私は平凡周りは非凡

由紀

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温泉で

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断固拒否を貫こうとした姉弟だったが、結局両親のごり押しに負け直ぐに父の運転により強制的に出発し、それなりに高級感溢れるホテルへと着いたのである。

今現在、土曜日の夕方。勿論学生の私たち姉弟は、滞在出来るのは一泊のみだ。両親は準備がよろしく3ヶ月前から予約していたそうで、すんなりチェックイン出来た。

「…うわあ、すっごい良い部屋だー!」

なんだかんだテンションの上がる由香利は自前のデジカメで、早速浴衣に着替えた両親を撮ってみる。

「「いえーい!」」

…って、どこぞのバカップルか!
つい隆一と顔を見合わせ溜め息を吐く。両親は浴衣、隆一はメーカー物の黒いジャージ。慎二は白いTシャツに黒いベストに、ジーンズとハット。三弥はTシャツにカーディガンを羽織り、四毅は服よりジャラジャラのピアスとアクセサリーに目が行く。

うん。皆絶好調だなあ。
はしゃぐ両親を尻目に、由香利は寝室の配分を考えていた。和室に布団三枚、洋室1にベッド二つ、洋室2にベッド二つ。

うーん。まあ、後で考えるとして。今はそれよりも。

「ねえ?温泉街お散歩いきましょうよ!」

楽しげな両親だが、姉弟にとってはあまり一緒には行きたくないテンションである。仕方無く由香利が、荷物を片付けつつ自然な口調で繋げる。 

「…じゃあ、最初に二人で見に行って来てリサーチしてくる?良い所があったら皆で行こっか。」 

にこっと笑って言うと、両親も直ぐに乗せられて準備を始めた。

「「じゃあ、行ってきまーす!」」

腕を絡め出ていく新婚夫婦の様な二人に、やっと姉弟は各々座り込んだ。

「…さすが姉さん。」

疲れた様に笑う慎二に、思わず苦笑する。
皆新学期で疲れてるんだから、この土日の休みは止めて欲しかっただろうし。

「たぶん、夜まで戻って来ない。」

ポツリと呟く三弥に、四毅もそれに同意し頷く。

「…んじゃ、どーする?俺は、カラオケ希望で。」

両親が居なくなった事で出てきた四毅の提案に、体を動かしたい隆一は違う意見を出す。

「いや、温泉と言えば卓球だろ?」

んー、と慎二が唸ると別方向へと舵を切る。

「此処はプールでしょ。」

物静かだからと言って流される訳では無い三弥が少し考え、口を開く。

「本のコーナーでのんびりする。」

意見が分かれた…。此処で私が決めるのは簡単だけどね。
むむ、と顔を見合わせる四人。由香利はホテル案内の用紙を半分にちぎり、幾つか線を書き入れた。

「…はいはい、争いストップ。ほら、アミダするよー。」

その声で険悪な雰囲気も薄れ、返事を返し名前を書き入れる弟達。

「…ん、俺が一番だな?」

由香利のチェックが終わると、順番が決まった。

「じゃあ、一番卓球、二番カラオケ、三番本、四番プールね。」

とりあえず、と考える。

「母さん達がいつ帰るか分からないし、卓球前に温泉入る?入ってから、卓球コーナー集合で。」

勿論異論の無い四人に頷き、準備をして向かう。入り口で女湯と男湯に分かれ、暖簾をくぐり久しぶりの温泉にのんびりと浸かり疲れを癒す。

「…はあ、温泉サイコ~!」

30分程広い浴槽や露天風呂に浸かり、温泉を後にした。長風呂の慎二以外は、もう三人は出てるだろうなあ。 
自販機でいちご牛乳を買おうとした時、背後から思わぬ声が掛かる。

「…もしかして、有川さん?」

ん?
名前を呼ばれ驚いて振り返ると、色素の薄い髪が自然に揺れる美少年。

「あ!…一ノ瀬君?」

一ノ瀬は人当たりの良い笑みを浮かべ、少し近付く。

「うん、こんばんは。もう、怪我は大丈夫?突然帰ったから驚いたよ。」
「あ、ごめんね?先生が強制的に返すから…。」

苦笑する由香利は、一ノ瀬の服装に気づく。にこやかな一ノ瀬は、見るからに高級そうな黒いスーツにグレーのネクタイで中々に決まっている。

「…えっと、一ノ瀬君は何か用事で此処に?」
「ああ、うん。このホテルって、父の会社の一つなんだ。今日はお連れで連れて来られちゃって…。」

そう言って苦い笑みと共に頬を掻く一ノ瀬は、少し疲れた印象を受ける。
お金持ちだとは思ったけど、それなりに色々大変なのかも?

「そっかあ、大変そうだね?お疲れ様です。」

気負った様子も無く小さく微笑む由香利に、一ノ瀬は驚きに目を見張る。

(俺が社長の息子だって知ったら…媚びたり、顔色を伺う子ばっかりなのに…)

自然な笑顔の相手に、一ノ瀬は自分でも知らず知らずの内に惹かれていた。

「…有川さん、良かったらこの後…。」
「姉さん。」

思わず口から出ていた一ノ瀬の台詞が終わらない間に、由香利に声が掛かった。


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