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いざバルディオス帝国VII
しおりを挟むチコの眠る部屋を出て、とりあえず滞在する部屋へと戻る。
色々と問題は山積みなのだが、夜に参加する舞踏会の為には身体を休めなければならない。というか、今考えても頭が回らないので素直に寝よう。
真新しい布団に潜り込むと、あっさりと眠りに落ちたのだった。
ふー、よく寝た。…というのは嘘である。
数時間程眠った後、アルフレッド付きの使用人に「フェルナンド様が朝食をご一緒にと仰られておりますが…」と声を掛けられ何とか目を覚ましたのだ。流石にゲストとして他国に来ている以上、お誘いにはなるべく乗っておきたい。
眠さはあるがあまり疲労を感じないのは、生まれて初めて思い切り欲を発散出来たからだろうか。
朝食の席に通され、ルーク一人が待つと思われたテーブル席にはルキウスとルークの側室も着いていた。案内された椅子に座り、アルフレッドの隣に空いた席に目を止める。
此方のハレムも同席するって事かな?
短時間の睡眠であるチコも心配だが、それ以上に部屋に忍び込んで来たネコとの一夜を思い複雑な心境であった。
いや、あれは浮気じゃない。そうだ…誰かを呼べない状況だったし、ハレムを危険に晒せないだろ?決して雰囲気に流されたんじゃないんだ…。違うんだ、抵抗出来たかもしれないけど…ほら、相手も武器を隠していた訳で。
アルフレッド以外のタチならば、全く案じる必要はない事で思案する。
そういえば…。
考えに耽っていたが、そこでやっと周囲の違和感に気を留める。どうやら気のせいでは無かったようだ。
何で、皆黙っているんだ?
長テーブルで自分の正面に座るルーク、その右隣のルキウス、その隣の側室2名。何故だか揃って口を閉ざしている。部屋に入って来た時はアルフレッドのハレムの者を待っていると思った。だが、不自然な緊張感と、何と無くルークが放つ固い空気に三人が怯えている様に見える。
声を掛けてみようと顔を向けた時、ファビアン以下ハレムメンバーが入室する。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
「「………」」
ファビアンからの挨拶に、笑顔と共に意味ありげな視線を向けてみる。初めに室内の異様さに気付いたのは、ファビアンとエドウィン。口元に微笑を貼り付けて席に着くファビアンは見事と言うべきで、エドウィンは落ち着いたものだ。
ラティーフは僅かに怪訝そうに眉を寄せ、見るからに動揺するチコに何か耳打ちするジレスは感情を消している様に見える。
何かあったのか?とでも言いたげなファビアンに小さく首を振って置く。先ほどからルークとは視線が合わないし、斜め前のルキウスからは何か言いたげな視線を感じる上に、ルークの側室二人は俯いたままだ。
いや、どうすりゃ良いんだよ。食事に誘っといて何だこれ。うーん、でも、何か事情があるなら変に口出すのはな…。
「…ルキウス殿下。昨日はとても楽しい晩餐会に参加させて頂き感謝します。本日の舞踏会ですが、此方の側室3名が参加致します。」
「…あ、そうなのですね、ええと確かシャヒーンさんと…」
静まり返る中、口火を切ったのはファビアンであった。普段と変わらぬ口調でルキウスに声を掛けた事で、相手の纏う空気も少し柔らかくなった。
相変わらず黙っているルークにはアルフレッドも敢えて声を掛けず、食事が運ばれて来てからもネコ同士で表面上和やかな会話を続けている。一種の緊張が見えない場所に張り巡らされている、それでもネコの性なのか会話は僅かも途切れない。途切れさせたらいけないとでも言う様に。
何なんだよ一体。
グラスの飲み水を口にしていると、食事を咀嚼し終えたルークとやっと視線が交差する。逃さないとばかりにそのまま視線で訴えかければ、ふいっと顔が横に向いてしまう。
…はあ?
流石に我慢にも限界という物がある。
ハレムと喧嘩したか何か知らねーけど、他のハレムとの集まりにその態度は無いだろ?つーか、お前の正室の国は侵入されそうだし、お前暗殺者来てるぞ…!
本当に言いたい事は言えない為、とにかく何か話しかけてみようと口を開こうとするが、察したのかルークが声を発するのが先だった。
「…ルキウス、そろそろ本題に入れ。」
「っ…はい。」
ルークの冷たい口調に、室内の空気が凍り付く。食事の手を止めた全員の瞳が顔色の良くないルキウスに集まった。このバルディオスの皇子についてルークと共に居るのを見ていただけで何も知らないが、今にも意識を失いそうに唇を震わせているのは理解出来る。
「……その、」
一度強く目を閉じたルキウスは、次に時間を掛けて開いた時には感情を削ぎ落とし機械的に言葉を紡ぐ。
「昨日ハレム内で話し合い、私とルーク・フェルナンド様はバルディオスの夜会終了後に離縁致します。」
「え?」
「はい?」
「?!」
「何と?」
ファビアン以外のネコ達の驚きに満ちた声が聞こえる。
返事を待たずに、ルキウスから「まだ明日まで夜会は続きますので、皆様には当城でお寛ぎ下さいますと幸いです。」と続き、疑問符だらけの此方へ説明は無いらしい。
おいおい…第1正室との離縁なんて有り得ないだろ。
「おい、そ……」
思わずルークに対して声を荒げそうになるが、視界にラティーフの肩が揺れたのとチコの怯えた表情が映った事で口を閉ざす。
誰も何か言える雰囲気では無くなり、砂を噛む様な朝食となってしまったのだ。食事が終わった途端に「失礼する」と、立ち上がるルークはその場から素早く姿を消してしまった。
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