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僕のカミサマ
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「ガート様ーー!ガート様!どこにいらっしゃるんですかぁぁ!!」
ぜぇぜぇと肩を大きく上下させながらユピト__アデルハイド子爵次男、ユピテル・アデルハイドは座り込む。
もうかれこれニ刻程ユピトはこの無駄に広い第三公子及び第十三公主が住む離宮を走り回っている。
「ん?ユピト?」
「あ、ライナス様!?」
「ライナスでいいよ。同じ立場なんだしさー。」
へらっと笑うライナスに恐縮しながらユピトは小さくはあ‥‥と返事をする。
どうやらライナスは日課の鍛錬をしていたらしくいつもの護衛騎士の制服とは違うかなりラフな‥‥間違っても公族の前で着ることはないだろう袖無しの黒い、機動性を重視した服装に身を包み簡素な槍を握っている。
汗だくな彼につい先程自身の水分補給のために汲んできた水を差し出しながらユピトはため息をつく。
「で、どーした?」
垂れ目がちなスミレ色の瞳を訝しげに細めながら尋ねてくるライナスにユピトは苦笑しながら答えた。
「ガート様が、その、リヒト殿下のお茶会をすっぽかしてしまいまして‥‥。」
「何やってんのガートサン!?」
ゴフッと飲んでいた水を吹き出しながら叫ぶライナスから若干距離を取りユピトはアハハ‥‥と虚ろな笑みを浮かべる。
「‥‥僕、ここでしぬんですかね‥‥。」
「ゲホッ、落ち着け大丈夫だ頼むから戻ってこい!!」
気管に入ったらしい水に咳き込みながら必死でライナスはユピトに呼びかける。
「くっ‥‥アッハハハハハハハハ!!ヒーッ!!」
突然、頭上から降ってきた笑い声にもしかして、と嫌な予感を感じつつおそるおそる顔を上げる。
そこには、淡く輝く水色の髪を木漏れ日で反射させながら上品さの欠片も感じられないほどの大声で笑う美しい少年がいた。
「ガートサン!?いつからそこに!?」
「ヒーッ、フハッ、ユピトがへたり込んだときから。」
「それ最初っからですよね!?」
涙目で訴えるユピトに悪い悪いとちっとも反省していない、むしろ全力で面白がりながらガートはヒラヒラと手を振った。
ガート・ランズディール。彼はこのシルファ公国が誇る三番目の公子であり、国民から『戦神の愛し子』とまで呼ばれる程の勇将。
帝国の皇帝やその時期後継者である皇太子にまでも目をかけられている正真正銘の天上人である。
いかんせん、国内からは厄介者扱いされているものの、その実力は恐ろしいの一言である。
なぜ、そんな生きる伝説である第三公子にたかが子爵次男であるユピトが仕えているのか、別に何のことはない。
第三公子自らが、それを望んだからに他ならない。
ユピテル・アデルハイドに特出した才能は無い。寧ろ、皆無である。
優秀な頭脳も、ずば抜けた剣技も、栄えある魔術の才能も無いユピトをなぜ側仕えとして置いているのか、ユピトには分からなかった。
けれども、聞こうとも思わなかった。
ユピトにとって、そんなことはどうでもよく、ただ選ばれた事実さえあれば良かったから。
「‥‥ふふっ。」
尖った耳を弄りながらユピトはスッと目を細めた。
「僕のことはいいです。それよりも‥‥。」
「はいはい、分かったよ。行けば良いんでしょいけば。」
ハアッとため息をつくガートに微笑ましいものを感じながらユピトは立ち上がる。
早く行かなければ、かの麗しの第二公子が可愛そうだ。
ふと、顔を上げニンマリとユピトは笑みを零した。
「‥‥そこで、自分達の選択を悔やみ続けなさい。」
「ん?何か言ったか?」
「‥‥いえ、何にも?」
王宮の窓からこちらを睨みつけるガートの、かつての側仕え達に毒づき、ユピトはフンワリとした笑みを浮かべガートに向き直る。
優秀な兄ではなく、ただ愛でられ、囲われるだけだった自分を選んでくれたただ一人のカミサマを、誰かに明け渡すつもりなんて毛頭ないのだから。
彼以外、彼の大切な人達以外もうどうでもいい。
母の美しさに狂い、持てうる限りの全てを使って母を手に入れた父も
鳥籠に捕らえられ、憎んだ男に孕まされ子を産まされたあげくに自死した母も
狂った父により捨てられた兄の母も
己の母を捨てた父を憎み、着実に父を殺そうと牙を研いでいる兄も
「さあ、行きましょう。ガート様」
************
ユピテル・アデルハイド
アデルハイド子爵家次男。金髪緑目の合法ショタ。見た目は10歳中身は21。実は四人組の中で最年長。
エルフの母と人間の父を両親に持つハーフエルフで母そっくりの美しさを持つ。
死んだ母の身代わりとして鳥籠と称した屋敷で監禁され育ち、歪んだ愛しか知らずに生きてきた。
父からは意思を持たぬお人形として、兄からは憎しみと愛情が複雑に混じり合った感情を向けられて育ったがため彼自身も歪んでいる。鳥籠から解放してくれたガートをカミサマとして信仰しており彼のためなら何でもする。
