異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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とある従者の生活

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「ノアベルトレ様、おはようございます!今日も晴天で気持ちの良い朝ですよ。朝はカモミールを用意させて頂きました。制服ですが、袖口に土埃がありましたので新しく此方をご使用下さいませ。…そういえば、ライヒテントリット家より手紙が届いておりますので、いつもの場所へ置いております。きっと、バルディオスでの夜会についてでは無いでしょうか?」

挨拶をしながら主の着付けの手伝いを終え、髪に櫛を通しながら話を続けていく。淀みない口調は従者として申し分無く、自らも皺ひとつない制服を身に付けて隙を感じさせない。それだけなら、優秀な従者と見えるだろうが…何よりも、相手へ仕えるのが嬉しくて堪らないようだ。

「…そうか。そうそう、今日は風紀指導委員会を昼に行う。」
「畏まりました。いつもの様に、終了後に会議室の前で待機しております。」

ああ、と頷く主をうっとりと見つめる視線は、従者から主人へ向けて以上の物がある。向けられた側は気にした様子無く、持ち物の確認を行っていた。

「指導委員会の顧問教師から人数を増やしたいと意向があったのだが、お前はどうだい?」
「このヴィムがでしょうか?…共に過ごせる時間が増えるのは真に喜ばしいですが、学業と両立出来る自信がございませんので。」
「お前は謙虚だね。」

とんでもございません、と従者は微笑む。ただ、完璧に仕える為には、委員会の仕事は増やせないと考えたまで。それに、ノアベルトレを守る為には今の生活は変えられなかった。
ヴィム・ザッハー。この身は全て貴方様の為に。





「へえ、指導委員を増やすんだ。じゃあ、騎士科に声が掛かるかも…是非とも、私の事推薦して良いよ!」
「お前の様な頭の軽い者を主に関わらせる気は無い。」

キッパリと否定された騎士科の生徒は肩を落とす。これでも中等部からの付き合いなので、相手の性格は重々承知ではあるが。2学年騎士科の座学授業の合間、ネコにはよくある数人ずつの気心知れた者同士で会話を楽しむ。

騎士科の友人は呆れを含み、主人至上主義の相手の肩を叩く。

「そろそろ主人離れしろってー、ライヒテントリット卿も今年で高等部卒業だし、いつハレムに入ってもおかしくない年頃じゃないか。」
「ノアベルトレ様は、そこらのタチが触れて良い御方では無い。」
「…出た、いつもの決まり文句。」

吐き捨てる口調は、タチへの嫌悪がありありと伺える。従者にとって、ハレムに入るという事は夜の行為がどうしても切り離せない。あの若草色の御髪に触れて、柔らかい光を放つ瞳を向けられて、潤んだ唇に穢らわしくも純潔を奪うのか。臭い息を吐いて、固くて汚い身体を重ねて、飽きたら塵の様に扱う。なんと許せない。

具体的に思い浮かべて怒りが込み上げる。自分は誰に何をされても良いが、主人がタチに触れられるのを想像するだけで吐き気すら込み上げた。

「…はあ。で?どんなタチなら良いんだっけ?」
「そうだな……………タチというだけで論外だ。」

ヴィムの言葉は至って本気だ。あまりに冷たく吐き捨てられた言葉に、友人もそれ以上の言及は止めた。

「…夢を見るのは良いけど、ある程度妥協しないとな。年取れば取るほどハレムに入るのすら難しくなるし…ライヒテントリット卿は家柄的に大丈夫だろうけど。」
「家柄で見る奴など、それこそ此方から願い下げだ。」

従者の頑なな様子に、友人は肩を竦める。結局ネコの婚姻は父親次第。恋愛結婚は物語の中だけで楽しむ物。それなりの身分ならば相手は関係無く、いつかはハレムに入るのが常識。それも分かっているが、タチへの根本的な嫌悪は拭えない。

「…あーあ、キャベンディッシュ卿が羨ましい。私も運命的な出会いがしてみたいなー。」
「馬鹿馬鹿しい…。」

高等部に編入してきた物語の王子様の様なタチと、騎士科憧れのエドウィン・キャベンディッシュとの出会いからのハレム入りは、学校内でネコ達に衝撃を与えた物だ。
胸躍らせた1人である友人は、ヴィムの反応を気にせず美しさに磨きの掛かる騎士科筆頭を思い浮かべる。うっとりする友人とは裏腹に、隣に並ぶ冷め切った表情を取り繕う事もせず、授業の予鈴に耳を傾けた。

「おっと、時間だ。今日の昼もライヒテントリット卿と一緒?」
「…そうだ。」

関わりの無い者なら気付けない僅かの違和感。友人は追及せず頷いた。何より、敬慕しているのを隠さないヴィムが、主人と会うのに何故こんな機械的な笑顔なのか。
友人しか知らない、絶対に洩らしてはならない秘密。
…ノアベルトレ・ライヒテントリットに知らせず、ヴィム・ザッハーは2学年のタチの手付き人となっている。




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