異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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さて囚われ日和6

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やってしまったが、後悔は無い。
牢の中の音が止んだ。

ドロリ…と視界が歪む。
地面に接していた場所から歪み、沈んでいく感覚。
色々な声が耳に残る中、最後にファイブと呼ばれたネコと目が合った。怯え、怖れ、困惑…それから…微かな希望。

暫く、暗闇に漂う。
視界が開けない、瞼を開けた感覚すら感じる事が出来ない。座っているのか、立っているのか、触感すら無い。
闇、黒、静寂、無、空白、夜ですら無い。
ただただ、何も無い。

それでも、恐怖を口にしなかった。

『おはよう、人質殿。』

開けた視界に入る、薄暗い場所。今まで居た場所を、4人が横たわって丁度良い広さにした位か。地面に接した背中、足元に括られた錠。
それから、怠い全身と何処かから感じる鋭い痛み。
指先だろうか…それを確認する前に、目の前で佇む人物。
何の淀みの無い声音には、アルフレッドだからこそ僅かに感じ取れる苛立ち。

「……お前っ」
「ご機嫌はいかがかな?」
「…良く、見えるのか?」

ズキズキ…と嫌な痛みを感じる指先を気にしない振りで、表情の見えない相手を見据える。
乾いた喉がヒリつき、気分の悪さで眩暈がしてきた。

「…っ?!ーーっぐあああああ!!」
「はあ…タチの声はつまらないな。」

カツ…と相手の靴音が鳴る。
痛みを訴えていた指先が踏み潰される。
身体を起こし痛みに息を荒げ、唇を噛み締め絶叫を堪えた。

痛みが、脳内を支配する。
どっと吹き出る脂汗。視界に捉えたのは、爪の無い左手の小指。視界で理解し、また声を上げそうになるのを堪え瞳を強く閉じ、開いた。

「気づいたか?眠っている間に剥がして置いた。タチの声などただ五月蝿いだけだからな。なあに、心配するな。剥がした爪なら、大切に保管して君の国に送った所だ。」
「…………。」

爪を剥がされた、という衝撃と恐怖、痛みが脳内を駆け巡る。相手の言葉に嫌悪感が生まれるが、視線を落とし平静を装おうと深く呼吸を繰り返す。
表情の読めない相手が、笑顔になったのは感じ取れた。

「さて、忠告しようか。人質殿。」
「……何だ。」

落とした視線を上げる。瞳に映るフードに隠された顔。

「下らない干渉はやめたまえ。君たちタチは、大切な種馬なのだ。大人しく出来ないと言うならば、それ相応に扱わなければなるまい。」

種馬…。

「…相応に、というと?」

口をついて出た質問。黙っていれば良いのに、と他の者が居たら言われただろう。

「そうだな、人質殿。毎日体の一部を頂くのはどうだ?」

どうだ…じゃねえよ。
人の身体を何だと…いや。
フェムや、火傷痕のネコ、ファイブと呼ばれたネコ…彼らを思えば、冗談や脅しでは無さそうだ。

出そうな悪態を呑み込み、ただ相手を睨み付ける。
此方の反応にどう思ったのかは分からないが「ほう。」とだけ呟いていた。

「忠告は以上だ。では、好きに寛いでくれ。」

アルフレッドの返事など待たず、闇に溶けていくフードの人物。寛ぐ…など、今の状況とあまりに不釣り合いだ。

足を抱えた座り方のまま、細く長い息を吐く。
恐怖で叫ぶのも、怒りで喚くのも、全て無駄だと分かっている。ナインからの情報で、此方の発言が筒抜けだというのも。

不快感や痛み…負の感情が心を掻き乱す。
気分が悪い。
ほんの僅かに理性的な部分があるのは、一度死んだ経験があるに他ならない。

何かの気配に視線を上げる。
もしも、また此処であのフードが見えたなら諦めていただろう。抗うのも、思考するのも。

しゃがんだ状態で此方を見つめるアーモンド型の黒い瞳。肩までの黒い髪と褐色の肌、ナインより幼さの残る容姿。
真新しい傷や痣が顔中の至る所に見える、つい先ほど殴られていたネコ…ファイブと呼ばれた者。

此方に伸びた手を見つめていれば、掴まれる左手首。
剥がされた部位の痛みで顔を顰めると、一度視線を向けてくるが手は止めないらしい。
黙々と、小綺麗な布で巻かれていく小指。
最初に塗られた軟膏が染みていたが、次第に痛みが収まっていく。

何か呼びかける前に、小さく首を振られ口を閉ざす。

ああ…。監視されているからか。
うん?て事は、俺を治療して良いのか?

痛みで鈍くなっていた思考が鮮明になり、言葉を投げるのは諦め右手を相手へ伸ばす。
ファイブの肩が僅かに上がるが、抵抗したり動こうとはしなかった。

頭頂部に置いた手をゆっくり移動する。髪を梳くように優しく撫でていく。
伝わるか分からないが…ありがとう、と唇の動きも伝えておく。

次第に身を固くしていたファイブの身体から、緊張が解れていった。アーモンド型の瞳から、大粒の滴が一つ地面を濡らした。撫でられたままの頭は、離れず受け入れてくれている。

伏せた顔は見えないが、水滴が二つ、三つと増えていくのは視界に入った。






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