55 / 129
とある従者の生活
「ノアベルトレ様、おはようございます!今日も晴天で気持ちの良い朝ですよ。朝はカモミールを用意させて頂きました。制服ですが、袖口に土埃がありましたので新しく此方をご使用下さいませ。…そういえば、ライヒテントリット家より手紙が届いておりますので、いつもの場所へ置いております。きっと、バルディオスでの夜会についてでは無いでしょうか?」
挨拶をしながら主の着付けの手伝いを終え、髪に櫛を通しながら話を続けていく。淀みない口調は従者として申し分無く、自らも皺ひとつない制服を身に付けて隙を感じさせない。それだけなら、優秀な従者と見えるだろうが…何よりも、相手へ仕えるのが嬉しくて堪らないようだ。
「…そうか。そうそう、今日は風紀指導委員会を昼に行う。」
「畏まりました。いつもの様に、終了後に会議室の前で待機しております。」
ああ、と頷く主をうっとりと見つめる視線は、従者から主人へ向けて以上の物がある。向けられた側は気にした様子無く、持ち物の確認を行っていた。
「指導委員会の顧問教師から人数を増やしたいと意向があったのだが、お前はどうだい?」
「このヴィムがでしょうか?…共に過ごせる時間が増えるのは真に喜ばしいですが、学業と両立出来る自信がございませんので。」
「お前は謙虚だね。」
とんでもございません、と従者は微笑む。ただ、完璧に仕える為には、委員会の仕事は増やせないと考えたまで。それに、ノアベルトレを守る為には今の生活は変えられなかった。
ヴィム・ザッハー。この身は全て貴方様の為に。
*
「へえ、指導委員を増やすんだ。じゃあ、騎士科に声が掛かるかも…是非とも、私の事推薦して良いよ!」
「お前の様な頭の軽い者を主に関わらせる気は無い。」
キッパリと否定された騎士科の生徒は肩を落とす。これでも中等部からの付き合いなので、相手の性格は重々承知ではあるが。2学年騎士科の座学授業の合間、ネコにはよくある数人ずつの気心知れた者同士で会話を楽しむ。
騎士科の友人は呆れを含み、主人至上主義の相手の肩を叩く。
「そろそろ主人離れしろってー、ライヒテントリット卿も今年で高等部卒業だし、いつハレムに入ってもおかしくない年頃じゃないか。」
「ノアベルトレ様は、そこらのタチが触れて良い御方では無い。」
「…出た、いつもの決まり文句。」
吐き捨てる口調は、タチへの嫌悪がありありと伺える。従者にとって、ハレムに入るという事は夜の行為がどうしても切り離せない。あの若草色の御髪に触れて、柔らかい光を放つ瞳を向けられて、潤んだ唇に穢らわしくも純潔を奪うのか。臭い息を吐いて、固くて汚い身体を重ねて、飽きたら塵の様に扱う。なんと許せない。
具体的に思い浮かべて怒りが込み上げる。自分は誰に何をされても良いが、主人がタチに触れられるのを想像するだけで吐き気すら込み上げた。
「…はあ。で?どんなタチなら良いんだっけ?」
「そうだな……………タチというだけで論外だ。」
ヴィムの言葉は至って本気だ。あまりに冷たく吐き捨てられた言葉に、友人もそれ以上の言及は止めた。
「…夢を見るのは良いけど、ある程度妥協しないとな。年取れば取るほどハレムに入るのすら難しくなるし…ライヒテントリット卿は家柄的に大丈夫だろうけど。」
「家柄で見る奴など、それこそ此方から願い下げだ。」
従者の頑なな様子に、友人は肩を竦める。結局ネコの婚姻は父親次第。恋愛結婚は物語の中だけで楽しむ物。それなりの身分ならば相手は関係無く、いつかはハレムに入るのが常識。それも分かっているが、タチへの根本的な嫌悪は拭えない。
「…あーあ、キャベンディッシュ卿が羨ましい。私も運命的な出会いがしてみたいなー。」
「馬鹿馬鹿しい…。」
高等部に編入してきた物語の王子様の様なタチと、騎士科憧れのエドウィン・キャベンディッシュとの出会いからのハレム入りは、学校内でネコ達に衝撃を与えた物だ。
胸躍らせた1人である友人は、ヴィムの反応を気にせず美しさに磨きの掛かる騎士科筆頭を思い浮かべる。うっとりする友人とは裏腹に、隣に並ぶ冷め切った表情を取り繕う事もせず、授業の予鈴に耳を傾けた。
「おっと、時間だ。今日の昼もライヒテントリット卿と一緒?」
「…そうだ。」
関わりの無い者なら気付けない僅かの違和感。友人は追及せず頷いた。何より、敬慕しているのを隠さないヴィムが、主人と会うのに何故こんな機械的な笑顔なのか。
友人しか知らない、絶対に洩らしてはならない秘密。
…ノアベルトレ・ライヒテントリットに知らせず、ヴィム・ザッハーは2学年のタチの手付き人となっている。
あなたにおすすめの小説
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
事なかれ主義の回廊
由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。