探偵事務所のドアを開けたら、そこには可愛い柴犬がいました。

とらお。

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きみが見つけてくれた

002

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 思わず駆け出してしまいそうになったその瞬間、視界の端っこでぼんやりと暖色が灯り肩が震えた。
 恐る恐るそちらへ視線をやると、少し遠くにある建物の玄関口に設置されたランプが点灯していることに気がつく。
 その明かりからは妙に生活感を感じられてざわついていた内心が少し落ち着いた。
 ランプが着くってことはきっとあの建物には誰かが住んでいるんだろう。
 まるで明かりに吸い寄せられる虫のようにふらふらとその建物に近づくと、建物の前に木でできた年季の入った看板が設置されていることに気がついた。
 民家かと思ったが、看板があるところを見るとなにかの店舗らしい。
 とりあえずその看板をじいと眺めてみる。

「ええと……"探偵"、"事務所"……?」

 達筆なその文字を読み上げ、改めて首を傾げた。
 こんなところに探偵事務所?
 看板から視線を外し、透明なステンドグラスで彩られた丸い窓がついたドアを見上げる。
 それにしても随分年季の入った建物だな……。
 建物の二階は居住スペースになっているのか、空っぽのベランダが設置されていた。
 恐る恐るステンドグラスの向こうを覗き込む。
 ふむ、人影はなし。
 薄暗い建物の中には天井ギリギリの高さの棚がびっしりと設置されていて、これまたびっしり余すところなく書物が詰め込まれていた。
 それどころか、室内に設置された机にも脚立にもソファにも、崩れんばかりの書物が積まれている。
 お世辞にも整頓されているとはいえないその空間で何より存在を主張している書物たちの背表紙には殆どアルファベッドが刻まれていて、さすがは探偵事務所と言うか、住民の博識さが伺えた。
 きっとこの事務所の主は、ダンディで、物腰柔らかで、素敵な男性なんだろう―――。

「こほん。何か御用かな?」

 キセルを加え、シャーロック・ホームズばりのキャスケットを被ったシルエットを想像していたところで、ぴしりと背筋が凍る。
 訝しい者にかけるに相応しいその声に冷や汗が垂れた。
 弟のことが在るだけに警察には顔見知りが何人か居る。
 できれば厄介にはなりたくない。

「す、すみません、すみません! 決して怪しいものでは……あれ?」

 謝罪の言葉とともに勢いよく何度も頭を下げた後、相手の顔色を伺うため片方の瞼を持ち上げるが、目の前に広がった光景は先程と同じ、どこまでも伸びていそうな十字路だけ。
 あれ?
 確かに人の声が聞こえたと思ったのだけど。

「こっちだよ、青年」

 声が下から聞こえて、上げていた視線を下げる。
 すると視界いっぱいに人懐こい表情を浮かべた、もふもふしたものが広がった。
 平べったい黒い顔には夕焼け空を反射している瞳がくっついていて、その上部にはまんじゅうに似た模様がある。
 所謂"まろまゆ"ってやつだ。
 目の前、自分の足元でちょこんとお行儀よくおすわりをしているのは、黒柴だった。
 目が合ったからなのか、その黒柴は佇まいを改めて正し、くい、と器用に口角を持ち上げる。

「こんばんは、青年。我が探偵事務所に何か御用かね?」
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