異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

文字の大きさ
65 / 129

密約 ラティーフ・シャヒーン視点




「…っどうか、それだけは…」

ラティーフへ向けられる顔色がみるみる変わっていく。血の気を失った顔で、その場に両膝を着いて床に額がついてしまう程頭を下げた。
そんなヴィムの姿になんの感慨も湧かず、腕を組んだまま見下ろす瞳は無感情ですらある。

「何のつもり?ねえ、誰かに見られたらぼくが変に思われるから、さっさと起きなよ。」
「…お願い致します。どうか、私の主にだけは!」

ラティーフの瞳が周囲を一巡する。とりあえず、今は人目は無さそうだ。だが、この状況を見られた場合損をするのは自分だ。
貴族階級が、騎士科の生徒を脅していただの虐めていただの…下世話な噂話の種になる気は更々無い。

とは言え、必死で懇願する目の前の生徒にとって、自尊心よりも今は許しを貰いたいと立ち上がる様子は見えない。ただ、許せる内容でも無いし、場合によって死罪もやむを得ない。だからこそのヴィムの態度なのだが。

「今度こそシュタルト様へ誠心誠意謝罪致します。いえ、私個人の物など塵芥ですが、全てお渡しさせて下さい。クラス落ちも構いません…何でも致しますので、どうか…。」

ふーん。
次はしっかり謝ります。
財産すべて献上します。
ネコのクラスを下げても良いです。
言う事聞きます…ね。

ラティーフの心には響かない。一従者の命だとて、持ちうる物だとて、タチに対して無礼を働いたのなら釣り合いが取れない。もしも、ラティーフがファビアンに伝えてしまえば、先ず主人のライヒテントリット子爵に責任を求め、爵位返上か家から追放か…ライヒテントリット家自体危ういか。

ハレムの主人と相思相愛なデルヴォー伯爵とキャベンディッシュ、信頼されているフィッツ…彼らだったら、ヴィムの発言を知れば制裁を行うだろう。

ヴィムにとって幸運な事に、ラティーフはアルフレッドへの情が薄かった。嫌いだとか無関心では無い、ただ…愛しているとは言えない心境だった。
アルフレッドからは指輪を貰い、正式な側室となった。ハレムでも、正室の次に重く扱われる様になった。

青髪の騎士を抱き寄せて、頬に口付ける姿を見た。
猫の獣人を膝に乗せて話しかける姿を見た。
テーブル席に着く時、ハレムの主人の両隣は正室の二人。
中等部の自分と、高等部の夫。寮の自室も遠い。

国から出る為の、足掛かりとしてのハレム入り。だから、愛される事は求めて居ない…そう。シュタルト様だって、手を出した手前ハレムに入れようと思っただろうし。

苛立たし気に眉根を寄せる。込み上げてくる言い知れない胸の靄を無理矢理振り払い、考えを纏めていく。
ここ数日で気分を悪くさせたのは、アンリ・フィッツの事。どんな罰を加えるのかと思えば、何故かぼくの従者に置けと言われる。尊敬するデルヴォー様から、丁寧に説明されたからこそ受け入れたが…。

本当は、シュタルト様から頼まれたのでしょう?
…なんて、聞けなかったけど。とても、嫌な予感がするのは確か。やめてよね、ハレムに入れる為の準備とか。

懇願し続ける相手を見下ろしながら、考える。此処で、主人諸共潰すよりも、手駒として置いておこうか。

「…ねえ、何でもするって言ったよね。ライヒテントリット子爵に言わず、お前だけが責任を負うと?」
「…はい!私に出来る事なら、何なりとお申し付け下さい。」
「ふうん。じゃあ、良いよ。」
「…っお許し、頂けるのですか?」

勢い良く上げられた顔に笑みを向ける。目の前で膝を落として、土下座したままの相手の耳へ唇を寄せる。
血の気の失せた青白い顔に、震える唇は憐れを誘う。

「今から言う事に従えるか?」

有無を言わせぬ支配者の口調。タチへの非礼を帳消しにする程の命令ならば、今後自分の全てを捧げなければならないと直感したヴィム。だが、自分で蒔いてしまった種なのだと悔やまれる。
アルフレッド本人が聞いていたならば「いやいや、大ごと過ぎない?気にしなくて良いからね!」で済んだ事だろう。

「はい。…お受け致します。」

当事者の関与しない、秘密の契約が交わされたのだった。

翌日、夜会準備に忙しいアルフレッド・シュタルトの元にヴィム・ザッハーが訪れる事となる。


感想 65

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。