20 / 33
温泉で
しおりを挟む断固拒否を貫こうとした姉弟だったが、結局両親のごり押しに負け直ぐに父の運転により強制的に出発し、それなりに高級感溢れるホテルへと着いたのである。
今現在、土曜日の夕方。勿論学生の私たち姉弟は、滞在出来るのは一泊のみだ。両親は準備がよろしく3ヶ月前から予約していたそうで、すんなりチェックイン出来た。
「…うわあ、すっごい良い部屋だー!」
なんだかんだテンションの上がる由香利は自前のデジカメで、早速浴衣に着替えた両親を撮ってみる。
「「いえーい!」」
…って、どこぞのバカップルか!
つい隆一と顔を見合わせ溜め息を吐く。両親は浴衣、隆一はメーカー物の黒いジャージ。慎二は白いTシャツに黒いベストに、ジーンズとハット。三弥はTシャツにカーディガンを羽織り、四毅は服よりジャラジャラのピアスとアクセサリーに目が行く。
うん。皆絶好調だなあ。
はしゃぐ両親を尻目に、由香利は寝室の配分を考えていた。和室に布団三枚、洋室1にベッド二つ、洋室2にベッド二つ。
うーん。まあ、後で考えるとして。今はそれよりも。
「ねえ?温泉街お散歩いきましょうよ!」
楽しげな両親だが、姉弟にとってはあまり一緒には行きたくないテンションである。仕方無く由香利が、荷物を片付けつつ自然な口調で繋げる。
「…じゃあ、最初に二人で見に行って来てリサーチしてくる?良い所があったら皆で行こっか。」
にこっと笑って言うと、両親も直ぐに乗せられて準備を始めた。
「「じゃあ、行ってきまーす!」」
腕を絡め出ていく新婚夫婦の様な二人に、やっと姉弟は各々座り込んだ。
「…さすが姉さん。」
疲れた様に笑う慎二に、思わず苦笑する。
皆新学期で疲れてるんだから、この土日の休みは止めて欲しかっただろうし。
「たぶん、夜まで戻って来ない。」
ポツリと呟く三弥に、四毅もそれに同意し頷く。
「…んじゃ、どーする?俺は、カラオケ希望で。」
両親が居なくなった事で出てきた四毅の提案に、体を動かしたい隆一は違う意見を出す。
「いや、温泉と言えば卓球だろ?」
んー、と慎二が唸ると別方向へと舵を切る。
「此処はプールでしょ。」
物静かだからと言って流される訳では無い三弥が少し考え、口を開く。
「本のコーナーでのんびりする。」
意見が分かれた…。此処で私が決めるのは簡単だけどね。
むむ、と顔を見合わせる四人。由香利はホテル案内の用紙を半分にちぎり、幾つか線を書き入れた。
「…はいはい、争いストップ。ほら、アミダするよー。」
その声で険悪な雰囲気も薄れ、返事を返し名前を書き入れる弟達。
「…ん、俺が一番だな?」
由香利のチェックが終わると、順番が決まった。
「じゃあ、一番卓球、二番カラオケ、三番本、四番プールね。」
とりあえず、と考える。
「母さん達がいつ帰るか分からないし、卓球前に温泉入る?入ってから、卓球コーナー集合で。」
勿論異論の無い四人に頷き、準備をして向かう。入り口で女湯と男湯に分かれ、暖簾をくぐり久しぶりの温泉にのんびりと浸かり疲れを癒す。
「…はあ、温泉サイコ~!」
30分程広い浴槽や露天風呂に浸かり、温泉を後にした。長風呂の慎二以外は、もう三人は出てるだろうなあ。
自販機でいちご牛乳を買おうとした時、背後から思わぬ声が掛かる。
「…もしかして、有川さん?」
ん?
名前を呼ばれ驚いて振り返ると、色素の薄い髪が自然に揺れる美少年。
「あ!…一ノ瀬君?」
一ノ瀬は人当たりの良い笑みを浮かべ、少し近付く。
「うん、こんばんは。もう、怪我は大丈夫?突然帰ったから驚いたよ。」
「あ、ごめんね?先生が強制的に返すから…。」
苦笑する由香利は、一ノ瀬の服装に気づく。にこやかな一ノ瀬は、見るからに高級そうな黒いスーツにグレーのネクタイで中々に決まっている。
「…えっと、一ノ瀬君は何か用事で此処に?」
「ああ、うん。このホテルって、父の会社の一つなんだ。今日はお連れで連れて来られちゃって…。」
そう言って苦い笑みと共に頬を掻く一ノ瀬は、少し疲れた印象を受ける。
お金持ちだとは思ったけど、それなりに色々大変なのかも?
「そっかあ、大変そうだね?お疲れ様です。」
気負った様子も無く小さく微笑む由香利に、一ノ瀬は驚きに目を見張る。
(俺が社長の息子だって知ったら…媚びたり、顔色を伺う子ばっかりなのに…)
自然な笑顔の相手に、一ノ瀬は自分でも知らず知らずの内に惹かれていた。
「…有川さん、良かったらこの後…。」
「姉さん。」
思わず口から出ていた一ノ瀬の台詞が終わらない間に、由香利に声が掛かった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
転生先は男女比50:1の世界!?
4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。
「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」
デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・
どうなる!?学園生活!!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる