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曰くつきアパート
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それは、歴史を紡ぐもの。本当の歴史を語る夢ー
「よいしょ」
これで全部かな。私は、一人暮らしにはかなり広めと言えるアパートを見回した。ここは俗にいう「曰く付き」アパート。管理人が小心者なのか、はたまたそういうものを信じる系なのか、家賃はなんと2LDKで破格の一万円。お得すぎる。
心霊現象は見なきゃないのと同じだし、変な音とかもイヤホンで音を遮断すればリラックス&心霊現象撃退で一石二鳥。完璧だ。
心霊現象を信じていない風なのになぜそんな対策をするのか。そう思う方もいるだろう。だが。心霊現象というものは常に科学がまとわりついているのである。「大丈夫っしょ!」としらを切って入ったら心霊現象で精神疾患者に…なんてことになったらせっかく課長に昇進して今からってとこなのにジ・エンドだ。
それにしてもボロい。このアパートはこの王国「ラル・リベロ国」が独立する前ーそう、約三百年前からこの地に立っているらしいのだ。
私も最初は信じていなかったのだが、その当時の写真を見せらて納得。灰色のボロボロ写真で、そこに写っているプラチナ色の髪と緑眼の人物はまだ若かったが、よく見れば独立に貢献した偉人、リベロ・クロードではないか。王国の名前にもなった超絶有名人だ。そしてシャッターを押した人物は、大家が言うにもう一つの国名にもなっているラル・キャステランらしい。やば。有名人ばっか。
私は重度の歴史オタク。思わぬラッキーにその時は思わず手汗を握ってしまった。一瞬「盗もうか」なんていう邪な考えが脳裏をよぎったが、わずかな理性によって前科を作ることにはならなかった。安堵。
積み重なる段ボール。壮観。白い塗り壁にフローリングの2LDKが茶色に染まる。
今日全て荷解きをするのは無理かと諦め、PM08:00と記述してあるデジタル時計を外して洗面台に置いた。服とかタオルを入れたのは確か右段の下から二個目。買おうかとも考えたが、旧友からのハンカチのプレゼントや同じく旧友と一緒に買った服などもあるのでやめにした。ちなみにハンカチをくれた友達は数日後に引っ越しをした。(※ハンカチを送る人は「あなたとの関係を洗い直す」(要するに別れましょうという意味)という意味があります。主人公はこれに気づいていません。では、本編をどうぞ。)
「よっこいしょ」
先ほどからの発言が「よいしょ」と「よっこいしょ」というおじさんめいたセリフばかりで申し訳ないが、ともかくこれでお風呂に入れる。引っ越し作業は業者に頼まず一人でチャリで頑張ったため、汗でびしょびしょだ。こんな曰く付きのアパートを借りた時点で私が貧乏人なのはみなさんもお察しの通り。
私のプラチナの色をした髪の毛はかなりの値で売れるらしいが、髪は伸ばしたい派なので売っていない。そこまで金にがめつくはない。…と、自分では思っている。
珍しいといえばこの瞳もだ。金色の瞳。猫ー動物と一緒で昔は嫌だったが、猫は可愛いし、ラル・キャスレンスも同じ色だったと聞いた時からは結構気に入っている。
リベロ・クロードとラル・キャステラン。二人の髪色と目の色が同じなのはおそらく偶然だけど、偶然=運命ととって私は暮らしている。
ティーシャツを脱いで洗面台に置く。洗濯かごも用意しなくては。
冷蔵庫や洗濯機など大きなものはさすがにチャリでは無理だったので業者に頼んだ。けどそれ以外の段ボール十五箱は自分で運んだのだ。乙女の荷物は大きいもの。まぁ私は女子力皆無、現実主義の男勝りなんだけど。
「洗濯かご、洗濯籠…」
裸のままリビングをうろつく。まぁ一人暮らしだしOK。
「あった!」
大きい段ボール箱の中に発見。
下着とティーシャツ、デニムを洗濯かごの中に入れてシャワールームに入る。
浴槽を洗ってお湯を沸かした。そのすきに体と頭を洗う。
お風呂が沸いた。鼻歌気味にドボン。腰までの髪をお団子にして天井を眺める。お風呂の湯気みたいに霞む脳内。なんかクラクラしてきた…お昼に食べた酒粕漬けの豚肉が効いてきたのだろうか。いや、そんなはずは。アルコールは飛ばしてるはず…
ガタン!
