身も含めて要は、そう思った。今時の不良にとって、自分の言いなりになる女を作る事は、ステータスになっている。
だからと言って、それがどうして自分なのかと、よくよく考えてみて要は、腹が立ってきた。相変わらず翔太の腕は、力強く要の筋力では、逃れられそうになかった。強引に要の身体を引き寄せて翔太は、顔を近づけてくる。このまま身を任せてしまえば、自分の中にある何もかもか彼に奪われてしまう。そんな思いが要の心を不安定にさせて……恐怖を呼び起されてしまいそうだった。そして、気がつけば、要は、翔太の身体を突き飛ばして廊下を走りだしていた。要には、どうしてそんな事が出来たのかわからなかった。力では、翔太に敵わないはずなのに恐怖を感じたとたんに何かが弾けるような力で翔太を突き飛ばしていたのだ。
「はぁ……はぁはぁ」
要は、激しく呼吸を繰り返す。逃げる様に廊下を走り続けて飛び込んだ先は、自分のクラスの教室だった。もう放課後になって時間が経っている。誰も教室に残って居ないはずだった。それでも教室に残っている酔狂な人物が居る事を要は、解っていたのだ。だから、クラスの教室に要は、飛び込んだ。

 突然の来訪者に戸崎燐は、目を丸くして井原要の姿を見ていた。教室に飛び込んできた要は、そのまま燐の元へ駆け寄った。普段ならありえない行動だった。自身の心の中に広がった恐怖が要を駆り立てたのだ。
 「要? どうした?」
 燐がそう言い終わる前に要は、彼の胸にとび込み制服の裾をキュッと掴んだ。そして、今だに事態を把握しきれていない燐の顔を下から覗き見る様に要は、顔を上げた。
「何があった?」
と、燐は、要に優しく問い掛けた。
「ううん、たいした事じゃないの。ただ……」
「ただ?」
「ただ……恐ろしかっただけ」
「……」
要の言葉に燐は、何も言えなかった。要がいったい何を恐れ、何に怯えているか解らなかったからだ。ただ理由もなしに恐れる事があるわけがないと理解しては居たが燐には、それ以上問い詰める事ができなかった。



ガラガラ
と再び教室の入り口が開かれた。入ってきたのは、あの葉月翔太だった。井原要の後を追ってやって来たのだろう翔太の顔色は、良くなった。翔太とて、信じられなかったのだ。本気を出して居なかったとはいえ、女に……それも自分より華奢で筋力が無さそうな少女に力で負けるなど……ありえない事だった。再び自分の前に現れた葉月翔太の姿を見て、要は、目を大きく見開き燐の制服の裾を掴んだまま、俯き目を逸らす。そんな二人の様子を見て、燐は、訝しげに翔太と要の顔を交互に見比べた。
「翔太……お前、要に何かしたのか?」
燐がそう問うと、翔太は、「チッ!!」と舌打ちをして睨みつけた。
そして、ゆるやかに両腕を上げて
「別に……何もしてねぇよ」
そう翔太は、言った。
「本当か? じゃあ、何故ここに来たんだ?」
とても信じられないと言った表情で自分を睨む燐から視線を逸らして、翔太は、チラリと要の顔を覗き見た。
「そう、睨むなよ。解っているさ。今日は、これ以上何もしない。大人しく帰るよ」
翔太は、そう言って燐に背を向けるとそのまま教室を出て行った。


「いったい、何があったんだ?」
そう優しく燐は、要に問い詰めた。だが、要は、首を振るだけで何も語ろうとしない。本当の事を言ってしまえば……要にとって楽だったかもしれない。しかし、言った事で本当の自分がどんなに醜い存在かを知られるのが要には、何より辛かった。彼に嫌われたくないと言う思いがいっそう要の口を閉ざしてしまっていた。
それに彼……戸崎燐は、優しくない。いや、優しさと言うものを持ち合わせ居ない。ただ優しい口調の奥にある燐の真実を要は、よく理解していた。燐の優しさは、条件反射にすぎない。友人と言う選択肢の中で一番人間らしい選択を行っているにすぎないのだ。戸崎燐は、人を愛せない。それは、解っていた。ただ、彼は、前向きである為そう言った無駄な足掻きを止める事は、ない。人を理解する事も愛する事もできないのにそうやって足掻き続ける燐の姿を見るのが要には、とても好きだったのだ。
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