私は平凡周りは非凡

由紀

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真夜中

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ど、どうしよう?あまり騒がれると近くの双子が起きるし。

「…うう~大事な娘を~…。」

少し呂律の怪しい父に新たな疑問が生まれた。

「…父さん、酔ってる?」
「よって…らいよ?」

うん。酔ってるな。そういえば母は早寝派だが、父は晩酌が日課だったっけ。一階にあるバーで独り呑みして、戻って来たというところか。

「…あー。そういえば。」
「どうかした…?」

首を傾げる様は、子どもが5人も居る父には到底見えない。

「母さんがずーっと父さんを待っててね~。寂しいって言ってたよ?」

わざとらしく抑揚をつけて言えば、妻を溺愛する父は「直ぐ行くよママー!」と騒がしく走って行く。

よし、片付いた。明日は覚えていませんように。
内心祈りつつ、そろーりと布団に向かう。
はあ~…これで寝れる。
安心しつつ、ふと窓の方を見れば目に入る隆一の背中。

「…隆一?まだ寝てなかったの?」
「姉貴。」

振り返るイケメンは、やはり自分の弟だと思えない。まあ幼い頃を知らなければ…。

「佑介の電話は…まあ、部活とかがメインで。…まあ、その…。」

ん?珍しい。さっぱりとした気性の隆がはっきり言わないなんて。

「別に言いたくないなら良いよ。」

柔らかく由香利が言うものの、隆一の表情には戸惑いが見られる。
あれ、本当にどした?

そのまま放っとくわけにはいかず、窓辺の椅子に座らせ由香利も隣に座る。普段弟達に遠慮してか、長男という思いがあるからか弱い部分はあまり見せない隆一だが、由香利と二人きりの時は多少年齢相応になる気がするのだ。元気の無い隆一の頭を軽く撫でてみる。

「…ねえ。もしかして、佑介君と喧嘩でもした?それとも、部活関係…。」
「いや…。」

隆一は少し思案し、ぽつぽつと話し出す。

「…うちの部活には、マネージャーが8人居て、その中の一人の女子は一年時から部を支えてくれてて…。」

うんうん。
頷き、視線だけで続きを促す。

「その女子が、佑介を通して言ってきたらしい。……俺と付き合いたい。らしい。」
「…へ、ええ~。」

うん。まあ。ありえるだろうな~。こんな男前ほっとかれないでしょ?ていうか、今までそんな話し無かったのがおかしいくらいだし。 

勿論興味津々の年頃であるので詳しく聞きたい所だが、隆一の雰囲気を読んで続きを黙って待つ。

「…はあ。そいつは、俺が断ったら部活を辞めるって言ってるそうだ。…今年は最後だし、なるべく問題は起こしたくない。…それで迷ってるんだ。」

なるほどねえ~。隆一のバスケ部は、確か県大会の常連校だもんね。3年生だし、部活に集中したいだろうしね。

「…そうだよね。部活も最後だし、受験もあるし、今はちょっと無理だよね…言ってみたら?少し待っててくれって。」

恋愛経験なんてあまり無いけれど、姉らしくとりあえず思い付いたままのアドバイスはしてみる。

「…それは、無理だ。」

それでも何故か、隆一の表情には複雑そうに眉が寄ったまま。

「何で?」
「その女子を、好きになれない。」

うー?好きになれない?
由香利の頭に疑問が浮かぶ。

「その子が嫌い?嫌な子なの?マネージャーを頑張る子が嫌な子って不思議だけど。」

いや、と隆一は頭をゆっくりと振る。

「美人だし、頭も良いし、明るい。」

うん。さいですか。私からはかけ離れたタイプって事か。

「じゃあ、何が嫌なの?考えておくってだけでも伝えとけば良いのに。」
「…姉貴は、他に好きな相手が居てもそう言うのか?」

隆一の言葉に一瞬固まり、その内容を理解すると直後嬉しそうに相手の肩を軽く叩く。

「…なーんだ!そっかあ~そうなら、言いづらいよね?しょーがない。」

隆の好きな子か~どんな子だろう?気になるな。絶対良い子だよね。

「あ、でも断ったら部活を辞めるんだっけ。それは言えないよね。」

最初の問題に戻ってしまうが、やっぱり結論は出ない。結局は時間も時間なので、今日の所は寝る事にした二人である。

「…何か解決できなくてごめん?あ、ところで隆の好きな子ってどんな子なの?」
「……秘密。」

目を逸らし逃げる様に輝き去った弟に、由香利は安堵していた。
良かった。隆もそーゆう気持ちがあったんだなあ。良いねえ…青春青春。

隆一の隠された心情も知らず、由香利はご機嫌で布団に潜るのだった。

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