魔王様のお気に召すまま

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勇者?いいえ魔王補佐です

師匠達は弟子が心配です

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__魔族、それは人々に恐怖をもたらす侵略者。強大な力を持ち、立ち向かえる人間など数えるほどしかいない。その頂点に君臨する魔王に至っては『勇者』という聖剣に選ばれた存在しか対抗することができない。そして__

魔王ほどではないにしても、多大なる力を持つ四人の魔族がいる。

魔族領の北方を治めるドライアド、通称『最高の魔女』の北公。
南方を治める人魚、通称『最強の魔女』の南公。
東方を治める人狼、通称『技』の東公。
西方を治める吸血鬼、通称『力』の西公。

彼らは皆魔王にこそおよばない物の一流の戦死であり歴代の勇者を何度も追いつめた。中には彼らに敗れ去り魔王の元に辿り着けなかった勇者もいるほどである。

そんな歴戦の猛者である彼らが今、揃って頭を抱える事態が発生した。





「ぐず、なんでぇ、なんで駄目なんでずがべいかぁぁぁぁ!!」

「オイ誰だ勇者に酒大量に飲ませたの。」

「知らないわよ西公じゃないの?」

「何でもかんでもおじさんのせいにしないでくれないかい?おじさんいまきたばっかでしょ。」

酒瓶を抱えて大泣きする元勇者であり現四天王全員の弟子であるヴィクトールの醜態に四天王は困り果てていた。頭に生えた耳をピクピクと不機嫌そうに揺らしながら原因を探す東公に面倒くさそうに返す南公、とばっちりの西公の軽い口論に恐る恐る一人の女性が手を上げた。

『すみません…。わたくしです……。』

「「「あなたかよ。」」」

バツの悪そうに顔を歪める緑の髪の女性、北公の思わぬ犯行に三人は目を剥いた。まさか四天王一穏やかで心優しい、まじめな北公だけはないと皆無意識のうちに信じていたから。

『お疲れのようだったので果樹酒を注ごうとしたら間違って世界樹の酒を…。』

「あー……なら仕方ないなぁ……。」

世界樹の酒、それは信じられないは程強い酒である。見た目の美しさ、飲みやすさとは裏腹に飲みすぎれば魔族ですら命は危うい。魔族の中でそれを飲んで無事にいられるのはおそらく魔族一酒に強いと言われる西公だけであろう(魔王は下戸)。

「ぐず、なんで、あれがだめだったんでずかぁぁぁぁ!!」

「駄目ね、完全にぶっ飛んでるわ。」

「おち、おちつけ勇者…。」

ぐずぐずと泣き続けるヴィクトールの酔いによって上がってしまった熱をますために首回りを水玉で冷やす南公に不慣れながらも必死にあやす東公。実にカオスだ。

「俺、俺、へいかのやくに、た、たちたかっただけ、なの、に…。」

「あー…。」

泣き疲れたのかスヤァと眠ってしまったヴィクトールを見て西公は訳知り顔で頷いた。

「こりゃあおじさんの出番かねぇ……。」

「……どうにか出来るのか?」

「するのが年長者の役目でしょーが。わんちゃん達は気にせず酒盛り楽しみなさい。」

誰が犬ころだ、と苛立たしげに呟きながらもその目はヴィクトールを心配する光に溢れている。__かつて一番『勇者』に対して風当たりが強かったとは思えないそれに安堵したように西公は微笑んで……よっこいしょ、と言いながらすっかり落ちてしまったヴィクトールを背負ってヒラヒラと手を振った。

「それじゃおじさんはこの酔っ払いを部屋まで連れて行くんでお先に失礼~。」

楽しげに、嬉しげに目を細めて去っていく西公に呆れたような眼差しを三人は向け、仕切り直しとばかりに新しい酒瓶を開け始めた。




「……結局一滴も飲まずに行ったわねあいつ。」

心地よい酔いの中、ポツリと呟かれた南公の言葉にそういえば、と北公は思い出す。
きっと今頃魔王に勇者との付き合い方を説教しているであろう西公を思い浮かべて北公はクスリと微笑んだ。

『寂しいですか?』

「、誰がよ!」

顔を真っ赤にして否定する南公に謝りながら、四天王がここまで仲良くなるだなんて思ってもいなかった昔を思い出す。

__昔の四天王は、争ってばかりだった。争うたびに魔王が飛んできて仲裁しなくてはいけないほど、昔の四天王は酷かった。
それが壊されたのは『前』の西公が消滅したとき。後継者に選ばれたのは幼い吸血鬼だった。

こんな、まだ力に目覚めたばかりと言っても過言では無い生命体を西公にするだなんて、魔王は何を考えているのかと思った。__守らなくてはいけない、この子供を。元より穏やかで他の四天王と争うことをしなかった北公は幼い西公を守るために力を費やした。__けれども、それは必要なかった。

彼は強かった。ともすれば魔王よりも。恐らく、瞬間的な火力なら魔王を彼は超えていた。その圧倒的な力でまわりの魔族達に彼はあっという間に認められた。

それから四百年経ち、今度は南公消滅し、さらにその七百年後に東公が消滅した。
それから、西公は『遊び』と称して他の四天王の領地に無断で入ったりするようになった。最初は西公を殺そうとしていた南公と東公も、それが重なるたびに諦めていき四天王間で西公に対してだけ妙な連帯感が生まれた頃に__勇者が、弟子としてきた。

最初は皆反目した。__西公以外は。西公の振り回されている勇者を見るうちになぜだかまた妙な連帯感が生まれ、気がつけば本当に弟子として迎え入れていた。
__勇者を中心に、酒を飲むすことができるほど仲良くなって、いまや勇者がいなくても酒を飲めるぐらい仲良くなった。

『……西公さんには、頭が上がりませんね……。』

「?なにか、いった?」

『……何にも。』

にっこり微笑んで北公は果樹酒を飲み干してまた昔を思い出す。
昔、四天王が仲良くなれたら良いのにと小さな吸血鬼の前で呟いたことがあった。それに、じゃあ俺がその夢を叶えると、鮮やかに笑ったその顔を、北公はいまでも忘れてない。だから、

あの人ならきっと、陛下とヴィクトールさんのすれ違いをどうにかしてくれる。そう信じて、北公はまた新たな酒瓶をこじ開けた。

__今日も魔王城は平和です。
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