地下牢の神子

由紀

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旅は道連れ

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「2の国?…1の国じゃなくて?」
「…ええ、実は先程1の国より使いが参りまして、何か気になる事があるそうで…一の方様が向かわれました。それが終わるまでは、此処から近い2の国にて過ごして頂きたいという事でございます。」

紅葉が眠っていた間に起こった事なのだろう。慧羅の語る内容は、寝耳に水であった。1の国で何かあったのか不安になり聞いてみるが、まだ分からないとやんわり返される。

…心配だなあ。亜子や里子は大丈夫かな?わざわざ壱刄が戻るって事は、しっかりしてる流華が居ても対処出来なかったって事だよね。
2の国か…どんな所だろ。

不安そうな紅葉に心苦しく思いつつ、慧羅は説明を出来なかった。慧羅は一の方から、紅神子様に不安を抱かせず心穏やかに過ごして頂けるよう厳命されたのだ。

十神衆不在の今、侍従長としての歴が長い慧羅が采配をせねばならない。







5の国侍従長慧羅は、遊栄に近付きこっそりと耳打ちする。

「遊栄殿、悪いが今からは紅神子様から何があろうと離れないでくれ。交代が必要な時は侍従を通して、俺か清風殿が変わる。…ああ、あと後方の侍女達は好きに動かして良い。」
「…分かりました。私はとにかく、紅神子様のお側にお付き致します。」
「ああ、頼む。」

1の国侍従長代理と5の国侍従長が頷き合う。二人の痛いほどの真剣さは、周囲の侍従達へ否が応にも伝わる。
紅神子が遊栄に何か声を掛けるのを横目に、慧羅は前方に居る清風の元に向かう。侍従に何か指示していた3の国侍従長清風は、慧羅の姿に慌てて駆け寄って行く。

「っ慧羅殿…たった今早駆けの得意な者を使い、1の国と3の国へ急死を送りました!周囲を侍従に見に行かせましたが、やはり通るのは難しそうですね。」
「なるほど。…はあ、一の方様は国からまた護衛を送って下さると仰っておられたが、この手勢で遠回りをするのもな。」
「…ええ、十神衆方のお怒りを思うと恐ろしいです。」

ポロリと出た清風の相槌に、慧羅の雰囲気がサッと変わる。ピリリとした空気に、慧羅から僅かの殺気すら含まれる視線が相手を射ぬいた。
多少は向けていた気遣いを捨て、「清風」と短く呼び捨てる。

「おい…3の国侍従長清風、お前は何か思い違いをしてねえか?」
「…え、ええっと?」
「今の優先事項は十神衆方の命を遂行する事か?ああ、常時ならそうだ。だがな、今は紅神子様がおられる。…何故、侍従長が紅神子様の側付きを許されるか分かっているよな?十神衆方の不在時に、御守り出来るようにだ。十神衆のどなたも居らず、護衛の数も心許ない、斎女すら居ない、そんな中で此の場を任されたのは誰だ?」

清風の目が見開かれ、次第に体が震え出す。やっと事の重大さを理解したのか、紅神子の居るだろう車をチラチラと振り返った。固い表情の慧羅はそれを解くこと無く、声を低めて続ける。

「…二千年間御隠れになられていた御方に、何かあったらお前はどうする気だった。侍従長になったばかりだから?十神衆方の命に気を取られていた?…国が潰れるぞ。」
「…申し訳ありません!」

深々と頭を下げる年若い侍従長に、慧羅は何も言わない。途中何か思い付いたのか、懐に入れた小袋を近くの侍従を呼び寄せ手渡す。短い指示を出すと、慧羅の部下である侍従は心得たとばかりに駆け出していく。
その一連の様子に清風も恐る恐る口を開く。

「あの、慧羅殿何を…?」
「…ん?ああ、思い出した事があってな。確か、この近くの山に商隊の使う道があるらしい。侍従に商隊の寄る村に行って、居れば雇って来いと行かせてみた所だ。まあ、運良く居りゃあ良いが。」

その場の侍従達へ指示を始める慧羅の背を見つめ、知らず清風は強く拳を握り背筋を伸ばした。自分へと投げ掛けられた言葉を反芻し、咀嚼し整理していく。
生真面目さが取り柄であった彼にとって、侍従であった時代はそれなりに上手く出来ていた。だが、侍従長になってからは困惑ばかりで、自分は不運だったと己を嘆いた。

清風は思案する。侍従長としての役割も、他の侍従長と自分の違いも。経験年数が違うからか?才能が無いからか?
その思案が終わる頃、国から追い付いた護衛が着いたのである。
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