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一章~新入生親睦会~
閑話ーある当主の呟きー
しおりを挟む「…月宮か。」
ある邸の書斎の椅子に座り、男性が一人ごちた。室内のソファーに座り読書をしていた女性が顔を上げる。
「月宮家の事ですか?」
柔らかで優しい声音の女性は、その美しい顔に少し不安げな色が伺えた。
ああ、と男性がそれに頷く。30代後半頃の男性は、人の上に立つ圧倒的な王者のオーラと怜利な美しさを持つ。しかし、その冷たさは今は和らぎ女性とはリラックスして会話をしている。
「全く、月宮のガキは何というしつこさだ。」
机を苛立ちを隠さず指先でトントンと叩く。男性の言葉に女性も「そうね」と眉を下げて息を吐いた。
「よっぽど納得いかなかったのかしら?」
だろうな、と舌打ちをする。
「重度の病にかかり、3年間の婚約は解消。…新たなもう一人居た息子が後継として立ったので、よろしく頼むとな。」
「…そう言っても、直ぐには納得出来ないのは分かりますけど。」
女性は美しい顔に小さく苦笑を浮かべ、ふと窓を見つめた。
「…千里は、婚約も、婚約解消も知らなかったのでしょう?」
男性は、僅かに責める様な相手の視線に気まずそうに視線を反らし早口で返す。
「言えたと思うか?私が何も言わなかったというのに、男として振る舞い始めたあいつに。」
それに、と男性はきっぱりと言い切った。
「…今、あいつは千里だ。既にあいつは春宮の次期当主。」
それに対し、女性の瞳から透明の雫がホロホロと零れ落ちる。
「ごめんなさい。」
哀しい涙を流す女性に、男性は困惑しつつ女性に近付くと労る様に柔らかな髪を撫でる。
良いんだ。君のせいでは無い。
常を知る者が知れば驚く程に優しくそう言うが、女性は頭を振る。
「…悔しいんです。あの子が、体の弱い私が後継を産めないから、貴方が連れてきた腹違いの男子だと言われて…。それに、あの子の女としての人生は、重病で入院などで終わって…。」
男性は無言で後ろから女性を抱き締める。
「千里は、千里は、どう生まれても当主としての人生を選んだろう。そういう奴だ。」
それに、と男性は少し不機嫌そうに口端を下げる。
「…大事に育てた娘を、嫁にやるよりずっと良い。」
思わずと言った様に女性はプッと吹き出す。
「そう思ってるのなら、千里にも言えば良いのに。」
女性の言葉に、心当たりがあるのか男性は口を閉ざしてしまう。たった一人の嫡子だ。男であれ女であれ、表だって甘やかせる環境では無かった。
体の弱い本妻は、もう子どもが産めない。妾で良いから跡取りの為に作れと言われたが、絶対に妻以外は要らなかった。
それに、女だからと千里の何処が不足だ?一族のガキ共で娘より優れた者は居なかった。娘の為、女扱いしたり、育て方を替えはしなかった。帝王学も経営学も、教育は全て叩き込んだ。自慢の私の子どもだ。
「…本当は、親ばかだものね?」
「…っだから何だ。」
「いいえ?何も。」
クスクスと女性は笑い、そういえばと顔を上げる。
「そういえば、どうして月宮家を選んだのです?」
婚約解消をしたが、女性には様々な大家を思い浮かべ、何故月宮家にしたか不思議だったのだ。ああ、と男性は軽く頷く。
「…候補はいくらかあったな。」
終わった事であるし、男性も世間話の様に話し始めた。
三大名家の冬宮家は、後継問題で揉めており、有力な三男は完璧主義だと有名で冷たそうなので除外。
資産家の桜川家の後継の末子は、甘やかされていると知られているので除外。
外資系で名門の園原グループの子息は、プライドが高くて潔癖だと知ったので除外。
警察関係や極道関係は、勿論除外。
「…月宮の子息は穏やかで癖も無いと聞いたからな。だが、千里と面識も無い筈だが、此処まで騒ぐとは。」
そうねえ、と女性も首を傾げる。
「まあ、とにかく…仮に千里が女だとバレた場合、これらの家にやる気は無いな。」
のほほんとした女性に肯定を返し、思ったままを言う。その時、軽いノックで扉が開かれた。
「失礼致します。」
「…爺やか。どうした?」
年を感じさせぬ美しいお辞儀の執事に、男性も直ぐに用件に入る。
「…若君様が、三人目を引き入れられた様でございます。」
男性の瞳が細まり、不敵に微笑んだ。
「…そうか。引き続き頼む。」
はい、と老齢の執事は静かに去っていく。
全く…あいつは私の子としては、勿体無い程だな。
春宮現当主と奥方は、視線を交わし微笑み合うのであった。
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