「‼︎‼︎」
あ、なんだシャンプーが落ちただけか…けど、そのおかげで目が冴えた。なんだったんだろう、まるで睡眠薬みたいなー
「今日は早めに寝るか」
お腹は空いていなかったのでお風呂から上がったら速攻ベッドに向かった。
スリッパを放り出してベッドに倒れ込む。思ったより柔らかく受けとめてはくれなかったが、安定の暖かさに目が閉じてきた。
いけない、毛布を被らなきゃ風邪ひいちゃうー
『キャステラン、落ち着いてよく聞け。』
金髪の男が話しだす。キャステランと呼ばれた女は頷き、ラタン調のソファに深く腰掛けた。
『俺は、ルーベルトを殺すことにした』
『‼︎⁉︎』
女は目を見開く。男は重くうなづき、『決行は二週間後だ。お前も協力してくれるか?』と女に問いかけた。
『…少し考えさせてちょうだい』
女が呟く。
『いいぞ、好きなだけ考えろ。あいつはこの王国を独立させようと頑張っている。が、お前の体のあざや傷は誰につけられたものだ?。』
男がにや、と含み笑いをする。女は決心したように口を開いた。
『協力させていただくわ。私にできることならー』
ー「っ!」
「あ」とも「お」ともつかぬ声が口から飛び出る。
「あ、朝…」
開けっぱなしのカーテンから日の光が漏れ出ていた。快晴の朝。空とは相反し、心の中は何かもやがかかっているようだ。何か後味の悪い夢を見ていたような気がする。覚えていない。けど、誰かが何かを殺すーとか、お前は協力するのかー的な、ミステリーみたいなのも混ざっていた。そして、聞き覚えのある名前もでてきたような…まぁいいか。今日はまだ休日。出来れば荷解きを全部終わらせたい。
「荷解き、終了ー!」
やった!やっと終わったぁ!
冷蔵庫からビールを取り出して呷る。仕事後のビール、最高。
ビールを持ったままテレビをつけて、胡座をかいた。時刻は昼過ぎ。朝早くからやったからか、想像するよりずっと早く終わった。
アニメの一気見でもしようかな。
時刻、六時。
「十五話くらいしか見れなかったけどやっぱおもしろ!イーストブルー編はやっぱいいねー」
テーマソングを歌いながら冷蔵庫の扉を開けた。酔いが回っている気がする。
それからは記憶がない。確か、髪は濡れていたからお風呂には入ったと思うんだけどー
『いいか、キャステラン。お前は決行一週間前…つまり明日、ルーベルトと別れろ』
『け、けど…あの人が許してくれるかどうかー』
『俺に気が変わったと言っておけばいい。あいつはストレス発散の道具がなくなって次は俺を狙うと思うが、俺は強い。大丈夫だ』
『で、でもー』
『よろしく頼んだぞ。これはお前にしか頼めない』
『っ!』
男が部屋を出る。女は受話器を手に取り、ある番号に電話をかけた。
『もしもし、ルーベルト?明日、ちょっと会いたいんだけど…』
今日も目覚めが悪かった。なんだろう、この気持ちは。何か精神に来るものがー
…仕事行くか。
『ルーベルト、あのね…別れてほしいの。』
『⁉︎』
黒髪に黒曜石のような黒い瞳をした男が、驚いたように目を見開く。
『は?キャステランお前ー』
『他に好きな男ができたの。リベロよ。』
『‼︎‼︎…お前にちょっかいを出したのはあの男か。いい、始末をつけてやる。』
『そういうのじゃないわ。お願いルーベルト、私の最後の頼みよ。』
『お前の「最期」の頼みなら仕方ないー別れるか』
『ありがとう!じゃあ、さよなら!』
返事を受け取った女が嬉しそうに微笑む。と、その顔が崩れた。
『…っ‼︎‼︎』
女の顔が歪む。その瞳は、自身の脇腹に刺さったナイフを映していた。
血が滲む。
耳に届く、つい先日まで自分が愛していた男の高笑い。
『姉さん‼︎‼︎』