ぜぇぜぇと肩を大きく上下させながらユピト__アデルハイド子爵次男、ユピテル・アデルハイドは座り込む。
もうかれこれニ刻程ユピトはこの無駄に広い第三公子及び第十三公主が住む離宮を走り回っている。
「ん?ユピト?」
「あ、ライナス様!?」
「ライナスでいいよ。同じ立場なんだしさー。」
へらっと笑うライナスに恐縮しながらユピトは小さくはあ‥‥と返事をする。
どうやらライナスは日課の鍛錬をしていたらしくいつもの護衛騎士の制服とは違うかなりラフな‥‥間違っても公族の前で着ることはないだろう袖無しの黒い、機動性を重視した服装に身を包み簡素な槍を握っている。
汗だくな彼につい先程自身の水分補給のために汲んできた水を差し出しながらユピトはため息をつく。
「で、どーした?」
垂れ目がちなスミレ色の瞳を訝しげに細めながら尋ねてくるライナスにユピトは苦笑しながら答えた。
「ガート様が、その、リヒト殿下のお茶会をすっぽかしてしまいまして‥‥。」
「何やってんのガートサン!?」
ゴフッと飲んでいた水を吹き出しながら叫ぶライナスから若干距離を取りユピトはアハハ‥‥と虚ろな笑みを浮かべる。
「‥‥僕、ここでしぬんですかね‥‥。」
「ゲホッ、落ち着け大丈夫だ頼むから戻ってこい!!」
気管に入ったらしい水に咳き込みながら必死でライナスはユピトに呼びかける。
「くっ‥‥アッハハハハハハハハ!!ヒーッ!!」
突然、頭上から降ってきた笑い声にもしかして、と嫌な予感を感じつつおそるおそる顔を上げる。
そこには、淡く輝く水色の髪を木漏れ日で反射させながら上品さの欠片も感じられないほどの大声で笑う美しい少年がいた。
「ガートサン!?いつからそこに!?」
「ヒーッ、フハッ、ユピトがへたり込んだときから。」
「それ最初っからですよね!?」
涙目で訴えるユピトに悪い悪いとちっとも反省していない、むしろ全力で面白がりながらガートはヒラヒラと手を振った。
ガート・ランズディール。彼はこのシルファ公国が誇る三番目の公子であり、国民から『戦神の愛し子』とまで呼ばれる程の勇将。
帝国の皇帝やその時期後継者である皇太子にまでも目をかけられている正真正銘の天上人である。
いかんせん、国内からは厄介者扱いされているものの、その実力は恐ろしいの一言である。
なぜ、そんな生きる伝説である第三公子にたかが子爵次男であるユピトが仕えているのか、別に何のことはない。
第三公子自らが、それを望んだからに他ならない。
ユピテル・アデルハイドに特出した才能は無い。寧ろ、皆無である。
優秀な頭脳も、ずば抜けた剣技も、栄えある魔術の才能も無いユピトをなぜ側仕えとして置いているのか、ユピトには分からなかった。
けれども、聞こうとも思わなかった。
ユピトにとって、そんなことはどうでもよく、ただ選ばれた事実さえあれば良かったから。
「‥‥ふふっ。」
尖った耳を弄りながらユピトはスッと目を細めた。
「僕のことはいいです。それよりも‥‥。」
「はいはい、分かったよ。行けば良いんでしょいけば。」
ハアッとため息をつくガートに微笑ましいものを感じながらユピトは立ち上がる。
早く行かなければ、かの麗しの第二公子が可愛そうだ。
ふと、顔を上げニンマリとユピトは笑みを零した。
「‥‥そこで、自分達の選択を悔やみ続けなさい。」
「ん?何か言ったか?」
「‥‥いえ、何にも?」
王宮の窓からこちらを睨みつけるガートの、かつての側仕え達に毒づき、ユピトはフンワリとした笑みを浮かべガートに向き直る。
優秀な兄ではなく、ただ愛でられ、囲われるだけだった自分を選んでくれたただ一人のカミサマを、誰かに明け渡すつもりなんて毛頭ないのだから。
彼以外、彼の大切な人達以外もうどうでもいい。
母の美しさに狂い、持てうる限りの全てを使って母を手に入れた父も
鳥籠に捕らえられ、憎んだ男に孕まされ子を産まされたあげくに自死した母も
狂った父により捨てられた兄の母も
己の母を捨てた父を憎み、着実に父を殺そうと牙を研いでいる兄も
「さあ、行きましょう。ガート様」
************
ユピテル・アデルハイド
アデルハイド子爵家次男。金髪緑目の合法ショタ。見た目は10歳中身は21。実は四人組の中で最年長。
エルフの母と人間の父を両親に持つハーフエルフで母そっくりの美しさを持つ。
死んだ母の身代わりとして鳥籠と称した屋敷で監禁され育ち、歪んだ愛しか知らずに生きてきた。
父からは意思を持たぬお人形として、兄からは憎しみと愛情が複雑に混じり合った感情を向けられて育ったがため彼自身も歪んでいる。鳥籠から解放してくれたガートをカミサマとして信仰しており彼のためなら何でもする。
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