異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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びば学園生活29

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このままでは、俺の提案を持ち帰り検討する…の流れになってしまうだろう。アンリの為にも非常に良くない。うーん、どうするか。

座るソファーから腰を上げて、ファビアンの隣に移動する。処罰についての話自体を終えようとしたのか「カップの中が冷めてしまいましたね、用意させましょう」と微笑むファビアンに、此処で逃してはならないと気を引き締める。
人を呼ぼうと立ち上がりかける正室の手を引いて、もう一度座らせると困惑気味に向けられる顔。それでも美しさを損なわない。

「…早く処罰を決めたいんだ。駄目かな?」
「それは…駄目、では無いのですが。…」

相手の片手を両手で包み、そのまま祈るように顔の前まで引き寄せる。釣られて近付く距離。

「君が頼りなんだよ…。」
「…っ!」

卑怯なのは承知だが、態と低い声音を心掛けてみる。微かにフェロモンも出てしまっているが気にせず、相手の反応を伺うと視線を彷徨わせ、上がる体温は握る手で知れた。

ファビアンの心の葛藤は大きく揺れに揺れていた。勿論、今直ぐタチに賛同してしまいたい。アルフレッドの顔を見れば見るほどに恋心は募るし、口付けをして欲しい、その胸に顔を埋めてしまいたい…と思考が逸れてしまっている。
それでも、頭の端でアンリとラティーフの関係を思い浮かべる。自身で謹慎を命じて置いて、ハレムの主人の一時の提案を鵜呑みにしてしまうのは責任を放棄するのと同じだ。

ハレムの第1正室の役割は重い。タチが考える以上に、全ての責任を背負っていく覚悟が必要だ。他の正室からは最後の判断を任され、側室へ適切な指示を出し、妾・手付き人・ハレムの子ども達・使用人に至る全てを把握し管理する。
出来なければ、第1正室は尊重されない。敬意を持たれない。そうなってしまった時には、ハレムの均衡が崩れ去る。

此処でアルフレッドへ「承知致しました」と素直に愛らしく請け負って、ラティーフ達にそのまま命じれば終わるだろう。だが、何処かでいずれ綻びが生まれる。
夫の言う事だけを聞く第1正室だと思われた時、ファビアンの権威はあっさり落ちていく。

アルフレッドの目にはほんの束の間だが、下の唇を噛み目を伏せたファビアン。次に上げられた表情には決意が表れていた。

「アルフレッド様。どうか、1日だけお時間を頂く許しを貰えませんでしょうか?」

おお?…1日、か。本当は早く決めて、もし難しいなら他の罰を考えないとって思ったんだけどな。
うーん…何だろ、やっぱ急過ぎたか?

眼鏡越でも伝わる相手からの真摯さは、これ以上此方の一方的な意見は押し通すのが難しそうだ。握ったままの手はどちらの緊張か戸惑いか、じっとり汗ばみ熱を持つ。

つか、俺ってどうかしてるな。

確かに、アンリが家から躾を受けた事も、ケールと話した事も知らせてないのに、都合の良い事だけ押し付けようとしてしまったかと思い直す。焦って勝手に盛り上がってしまった気持ちが、少しずつ冷えてくると共に、正室への配慮が無かったと後悔の念が込み上げた。

「…ああ。急だったね、勿論良く考えて欲しい。」
「はい…。なるべく早く結論を出せるよう善処致します。」
「うん、ありがとう。」

冷えた頭は正室への気まずい心地で、握っていた手を離す。
何となく視線を背けてしまう心情を知ってか知らずか、ファビアンの指先がアルフレッドが着るジャケットの袖に触れ、控えめに引いた。
その細やかな主張に惹かれ、外れた視線が重なり合う。

「ファビ…?どうかし…」
「…アルフレッド様。」

何か言いたげに此方を見上げる濡れた瞳は、今度は逃してくれない。

「私は、ご期待に添えられるよう努力致します。だから…お見捨てにならないで…。」
「…え?いや、ちょっと待って?俺がファビを見捨てるとか無いから!」

今にも泣き出しそうなのに、泣いたら余計に厭われると思うのか堪える姿がタチ心を打つ。

いやいや…。もしかして、俺が怒ったみたいに見えたかな?
嘘だろ、捨てられる事はあっても捨てるのは有り得ないって。

「…あの、ごめん。勘違いしたかな?たださ、自分が情けないって思って。自分に腹が立っただけなんだよ。」
「…………。」

無言で頷くファビアンは涙を堪えるのが難しいのか、震える息を吐いて瞬きと共に瞳から一雫こぼれ落ちる。誤魔化す様に慌てて俯き、眼鏡の位置を直す振りで拭われる目元。

…っうう。か、可愛い過ぎないか?
そんないじらしさを見てしまえば、アルフレッドも色々と限界だった。膝に乗せてでろでろに甘やかしてしまいたい…。あー、くっそ寝室に連れ去りたい…!
だが、懸命に自身を落ちかせようとするファビアンの気持ちを尊重しなければ…。

悶々と妄想を膨らませながら、ファビアンの頭を優しく撫でるに留めていた。



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