居合わせた弟の悲痛な叫び。血が垂れる口角を最後にキュッと上げた女の目は、そのまま光を失った。
『お前…よくも!』
姉の腹から引き抜いたナイフを振り翳して弟が男に突進した。男がそれを難なく交わす。と同時に、手刀を繰り出した。なぜナイフで刺さなかったのかは女の弟にもわからなかったが、弟の脳内には金髪の男と交わしたある約束が思い出されていたー
ー『二週間後、俺はルーベルトを殺そうと思う』
『⁉︎なんでー』
『お前の姉を殴ったやつだぞ?ほっといていいのか?』
『‼︎それはー』
『だろう?協力してくれ。あ、一週間後、ラブホテルに来てくれ。誰もいないところで打ち合わせをしたい』
その『一週間後』に来てみればこれだ。と言っても、ラブホテルの個室内だったが。中から怪しい音がしたので開けてみればだ。姉が刺されていた。男がこれを予知していったのかは知らないが、来たる一週間後の作戦決行で、男に復讐を果たそうと弟は固く誓った。
「殺害…殺す…ラブホテル…リベロ…ルーベルト…キャステラン……キャステラン!」
その日は一日中その夢のことで脳内がいっぱいいっぱいだった。曰く付きーこのことだろうか。耳栓もイヤホンも、ましてや目隠しも意味がない。それに最近、血が飛び出すような噴射音が聞こえてくる。耳栓ー耳栓をしなければー
『決行は明日だ』
男の声が路地裏に響く。
『ああ』
一週間前とは似ても似つかない淡白な声で女の弟が返した。
その男たちの名は、後に歴史に刻まれるー
「ラル・リベロ‼︎‼︎‼︎‼︎」
今度は叫び声を上げながら目を覚ました。けど間違いない。あんなことがあったなんて。
ラル・リベロ王国の素晴らしい歴史の裏には、ラル・キャステランとリベロ・クロードが姉の復讐のためにーあんなことをしでかした。
これは重大な真相だ。今すぐ歴史学者に報告しなくては。
私はペンを走らせながら廊下を歩いた。今日はなんだか気分がいい。何も音がしないからかーあれ?何か足音…やっぱりまたか。耳栓。しなきゃ。
慌てて振り向く。そこには骸骨の幽霊ーではなく、ラル・キャステランとリベロ・クロードが手を差し出しながら微笑んでいた。
「ラル…リベロ?」
『『君もこっちへおいで』』
「…い、いえ…」
セリフとは裏腹に無意識に手が伸びる。
『この世界のために』リベロが囁く。『歴史を紡ごう』ラルも呟く。
「…はい!』
🏢
<次のニュースです。ラル・リベロ国のグランド州のアパートで、女性の惨殺死体が発見されました。アパートの中にはラル・リベロ国の驚愕の歴史が走り書きされたメモが落ちており、歴史学者たちは記述されていることが本当か次々捜索に乗りだしていますー>
「おぉ。こえー。気をつけなきゃな」
ニュースを見ながら俺が呟く。
「ほんとだ。やばいな。けどこの女の人、結構な美人じゃね?」
「それな」
淹れたコーヒーを飲んでいると、「あ、そうだ」とルームシェアしている友人が呟いた。
「俺、ここでるわ。住居先見つけた」
「え。どこ?」
「アパートなんだけどさ。なんと2LDKで破格の一万円!得すぎるだろ!」
「えマジ?すげぇ!けど気をつけろよ。もしかしたら事故物件かもだし…さっきのニュースのアパートと近いじゃん?」
「大丈夫大丈夫。だってまだニュースのアパートは「捜索中」なんだろ?犯人。俺、明日には引っ越すもん。血痕とか残ってるんじゃないんだし、捜索中ならまだ売りに出さないだろ」
「おう…そのことを祈るぜ」
「よいしょ」
これで全部かな。私は、一人暮らしにはかなり広めと言えるアパートを見回した。ここは俗にいう「曰く付き」アパート。管理人が小心者なのか、はたまたそういうものを信じる系なのか、家賃はなんと2LDKで破格の一万円。お得すぎる。
心霊現象は見なきゃないのと同じだし、変な音とかもイヤホンで音を遮断すればリラックス&心霊現象撃退で一石二鳥。完璧だ。
心霊現象を信じていない風なのになぜそんな対策をするのか。そう思う方もいるだろう。だが。心霊現象というものは常に科学がまとわりついているのである。「大丈夫っしょ!」としらを切って入ったら心霊現象で精神疾患者に…なんてことになったらせっかく課長に昇進して今からってとこなのにジ・エンドだ。
それにしてもボロい。このアパートはこの王国「ラル・リベロ国」が独立する前ーそう、約三百年前からこの地に立っているらしいのだ。
私も最初は信じていなかったのだが、その当時の写真を見せらて納得。灰色のボロボロ写真で、そこに写っているプラチナ色の髪と緑眼の人物はまだ若かったが、よく見れば独立に貢献した偉人、リベロ・クロードではないか。王国の名前にもなった超絶有名人だ。そしてシャッターを押した人物は、大家が言うにもう一つの国名にもなっているラル・キャステランらしい。やば。有名人ばっか。
私は重度の歴史オタク。思わぬラッキーにその時は思わず手汗を握ってしまった。一瞬「盗もうか」なんていう邪な考えが脳裏をよぎったが、わずかな理性によって前科を作ることにはならなかった。安堵。
積み重なる段ボール。壮観。白い塗り壁にフローリングの2LDKが茶色に染まる。
今日全て荷解きをするのは無理かと諦め、PM08:00と記述してあるデジタル時計を外して洗面台に置いた。服とかタオルを入れたのは確か右段の下から二個目。買おうかとも考えたが、旧友からのハンカチのプレゼントや同じく旧友と一緒に買った服などもあるのでやめにした。ちなみにハンカチをくれた友達は数日後に引っ越しをした。(※ハンカチを送る人は「あなたとの関係を洗い直す」(要するに別れましょうという意味)という意味があります。主人公はこれに気づいていません。では、本編をどうぞ。)
「よっこいしょ」
先ほどからの発言が「よいしょ」と「よっこいしょ」というおじさんめいたセリフばかりで申し訳ないが、ともかくこれでお風呂に入れる。引っ越し作業は業者に頼まず一人でチャリで頑張ったため、汗でびしょびしょだ。こんな曰く付きのアパートを借りた時点で私が貧乏人なのはみなさんもお察しの通り。
私のプラチナの色をした髪の毛はかなりの値で売れるらしいが、髪は伸ばしたい派なので売っていない。そこまで金にがめつくはない。…と、自分では思っている。
珍しいといえばこの瞳もだ。金色の瞳。猫ー動物と一緒で昔は嫌だったが、猫は可愛いし、ラル・キャスレンスも同じ色だったと聞いた時からは結構気に入っている。
リベロ・クロードとラル・キャステラン。二人の髪色と目の色が同じなのはおそらく偶然だけど、偶然=運命ととって私は暮らしている。
ティーシャツを脱いで洗面台に置く。洗濯かごも用意しなくては。
冷蔵庫や洗濯機など大きなものはさすがにチャリでは無理だったので業者に頼んだ。けどそれ以外の段ボール十五箱は自分で運んだのだ。乙女の荷物は大きいもの。まぁ私は女子力皆無、現実主義の男勝りなんだけど。
「洗濯かご、洗濯籠…」
裸のままリビングをうろつく。まぁ一人暮らしだしOK。
「あった!」
大きい段ボール箱の中に発見。
下着とティーシャツ、デニムを洗濯かごの中に入れてシャワールームに入る。
浴槽を洗ってお湯を沸かした。そのすきに体と頭を洗う。
お風呂が沸いた。鼻歌気味にドボン。腰までの髪をお団子にして天井を眺める。お風呂の湯気みたいに霞む脳内。なんかクラクラしてきた…お昼に食べた酒粕漬けの豚肉が効いてきたのだろうか。いや、そんなはずは。アルコールは飛ばしてるはず…
ガタン!
「‼︎‼︎」
あ、なんだシャンプーが落ちただけか…けど、そのおかげで目が冴えた。なんだったんだろう、まるで睡眠薬みたいなー
「今日は早めに寝るか」
お腹は空いていなかったのでお風呂から上がったら速攻ベッドに向かった。
スリッパを放り出してベッドに倒れ込む。思ったより柔らかく受けとめてはくれなかったが、安定の暖かさに目が閉じてきた。
いけない、毛布を被らなきゃ風邪ひいちゃうー
『キャステラン、落ち着いてよく聞け。』
金髪の男が話しだす。キャステランと呼ばれた女は頷き、ラタン調のソファに深く腰掛けた。
『俺は、ルーベルトを殺すことにした』
『‼︎⁉︎』
女は目を見開く。男は重くうなづき、『決行は二週間後だ。お前も協力してくれるか?』と女に問いかけた。
『…少し考えさせてちょうだい』
女が呟く。
『いいぞ、好きなだけ考えろ。あいつはこの王国を独立させようと頑張っている。が、お前の体のあざや傷は誰につけられたものだ?。』
男がにや、と含み笑いをする。女は決心したように口を開いた。
『協力させていただくわ。私にできることならー』
ー「っ!」
「あ」とも「お」ともつかぬ声が口から飛び出る。
「あ、朝…」
開けっぱなしのカーテンから日の光が漏れ出ていた。快晴の朝。空とは相反し、心の中は何かもやがかかっているようだ。何か後味の悪い夢を見ていたような気がする。覚えていない。けど、誰かが何かを殺すーとか、お前は協力するのかー的な、ミステリーみたいなのも混ざっていた。そして、聞き覚えのある名前もでてきたような…まぁいいか。今日はまだ休日。出来れば荷解きを全部終わらせたい。
「荷解き、終了ー!」
やった!やっと終わったぁ!
冷蔵庫からビールを取り出して呷る。仕事後のビール、最高。
ビールを持ったままテレビをつけて、胡座をかいた。時刻は昼過ぎ。朝早くからやったからか、想像するよりずっと早く終わった。
アニメの一気見でもしようかな。
時刻、六時。
「十五話くらいしか見れなかったけどやっぱおもしろ!イーストブルー編はやっぱいいねー」
テーマソングを歌いながら冷蔵庫の扉を開けた。酔いが回っている気がする。
それからは記憶がない。確か、髪は濡れていたからお風呂には入ったと思うんだけどー
『いいか、キャステラン。お前は決行一週間前…つまり明日、ルーベルトと別れろ』
『け、けど…あの人が許してくれるかどうかー』
『俺に気が変わったと言っておけばいい。あいつはストレス発散の道具がなくなって次は俺を狙うと思うが、俺は強い。大丈夫だ』
『で、でもー』
『よろしく頼んだぞ。これはお前にしか頼めない』
『っ!』
男が部屋を出る。女は受話器を手に取り、ある番号に電話をかけた。
『もしもし、ルーベルト?明日、ちょっと会いたいんだけど…』
今日も目覚めが悪かった。なんだろう、この気持ちは。何か精神に来るものがー
…仕事行くか。
『ルーベルト、あのね…別れてほしいの。』
『⁉︎』
黒髪に黒曜石のような黒い瞳をした男が、驚いたように目を見開く。
『は?キャステランお前ー』
『他に好きな男ができたの。リベロよ。』
『‼︎‼︎…お前にちょっかいを出したのはあの男か。いい、始末をつけてやる。』
『そういうのじゃないわ。お願いルーベルト、私の最後の頼みよ。』
『お前の「最期」の頼みなら仕方ないー別れるか』
『ありがとう!じゃあ、さよなら!』
返事を受け取った女が嬉しそうに微笑む。と、その顔が崩れた。
『…っ‼︎‼︎』
女の顔が歪む。その瞳は、自身の脇腹に刺さったナイフを映していた。
血が滲む。
耳に届く、つい先日まで自分が愛していた男の高笑い。
『姉さん‼︎‼︎』
居合わせた弟の悲痛な叫び。血が垂れる口角を最後にキュッと上げた女の目は、そのまま光を失った。
『お前…よくも!』
姉の腹から引き抜いたナイフを振り翳して弟が男に突進した。男がそれを難なく交わす。と同時に、手刀を繰り出した。なぜナイフで刺さなかったのかは女の弟にもわからなかったが、弟の脳内には金髪の男と交わしたある約束が思い出されていたー
ー『二週間後、俺はルーベルトを殺そうと思う』
『⁉︎なんでー』
『お前の姉を殴ったやつだぞ?ほっといていいのか?』
『‼︎それはー』
『だろう?協力してくれ。あ、一週間後、ラブホテルに来てくれ。誰もいないところで打ち合わせをしたい』
その『一週間後』に来てみればこれだ。と言っても、ラブホテルの個室内だったが。中から怪しい音がしたので開けてみればだ。姉が刺されていた。男がこれを予知していったのかは知らないが、来たる一週間後の作戦決行で、男に復讐を果たそうと弟は固く誓った。
「殺害…殺す…ラブホテル…リベロ…ルーベルト…キャステラン……キャステラン!」
その日は一日中その夢のことで脳内がいっぱいいっぱいだった。曰く付きーこのことだろうか。耳栓もイヤホンも、ましてや目隠しも意味がない。それに最近、血が飛び出すような噴射音が聞こえてくる。耳栓ー耳栓をしなければー
『決行は明日だ』
男の声が路地裏に響く。
『ああ』
一週間前とは似ても似つかない淡白な声で女の弟が返した。
その男たちの名は、後に歴史に刻まれるー
「ラル・リベロ‼︎‼︎‼︎‼︎」
今度は叫び声を上げながら目を覚ました。けど間違いない。あんなことがあったなんて。
ラル・リベロ王国の素晴らしい歴史の裏には、ラル・キャステランとリベロ・クロードが姉の復讐のためにーあんなことをしでかした。
これは重大な真相だ。今すぐ歴史学者に報告しなくては。
私はペンを走らせながら廊下を歩いた。今日はなんだか気分がいい。何も音がしないからかーあれ?何か足音…やっぱりまたか。耳栓。しなきゃ。
慌てて振り向く。そこには骸骨の幽霊ーではなく、ラル・キャステランとリベロ・クロードが手を差し出しながら微笑んでいた。
「ラル…リベロ?」
『『君もこっちへおいで』』
「…い、いえ…」
セリフとは裏腹に無意識に手が伸びる。
『この世界のために』リベロが囁く。『歴史を紡ごう』ラルも呟く。
「…はい!』
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<次のニュースです。ラル・リベロ国のグランド州のアパートで、女性の惨殺死体が発見されました。アパートの中にはラル・リベロ国の驚愕の歴史が走り書きされたメモが落ちており、歴史学者たちは記述されていることが本当か次々捜索に乗りだしていますー>
「おぉ。こえー。気をつけなきゃな」
ニュースを見ながら俺が呟く。
「ほんとだ。やばいな。けどこの女の人、結構な美人じゃね?」
「それな」
淹れたコーヒーを飲んでいると、「あ、そうだ」とルームシェアしている友人が呟いた。
「俺、ここでるわ。住居先見つけた」
「え。どこ?」
「アパートなんだけどさ。なんと2LDKで破格の一万円!得すぎるだろ!」
「えマジ?すげぇ!けど気をつけろよ。もしかしたら事故物件かもだし…さっきのニュースのアパートと近いじゃん?」
「大丈夫大丈夫。だってまだニュースのアパートは「捜索中」なんだろ?犯人。俺、明日には引っ越すもん。血痕とか残ってるんじゃないんだし、捜索中ならまだ売りに出さないだろ」
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