旅するブロッコリー

朱雀院やさぐれ男

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旅するブロッコリー

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1.
「ずっと前から好きです。付き合ってください」

 深々と頭を下げるブロッコリー。カリフラワーは少し顔を赤らめた。

 ブロッコリーの名前はコリン。あおあおと成長した立派なブロッコリーだった。気さくな性格で誰とでも仲良くなることができた。

 カリフラワーの名前はシロコ。色白で繊細。だれにでも好かれる優しい性格の持ち主だった。

 二人の出会いは、畑の中。畝が隣同士で話をよくした。天気の話。畑の持ち主の水やりの仕方。虫に食べられそうになった話。星空の話。いつの間にか、コリンはシロコに恋するようになった。

「ごめんなさい。私、他に好きな人がいるの」

 それが、シロコの返事だった。相手は、聡明でみんなから頼られる色白で大きなカリフラワーだった。コリンはひどくがっかりして三日三晩泣いた。涙が枯れた頃、コリンはシロコに振り向いてもらうため、旅に出ることにした。目的地はなかった。すべては、シロコに振り向いてもらうため。自分探しの旅に出た。

2.
 行くあてのない旅だった。冬も和らいできたとはいえ、まだ寒さが残る頃。振られた悔しさを忘れるために歩いた。あてもなく歩いた。一日中歩いただろうか?疲れがピークにきていたコリンは、何かの拍子で石につまずき転んでしまった。そこに、一本の大根が通りかかった。

「ブロッコリー君。体が砂まみれじゃないか。大丈夫かい?」

 心配そうにコリンの顔を覗き込む。立ち上がれないコリン。手を貸してもらってようやく立ち上がることができた。

「こんなところで、何をしているんだい?何か事情がありそうだね。話を聞くよ」

 二人は近くのベンチに座った。そこで、カリフラワーに恋をして振られた話をした。恋のライバルは色白で聡明なカリフラワーだということ。大根は黙って話を聞いてくれた。一通りしゃべり終わった後、大根はゆっくり口を開いた。

「ライバルに勝つためにはまずは見た目から。僕みたいに温泉にゆっくり浸かったら、汚れも取れて色白になれるよ」

 コリンは、温泉の場所を大根から聞いた。早速、行ってみることにした。

3.
 温泉は、山のふもとにあった。自然豊かなところにあった。鳥のさえずりがあちこちで聞こえてきた。温泉の辺りには、猿やイノシシ、シカなどの動物たちが集まっていた。温泉に入るために、順番を待つ列ができていた。十分ほど待って温泉に入ることができた。しかし、お湯の温度が熱くて数秒と持たない。戸惑うコリンに見かねた猿が話しかける。

「ブロッコリー君。野菜である君が温泉につかろうなんて珍しいね」

 コリンは、カリフラワーに恋をしていること、それで外見を磨きたいことを猿に話した。猿は大げさに笑って言った。

「外見を磨きたいなら、そこにいるウサギさんが詳しいよ。カリフラワーのように白くて艶があって美しいよ」

 猿が大きな声で話すので、ウサギの耳にも
届いたのか、話しかけてきた。コリンは、一通り事情を話した。

「かっこよくなりたいなら、僕のように白くないと。今晩泊めてあげるから家においでよ。秘訣を教えるよ」

4.
 ウサギの家は山奥の森の中にあった。大きなキノコをくり抜いてできた家だった。煙突が一本だけ立った風変わりな建物だった。ウサギに案内されて、家のドアの前までやってきた。

「ここが、僕のお家さ。ささ、中に入ってくれ。ゆっくりくつろいでくれていいんだよ」

 コリンは、背中を押されて家の中に入る。その中には、ワラで作られた寝床と山盛りの草木の葉が積まれていた。

「どこでも、座ってくれ。お茶を持ってくるよ」

 台所で上機嫌に鼻歌を歌いながら、お湯を沸かしているのが分かった。しばらくすると、お茶を持ってやって来た。コリンは、軽く一礼してからお茶に手を付けた。ウサギもお茶を一口飲んだ。そして、ゆっくりと口を開いた。

「君は僕のホワイトパールのような白さの秘密を知りたいんだね」

「僕は、彼女に振り向いてもらえるならなんでもする。恋のライバルに負けたくないんだ」

 コリンはウサギの目を真っすぐ見つめて言った。ウサギは、うなずくとその白さの秘訣を語り始めた。

「空を見上げると雲が見えるだろ?この山をずんずん登ったところでは、雲に触れられるんだ。そうすれば、君もカリフラワーみたいに白くなれる。今日はもう遅いから、一晩ここに泊まって明日出発するといい」

 コリンはその日、歩き疲れていたので、ウサギの親切に甘えることにした。ワラのベッドで横になるとすぐに眠りについてしまった。

5.
 その晩、コリンは、「ウォォーン」というオオカミの鳴き声を聞いて、目を覚ました。

すると、夜の暗がりの中、ロウソク一本の明かりを頼りに縄をなっているウサギの後ろ姿が見えた。コリンが、もう一度眠りにつこうとした時、

「これで、今日の朝食はごちそうが食べられるぞ」
 
 コリンは耳を疑った。ウサギは自分を収穫しようとしている。早く逃げなくては。気づかれないように、そっとベッドから抜け出すと命からがらウサギの家から飛び出した。

6.
 外に出るとまだ夜明け前の暗がりだった。いつウサギが気づいて追いかけてくるのか分からないので走った。一心不乱に走った。山の頂上を目指した。雲に触れると白くなれると信じていたからだ。途中、足を滑らせて転んでしまったり、川に落ちて溺れそうになった。リスに追いかけられたりもした。山の頂上付近にさしかかった頃、雪が降り始めた。舞い散る雪が朝日に照らされて美しかった。コリンの足取りも軽くなる。もう、そこには眼下に雲海が広がっていた。まるで空中を歩いているようだった。コリンは、自分の体をみた。白くなっている。喜ぶコリン。

「カリフラワーみたいに、本当に白くなれた。ウサギさんの言うとおりだった」

そこに、一羽のカラスが現れる。

「雪に降られただけで、何を喜んでいるんだい?白くなったのは体に雪が積もっただけだよ」

 それを聞いて、ようやくコリンは事態を理解した。ウサギは、自分を一晩泊める口実として嘘をついていたのだと。カラスは、さらに続けた。

「体の色が白でも、緑でも君は君だよ」

 コリンは自分が恥ずかしくなった。浅はかな考えに嫌気がさした。急いで山を下りた

今日は晴れの日で日差しが強くて暖かかった。山の中腹に着いた頃には、体の雪も溶けていた。山に登る前より気分が晴れやかだった。

コリンの体に小さな黄色い花が咲き始めていた。
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