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お前、いつから偉くなったの?

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「俺のお付きが皆あのアバズレに乗り換えた。」

「うわぁ。」

不機嫌そうに顔を歪めながら紅茶を飲む兄、ガートにノワールは思わず顔を歪める。
コトリとカップを机に置きながらノワールはガートに尋ねた。

「一応兄さんの婚約者ですよね?」

「候補だよこ、う、ほ。できればお断り願いたいなー。」

「そうはいっても一応伯爵令嬢ですよ?候補の中では一番地位高いじゃないですか。」

あれでも最有力なんですから無下にしちゃ駄目ですよ。
そう言うノワールにチラ、と窓の外を見ながらガートは呟いた。

「お前の護衛騎士鼻の下伸ばしてるけどいいのか?」

「いいですよ。給料減らしますから。」

「スミマセンした!」

給料のことを口に出した途端窓を開け頭を下げるライナスに呆れながら紅茶を啜っていると当のアバズレ__ルルドベッタ伯爵令嬢、クリスチーナ・ルルドベッタは顔を真っ赤にしてノワールを怒鳴りつける。

「しんっじられない!たかが妾腹の公主風情が公爵家のライナス様を護衛騎士にしているのも信じられないのにお金で縛るだなんて!‥‥ライナス様、こんな女捨ててわたくしの家にいらっしゃらない?こんな貧相な女よりもよっぽど満足‥‥させてあげますわよ?」

ノワールとライナスに向ける顔が全然違う‥‥と半ば感心し、かつ婚約者(候補)の前でよくそんなこと出来るなと考えながらさて、どう料理してやろうか‥‥と笑っているとドンッと音を立ててライナスがクリスチーナを突き飛ばし、ヒラリと窓を乗り越えて部屋に入ってきた。

「ラ、ライナス様!?」

「お誘いは嬉しーけどさー‥‥。俺は満足してんの。誰にでも股をガバガバ開けるアバズレ令嬢よりもノワールちゃんの方がずっといいし__なによりノワールちゃんはそんな人を馬鹿にした態度は取らない。」

ちゃっかりノワールの耳を塞ぎながら言うところは流石、と思いつつガートは立ち上がる。

「ルルドベッタ伯爵令嬢?婚約者の前でその妹を貶めるのは令嬢としてどーなの?」

「あ‥‥ガート、様‥‥?」

どうやら真面目に気がついていなかったらしく顔面蒼白になりながらクリスチーナはへたり込む。

「おかしいな‥‥?ルルドベッタ伯爵令嬢は自ら俺の婚約者に立候補したと聞いたんだけど‥‥なんで他の男を誘い、また妾腹だとノワールを蔑む?
いっておくけど、俺も妾腹だ。“たかが”伯爵令嬢が公族を蔑むだなんて、いつからルルドベッタ伯爵家はそんな地位に就いたんだ?お前はそんなに偉いの?」

「あ、そ、それ、は‥‥、」


「ま、いーよ。今回だけは聞かなかったことにしてあげる。__さっさと失せろ。」

最後に本気の殺気を迸らせバンッと窓を閉める。
少しだけスッキリした、と鼻歌を歌うガートにライナスは引き攣った笑みを浮かべた。

「‥‥容赦ないっすね。」

「ん?まあこれは意趣返しだからなー。」

本番はまだまだこれからだよ。と猫のような笑みを浮かべるガートからライナスはさっと目を逸らした。

「んーと、お付きはもう信用できないからなー。なんかイイのない?」

「あ、じゃああそこの子爵次男はどうですか?
‥‥前々から気になってたんでしょう?」

困った困った、とあまり困って無さそうに嘯くガートにノワールはフッと笑みを零した。

「‥‥さっすが俺の妹。」

カタン、と音を立てて歩き出すガートにノワールは尋ねる。

「どこにいくんですか?」

「んー‥‥。」

くるりと体を回転させ、楽しそうに笑いながらガートは呟いた。







「ちょっとそこまでクズ摘みに。」



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ガート・ランズディール

シルファ公国第三公子。妾腹なため冷遇されているが兄達とは仲が良い(姉たちとは悪い)。妹と瓜二つの美少年(男の娘)だが女顔と言われるとブチ切れる。
自分が利用する分にはいいし言うのもいいが他人に言われるのは嫌。
戦闘狂で戦では常に前線に立っているため貴族よりも武人達と仲が良く、また支持されている。
妹とは違い悪意100%な毒舌を吐くためライナスにちょっと恐れられている。
幼い頃から暗殺されまくったため毒耐性がチート。普通に食えるし食べればどんな毒かも把握できる。なにより毒を食べ過ぎたため彼の血がもはや解毒剤のない毒。
水色の髪に同色の瞳。特技は気配を消すことと戦う(殺す)こと。
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