63 / 128
びば学園生活29
しおりを挟むこのままでは、俺の提案を持ち帰り検討する…の流れになってしまうだろう。アンリの為にも非常に良くない。うーん、どうするか。
座るソファーから腰を上げて、ファビアンの隣に移動する。処罰についての話自体を終えようとしたのか「カップの中が冷めてしまいましたね、用意させましょう」と微笑むファビアンに、此処で逃してはならないと気を引き締める。
人を呼ぼうと立ち上がりかける正室の手を引いて、もう一度座らせると困惑気味に向けられる顔。それでも美しさを損なわない。
「…早く処罰を決めたいんだ。駄目かな?」
「それは…駄目、では無いのですが。…」
相手の片手を両手で包み、そのまま祈るように顔の前まで引き寄せる。釣られて近付く距離。
「君が頼りなんだよ…。」
「…っ!」
卑怯なのは承知だが、態と低い声音を心掛けてみる。微かにフェロモンも出てしまっているが気にせず、相手の反応を伺うと視線を彷徨わせ、上がる体温は握る手で知れた。
ファビアンの心の葛藤は大きく揺れに揺れていた。勿論、今直ぐ夫に賛同してしまいたい。アルフレッドの顔を見れば見るほどに恋心は募るし、口付けをして欲しい、その胸に顔を埋めてしまいたい…と思考が逸れてしまっている。
それでも、頭の端でアンリとラティーフの関係を思い浮かべる。自身で謹慎を命じて置いて、ハレムの主人の一時の提案を鵜呑みにしてしまうのは責任を放棄するのと同じだ。
ハレムの第1正室の役割は重い。タチが考える以上に、全ての責任を背負っていく覚悟が必要だ。他の正室からは最後の判断を任され、側室へ適切な指示を出し、妾・手付き人・ハレムの子ども達・使用人に至る全てを把握し管理する。
出来なければ、第1正室は尊重されない。敬意を持たれない。そうなってしまった時には、ハレムの均衡が崩れ去る。
此処でアルフレッドへ「承知致しました」と素直に愛らしく請け負って、ラティーフ達にそのまま命じれば終わるだろう。だが、何処かでいずれ綻びが生まれる。
夫の言う事だけを聞く第1正室だと思われた時、ファビアンの権威はあっさり落ちていく。
アルフレッドの目にはほんの束の間だが、下の唇を噛み目を伏せたファビアン。次に上げられた表情には決意が表れていた。
「アルフレッド様。どうか、1日だけお時間を頂く許しを貰えませんでしょうか?」
おお?…1日、か。本当は早く決めて、もし難しいなら他の罰を考えないとって思ったんだけどな。
うーん…何だろ、やっぱ急過ぎたか?
眼鏡越でも伝わる相手からの真摯さは、これ以上此方の一方的な意見は押し通すのが難しそうだ。握ったままの手はどちらの緊張か戸惑いか、じっとり汗ばみ熱を持つ。
つか、俺ってどうかしてるな。
確かに、アンリが家から躾を受けた事も、ケールと話した事も知らせてないのに、都合の良い事だけ押し付けようとしてしまったかと思い直す。焦って勝手に盛り上がってしまった気持ちが、少しずつ冷えてくると共に、正室への配慮が無かったと後悔の念が込み上げた。
「…ああ。急だったね、勿論良く考えて欲しい。」
「はい…。なるべく早く結論を出せるよう善処致します。」
「うん、ありがとう。」
冷えた頭は正室への気まずい心地で、握っていた手を離す。
何となく視線を背けてしまう心情を知ってか知らずか、ファビアンの指先がアルフレッドが着るジャケットの袖に触れ、控えめに引いた。
その細やかな主張に惹かれ、外れた視線が重なり合う。
「ファビ…?どうかし…」
「…アルフレッド様。」
何か言いたげに此方を見上げる濡れた瞳は、今度は逃してくれない。
「私は、ご期待に添えられるよう努力致します。だから…お見捨てにならないで…。」
「…え?いや、ちょっと待って?俺がファビを見捨てるとか無いから!」
今にも泣き出しそうなのに、泣いたら余計に厭われると思うのか堪える姿がタチ心を打つ。
いやいや…。もしかして、俺が怒ったみたいに見えたかな?
嘘だろ、捨てられる事はあっても捨てるのは有り得ないって。
「…あの、ごめん。勘違いしたかな?たださ、自分が情けないって思って。自分に腹が立っただけなんだよ。」
「…………。」
無言で頷くファビアンは涙を堪えるのが難しいのか、震える息を吐いて瞬きと共に瞳から一雫こぼれ落ちる。誤魔化す様に慌てて俯き、眼鏡の位置を直す振りで拭われる目元。
…っうう。か、可愛い過ぎないか?
そんないじらしさを見てしまえば、アルフレッドも色々と限界だった。膝に乗せてでろでろに甘やかしてしまいたい…。あー、くっそ寝室に連れ去りたい…!
だが、懸命に自身を落ちかせようとするファビアンの気持ちを尊重しなければ…。
悶々と妄想を膨らませながら、ファビアンの頭を優しく撫でるに留めていた。
41
あなたにおすすめの小説
α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。
宵のうさぎ
BL
異世界に転生したと思ったら、オメガバースの世界でした。
しかも、どうやらここは前世の姉ちゃんが読んでいたBL漫画の世界らしい。
漫画の主人公であるハイスぺアルファ・レオンの友人モブアルファ・カイルとして過ごしていたはずなのに、なぜか俺が迫られている。
「カイル、君の為なら僕は全てを捨てられる」
え、後天的Ω?ビッチング!?
「カイル、僕を君のオメガにしてくれ」
この小説は主人公攻め、受けのビッチング(後天的Ω)の要素が含まれていますのでご注意を!
騎士団長子息モブアルファ×原作主人公アルファ(後天的Ωになる)
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル
諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします!
6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします!
間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。
グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。
グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。
書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。
一例 チーム『スペクター』
↓
チーム『マサムネ』
※イラスト頂きました。夕凪様より。
http://15452.mitemin.net/i192768/
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる