3 / 33
次男坊と買い物
しおりを挟む機嫌良く隣を歩く弟からなんとなく距離をとる。
それに気付いた慎二は、小首を傾げて距離を縮めて来る。
「何で離れてんの~?」
…うっせえ。
「…だってあんたの制服目立つじゃん。」
弟は名門中学の制服のイケメン。
隣を歩く私は、自分で言うのも悲しいが平凡だし。遺伝子の馬鹿やろう!
「え~良いじゃん。つうか、姉さん今日可愛いね。」
おお、流石オシャレ男。こういう所は他の弟達とは違うと感じる。
「ん、分かった?パンプスとジャケットだけ買ったんだよね。」
「へぇ~!姉さんって、ピンク似合うよね。可愛いーよ。」
そう言ってにこりと笑う慎二に、由香利は苦笑してしまう。 由香利の家は両親の出張が多く、寂しいだろうと思い幼い弟達の面倒を見ていたのは自分だ。
まあ、隆とは一才しか変わらないのだが。 その為か、今では両親よりも由香利の言う事の方が聞く。
その上、寂しさのせいか弟達から妙に依存?されている気がするのだ。
…もっと放置しとけば良かったかもなぁ。今さら遅いけどね。
そんな事を考えている間に、行き付けのスーパーに着いた。
「…何買うかー。あ…。」
財布の中身を確認していた由香利は動きを止める。
「どーしたの?姉さん。」
「…う、千円しかない。」
千円で何が買えるんだよ、私。
慎二は目を瞬いて、へらりといつもの笑みを浮かべる。
「そうなの?大丈夫。俺結構持ってきたから~。」
…う。なんか情けない。中2に奢らせるなんて!でも家に戻るのは正直面倒臭いので、今日は素直にそれに甘えておく。
「…ごめんよ、慎ちゃん。」
「全然良いよ~!」
次回は財布の確認を胸に、とりあえず昼食を選びながらとりとめのない雑談を続ける。
「…そういや慎、委員会どうなったの?」
「ああ。俺、生徒会庶務だったっしょ?」
「うん。」
庶務って面倒くさそう。むしろ生徒会自体が大変だと思うわー。そんな私は、中学までは放送部やソフトテニスを緩く兼任していましたが。
「うちの中学、役員って指名制じゃん?今度は会長かも。」
は?会長?!って、生徒会の会長って事だよね!
「マジで?!」
うん、と緩く笑う慎二に、由香利は何とも言えない表情を浮かべた。
隆一はバスケ部部長だし。
慎二は生徒会会長。
まだ帰って来てない、三弥は新入生代表だっけ。 四毅は留学して英語ペラペラだし。
スペックの高い弟達を思い、何か悲しくなってきた由香利である。
「…ジュース何買う?」
内心気落ちしながらも、目は並ぶ商品を物色をしていく。
「俺、炭酸系~姉さんは?」
「…適当に入れて。」
「おっけ~!」
沈む心のまま返事を返す。直ぐにカゴにチャチャッと入れる慎二を見ていると、ポケットの携帯が鳴った。
「…誰?ん?…隆か。みつとしーが帰ったの?慎~!」
「何ぃ?」
先ほど思い出していた三男と四男からのメールを見て、慎二に声を掛けるとのんびり顔を上げている。
「ツインズ帰って来たって!」
「あ、マジ?じゃあ、入学祝いに何か買ってこ!」
由香利も笑みを浮かべて頷いた。やっぱり、気が利く男だなと思う。下の弟二人は今日、揃って入学式である。勿論同じ年だからだが。
普段家に居ない両親も行事関連は参加する。しかし、本人たちに悪気は無いらしいが終えるとすぐに居なくなってしまう。それを知っている慎二は、代わりにお祝いをしようと言ったのだろう。
「ケーキ買う~?」
「んー良いよ。」
夕飯の材料と昼食分を買い、帰路に着く。 荷物はほとんど慎二が持っているので、由香利はのんびり歩いた。
…いやあ、弟って便利だよね。男って本当に力が違うなー。
行きと同じく短い距離の為、直ぐに家に着き荷物を運び込んだ。
「「ただいま~!」」
慎二は食材を冷蔵庫に手慣れた様子で入れ始め、由香利は居間に入る。居間ではソファーに座る目付きの悪い金髪美少年と、静かに読書をする綺麗な黒髪美少年を見つける。
「…で?入学式どうだった?」
由香利が隣に座った途端、金髪美少年…四男の四毅は由香利の肩に寄り掛かかった。体重は掛けられず、気遣いが感じられる。
「…マジつまらな過ぎた。ちょー眠い。」
そう言って欠伸をする弟の頭を軽く撫でて置く。まあ、不良と呼ばれる四毅が入学式に参加出来ただけでご褒美ものなのだ。
「…そう。で、みつは?」
「………うるさかった。」
そうに、呟く様な小さな声で答えてきた。
…三弥にとっては苦痛だろうなぁ。
三男の三弥は、小さな頃からとても繊細で人見知りだった。特に集団は余計に駄目だ。ほんの少しでも触れられたり、例えば擦れ違ってぶつかったりするだけでも体調を崩してしまう。
まぁ…小さな頃から比べたら、随分改善してきたが。
「…うん。頑張ったね。」
由香利は微笑み、三弥の後ろから頭を撫でる。三弥は他の兄弟なら避けようとするが、由香利からならば平気らしく避けたりしない。
可愛いなぁ…と思いながら、テレビをチラリと見た。
あ…クイズ。I need you…意味?何だっけ?
あまり英語は得意で無いのは自覚している。
「…私は、元気です?」
四毅は一瞬黙り、次いでぼそりと呟いた。
「貴方が必要です…。」
……この帰国子女め!悪意は無いのは分かっているけどさ。
「…どうせ、英語は2だよ!金髪イケメン野郎!」
悪態では無い内容を叫びソファーに突っ伏すと、四毅は身体ごと寄りかかって来た。
「良いじゃねぇか、日本人だし。」
「ペラペラのあんたに言われてもさぁ…。」
眉をしかめた由香利に、四毅はべったり引っ付く。
その外見に反し、末っ子らしく甘えるのは上手である。
「…外国行く時は、俺と行けば良いだろ?」
…きゅん。ヤバい!弟じゃなかったら、告白しそうだった。
台詞にときめくものの、やはり弟であるので可愛さが勝っていた。
「…はいはい。」
そうして三弥と四毅と話している間に、良い匂いが漂ってきた。うう…お腹空いてきた。
「ご飯出来たよ~!」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる