異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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夜会準備 ネコ視点

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ダンスシューズを履いた足がよろめき、ぎこちないお辞儀と共に緊張の混じる笑みが顔面に貼り付けられる。

「………。」
「………。」
「…やっぱり、駄目…でしょうか?」

無表情を貫いていた騎士2人へ向けられる瞳に、みるみる大粒の涙が溜まっていく。
駄目では無い…という以前の問題だった。青い髪の騎士が何か言おうとするが、自分が言うよりもと思い一度口を閉じてもう1人の騎士へと言葉を促す。

「…いや、まだ2日は時間がある。諦めずに練習すれば良くなる筈だ。…きっと。」
「……キャベンディッシュ卿。」

最後は額を抑えて俯くエドウィンの表情は苦い物が浮かぶ。
チコ・ドラードの指南役を受けたエドウィンとジレス。4日後の本番までは移動と準備を省き、練習には2日半しか使えなかった。
晩餐会及び舞踏会の基本的なマナー、立ち居振る舞いや歩く順序や、挨拶の仕方…多岐に及ぶ指導にもチコは必死についてきていた。

元々聡明なチコにとって、学んだ事を吸収する事は難しくは無い。
エドウィンの教え方も丁寧で、指導も問題無かった。ただ、圧倒的に時間が足りなかった。
今回の夜会は、バルディオス帝国主催の大掛かりな物。
1日目はタチと正室のみ、2日目はタチと側室のみ、3日目は最も盛大でタチと正室・側室・妾3人までが参加可能だ。

チコが避けられないのは、夜会でネコのみが行うダンス。2日目は側室同士の交流が主となり、避けるにはよほどの理由を要する。

「参加するだけなら問題無さそうだが…。」
「考えたのですが、足を痛めた事にするのはどうですか?」
「…帝国主催の夜会でか?」

それは…とジレスの顔が曇る。

「…あの、僕もっと努力、致します…!」

2人の沈痛な表情とは反対に、チコの声に力が漲る。懸命に練習を始める姿は、これから半年も続ければ見違えた事だろう。
ただし、本番は4日後。本人の気持ちや努力は関係無い。それでも、本人の気持ちを尊重するべくエドウィンも気合を入れ直す。

ジレスが蓄音機で曲を流そうとした時、フィッツ家の従者が練習室の扉を開く。入って来た人物へ軽く会釈するエドウィン、丁寧に礼をする側室2名。
直ぐに練習を始めるチコの姿に、騎士2人とは違い辛辣な言葉が投げられた。

「そこ、もっと右足を引かないと。回るのも早すぎて品が無いよ。」
「は、はい!」

そんな強い物言いに頬を引き攣らせるジレスは、正直言うとあまり得意な相手では無いがチコの為と思い口を挟む。

「シャヒーン様、細かい所は気になりますでしょうがご容赦下さい…。今は形を整える事を優先していましたので。」
「…へえ。もしかして、ぼくに【黙ってろ】と?」
「そのようなつもりでは…。御気分を害してしまい申し訳ありません。」
「ねえ。それで謝罪されたら、まるでぼくが意地悪しているみたいじゃないか。」

各家の従者達に緊張が走る。アンリ・フィッツとラティーフの騒動は周囲の関係者には知る所であった。更に、発端がジレス・フィッツだという事も。
ジレスが言葉を選びながら丁寧に振る舞う程、ラティーフにとっては慇懃にすら見えてしまっていた。自分よりも夫アルフレッドと敬意を持つ存在ファビアンに優遇されるフィッツの2人。ラティーフの瞳は鋭い光を放っていた。

そんな言い知れぬ空気が漂う中、割り込む声は冷静そのものである。

「…挨拶はそろそろ終わりしよう。シャヒーン殿は何故此処に?様子を見に来てくれたのなら有難い。」

嫌味も蟠りも一切無い自然なエドウィンに、流石にラティーフも態度を改めざるを得なかった。密かに安堵するジレスは、居心地悪そうに困惑するチコへ近付き水分補給を勧める。
内心はどうあれ、正室であるエドウィンから声を掛けられラティーフも無視する訳にはいかず応対した。

「ええ、まあ。夜会の第二夜はぼくがネコの責任者でしょう。現在のドラードの状況を把握したかったので。…もしかしてキャベンディッシュ様、この状態で参加させられると思っていませんよね?」
「いや、参加させられない理由も無い。」

ラティーフの愛想笑いが消えた。

「…なるほど。その様にお考えならば、ぼくから申し上げる事もお手伝い出来る事もありません。後は正室お二人の判断にお任せします。」

笑顔の消えた顔に、上げた口角のみ見せて優雅に部屋を後にする。閉まる扉を心配そうに見つめるジレスに、泣きそうな顔で唇を噛み締めるチコは動きの練習を続けている。

エドウィンはラティーフの態度を気に留めていなかった。何と言っても、彼はまだ14歳。感情を制御しづらい年齢の上、あの気質は直ぐに変わらないだろう。度が過ぎれば、デルヴォー伯爵から咎められる筈だ。
だが、もしも背の君を不快にさせる事があれば…。
腰に掃いた剣の鞘を撫でて、すぐに思考を切り替えるに止めて置いた。


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