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密約 ラティーフ・シャヒーン視点
しおりを挟む「…っどうか、それだけは…」
ラティーフへ向けられる顔色がみるみる変わっていく。血の気を失った顔で、その場に両膝を着いて床に額がついてしまう程頭を下げた。
そんなヴィムの姿になんの感慨も湧かず、腕を組んだまま見下ろす瞳は無感情ですらある。
「何のつもり?ねえ、誰かに見られたらぼくが変に思われるから、さっさと起きなよ。」
「…お願い致します。どうか、私の主にだけは!」
ラティーフの瞳が周囲を一巡する。とりあえず、今は人目は無さそうだ。だが、この状況を見られた場合損をするのは自分だ。
貴族階級が、騎士科の生徒を脅していただの虐めていただの…下世話な噂話の種になる気は更々無い。
とは言え、必死で懇願する目の前の生徒にとって、自尊心よりも今は許しを貰いたいと立ち上がる様子は見えない。ただ、許せる内容でも無いし、場合によって死罪もやむを得ない。だからこそのヴィムの態度なのだが。
「今度こそシュタルト様へ誠心誠意謝罪致します。いえ、私個人の物など塵芥ですが、全てお渡しさせて下さい。クラス落ちも構いません…何でも致しますので、どうか…。」
ふーん。
次はしっかり謝ります。
財産すべて献上します。
ネコのクラスを下げても良いです。
言う事聞きます…ね。
ラティーフの心には響かない。一従者の命だとて、持ちうる物だとて、タチに対して無礼を働いたのなら釣り合いが取れない。もしも、ラティーフがファビアンに伝えてしまえば、先ず主人のライヒテントリット子爵に責任を求め、爵位返上か家から追放か…ライヒテントリット家自体危ういか。
ハレムの主人と相思相愛なデルヴォー伯爵とキャベンディッシュ、信頼されているフィッツ…彼らだったら、ヴィムの発言を知れば制裁を行うだろう。
ヴィムにとって幸運な事に、ラティーフはアルフレッドへの情が薄かった。嫌いだとか無関心では無い、ただ…愛しているとは言えない心境だった。
アルフレッドからは指輪を貰い、正式な側室となった。ハレムでも、正室の次に重く扱われる様になった。
青髪の騎士を抱き寄せて、頬に口付ける姿を見た。
猫の獣人を膝に乗せて話しかける姿を見た。
テーブル席に着く時、ハレムの主人の両隣は正室の二人。
中等部の自分と、高等部の夫。寮の自室も遠い。
国から出る為の、足掛かりとしてのハレム入り。だから、愛される事は求めて居ない…そう。シュタルト様だって、手を出した手前ハレムに入れようと思っただろうし。
苛立たし気に眉根を寄せる。込み上げてくる言い知れない胸の靄を無理矢理振り払い、考えを纏めていく。
ここ数日で気分を悪くさせたのは、アンリ・フィッツの事。どんな罰を加えるのかと思えば、何故かぼくの従者に置けと言われる。尊敬するデルヴォー様から、丁寧に説明されたからこそ受け入れたが…。
本当は、シュタルト様から頼まれたのでしょう?
…なんて、聞けなかったけど。とても、嫌な予感がするのは確か。やめてよね、ハレムに入れる為の準備とか。
懇願し続ける相手を見下ろしながら、考える。此処で、主人諸共潰すよりも、手駒として置いておこうか。
「…ねえ、何でもするって言ったよね。ライヒテントリット子爵に言わず、お前だけが責任を負うと?」
「…はい!私に出来る事なら、何なりとお申し付け下さい。」
「ふうん。じゃあ、良いよ。」
「…っお許し、頂けるのですか?」
勢い良く上げられた顔に笑みを向ける。目の前で膝を落として、土下座したままの相手の耳へ唇を寄せる。
血の気の失せた青白い顔に、震える唇は憐れを誘う。
「今から言う事に従えるか?」
有無を言わせぬ支配者の口調。タチへの非礼を帳消しにする程の命令ならば、今後自分の全てを捧げなければならないと直感したヴィム。だが、自分で蒔いてしまった種なのだと悔やまれる。
アルフレッド本人が聞いていたならば「いやいや、大ごと過ぎない?気にしなくて良いからね!」で済んだ事だろう。
「はい。…お受け致します。」
当事者の関与しない、秘密の契約が交わされたのだった。
翌日、夜会準備に忙しいアルフレッド・シュタルトの元にヴィム・ザッハーが訪れる事となる。
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