王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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三章~新風紀委員会・親交会~

王子様はどっち?

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銀条彼方『場面~大量の書類を持ち、前が見えない生徒に対して~』

午前の移動教室の途中、ガッチリとした背の高い体格の生徒が大量の書類を持ち足元がおぼつかず、ふらふらとしていた。一度通り過ぎた銀条だったが、何を思ったのか淡々とした表情で戻って来ると「それ、貰うよ」と半分程度抜き取る。

「ああ、すみません!ありがとうございます。」

別に、と扉を開けながら書類を片付けると、生徒へ少々小生意気な笑顔を返した。

「良い運動になったから、構わないけど。」

その物言いに思わずときめいた生徒は、後日銀条のファンクラブに加入申請を出したらしい。




―――――――――――



「…あの台詞って、何処かで聞いた事あるんだけど。」

中等部のモニター室できゃあきゃあと騒がれているのとは裏腹に、高等部のモニター室では微妙な空気が流れた。恵の呟きに、淡々と見ていた美景の目が冷たく細まる。

(4月の下旬にあったスポーツの授業で、貧血に倒れた生徒を千里君が支えた事があったな…)

『良い運動になったから、構わないよ。』

その一連の出来事が素敵だと噂になっていた筈。
銀条彼方、頭に残っていたのか、敢えてだかは知らないが…そういう所が王子様と呼ばれない理由だろう。




―――――――――――



春宮千里『場面~大量の書類を持ち、前が見えない生徒に対して~』

時刻は、登校時間。教室へ向かう途中に、前方から大量の書類を持った不機嫌そうな生徒が見えた。

(いくら仕掛け人だからって、書類多すぎだろ!)

その生徒の横をすれ違う最中、一度目が合う。

「おはよう。たくさん持っているね、それは何処に持っていくんだい?」
「…あ、おはようございます。えっと、理科準備室です。」

一緒に持って行ってくれるのかと思った生徒の期待を裏切り、千里はそのまま行ってしまう。

(えー?…やっぱり優しいのは、かわいい子に限るんだな~)

変な納得をしつつ、生徒は寂しく歩き出す。ふらふらと歩き終えてやっと理科準備室の前に辿り着いた。勿論、両手はふさがり開けられない。
もう仕掛けを終えようかと思った時、背後から手が伸びてきてドアが開けられた。振り返ると「どうぞ」と微笑む春宮の若君。実は、生徒は気付いていなかったが、そっと後ろから着いて行っていたのである。

「…あ、の、ありがとうございました!!」

書類を置いて、深々と頭を下げる。来てくれるとは思わず、冴えない自分を助けてくれた事に感動したのだ。

(でも、何で書類を持ってくれなかったんだ?それは面倒臭いとか?)

ドアから出ていこうとする千里は一度立ち止まると、 また生徒の近くに戻ってきて自分より背の低い相手の頭をポンポンと撫でた。

「偉かったね。あれだけの物を運べた頑張りやさん、きっと今日は素敵な1日になるよ。」

そのまま踵を返した千里を見つめる生徒は、撫でられた頭に触れて俯く。後日、生徒は何も言わずボランティア部に入ったそうである。





―――――――――――





両方のモニター室からは、盛大な拍手が送られた。
採点が付けられる前から、銀条は強く唇を噛み締め拳を握りしめている。宇津井も銀条の敗北を悟っていた。

仕方ないね…。彼らとも親交会に向けて、このままで終われないか。
銀条と宇津井がモニター室からの視線が向いていないのを確認し、気付かれない様にモニター室へのカメラに近付く。

【銀条に点を】

それだけ唇の動きで言うと、然り気無く座っていた椅子に腰掛ける。それと同時に、宇津井がマイクを持ち直した。

【…ゴホン。それでは、採点結果を発表致します!】

静まり返る会場に、宇津井の通る声が響き渡る。

【得点は、銀条彼方さん……200点?!春宮千里さん198点です!】

「え?!それ本当なの!?」

進行を淡々とこなしてきた宇津井の口調がぶれるが、そんな事など知らず銀条の驚愕が被る。

【っ銀条彼方さんの勝利です!これで春宮さん2点、銀条さん1点となります。】

宇津井の何か言いたげな視線には、自身の唇に人差し指を当てて小さく頷いておく。

「…っやっぱり僕こそ、王子様だよね!」
「クス。凄いじゃないか銀条?」
「えへへ。いえ~春宮さんだって良かったですよ?」

一勝を得て多少気持ちに余裕を取り戻せ、上から目線となるのはもはやお約束だろう。さてと、と千里は軽く手を叩いて椅子から立ち上がる。

「もう一勝負といきたい所だけど、少々何やら問題が起こったようでね…最後の勝負はお預けで良いかな?」
「…え!でも。」

先ほど得点の発表の最中一人の執事がこっそり耳打ちしてきたのは、黒鎖と夏雪が何か問題を起こした事だった。
黒鎖ならともかく、夏雪もとは一体?
あの真面目な執事を思い出して疑問に思いながら、不満そうな銀条に顔を上げる。

「親交会までこれからまだ長い、いくらでも勝負の続きが出来る機会はあるよ。」
「ですが…「そうですね。分かりました、後片付けは中等部がしますので、春宮様はこのまま行って下さい。」

文句を言いかける銀条の前に出て、宇津井はしっかりと頭を下げた。宇津井は勿論分かっていた。最後の銀条の一勝が、千里の情けである事を。
春宮千里がどこまで心が広いか分からないが、銀条の態度は目に余る筈だ…とでも思っていそうだね。

「ありがとう。次の会議を楽しみにしているよ。これからも末永い付き合いを」
「…はい、此方こそ。」

何かまだ言おうとする銀条の腕を掴む宇津井は、千里の颯爽と去る姿に…こいつの勝てる気が、全くしないと思うばかりだった。

・魅力対決
春宮千里win

・忠誠心対決
春宮千里win

・優しさ対決
銀条彼方win?




「あー千里お帰り!格好良かったよ~。」
「お帰りなさいませ、千里君。」

モニター室に戻ると、高等部メンバーは既に帰る準備をしており、千里を見つけた恵が駆け寄って来た。

「ありがとう、可愛い人。…ん?どうしたんだい、桐埼。」

恵の頭を撫でて微笑み合うと、直久の親衛隊隊長から視線を感じる。普段冷静な彼にしては珍しく、少々戸惑っているようだ。

「…は、はい。それが、銀条君と春宮様との対決の途中で、急に冬宮様が何処かに行かれて。」
「だからさ~。冬宮のただの気まぐれじゃね?」

桐埼の戸惑いに、明日霞の興味無さそうな口調が続くが「ですが…」と桐埼は視線を落とす。他人にあまり興味を持たない直久だが、千里の事に対して気まぐれを起こす事は絶対に無い。

「それに、いつもと様子も違っていらして…。」

常に傍に居る親衛隊隊長が言うのだから、周囲の者が言うように軽くは考えられないだろう。

「そう、分かったよ。僕からも後で連絡してみよう。」
「っすみません、よろしくお願いします!」

勢い良く顔を上げた桐埼は、深々と頭を下げる。桐埼と同じクラスで親しい都丸兄弟も、智を部屋まで送り届けたら一緒に直久を探すと言っていた。

都丸兄弟も色々あってから、智へ更に過保護が上がっているな。…うん。でもその前に夏雪の事か。直久の事はとりあえずは親衛隊に任せておこう。彼だって弱い人間じゃ無い筈だ。
先ほどから扉近くに控える執事…如月だったか?に声をかけ、夏雪と黒鎖の元への案内を促したのである。

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