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「お頭!」
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「お頭!いつものやつ!」
うっすらはげかかった頭にねじり鉢巻を締めた男が屋台の奥に向かって叫ぶ。
「へいへい、やっさん。ちょいとお待ちよ!」
荒々しく叫び返すのが、近隣住民に人気のある鯛焼き店「めで鯛鯛焼き店」店長のさっちゃんさんだ。本名、年齢不詳。少し皺の寄った顔と、白髪の混じった髪をお団子にしている様は一見七十代にも見えるが、この間女子高生と「シーインの新作見た⁉︎」と話していたのをやっさんが目撃した。
「お頭⁇マスターと呼びな!」
本人はこう言っているが、常連の客はほとんどみんな「お頭」か、親しい間柄の人は「さっちゃん」としか呼んでいない。
「はいお待ち、いつもの粒あんね」
「おう!有難うよ!」
ダン、と叩きつけるように小銭を置いてやっさんが去っていった。
「ひいふうみい…十円足りないよ、やっさん!」
お頭が叫ぶ。
「ツケにしといてくれ!」
「昨日も一昨々日もおんなじこと言ってたよ!毎回毎回十円足りないんだよ!やっさんのツケのおかげでこちとら一万円分損してんだ!」
お頭が負けじと捲し立てるが、「匠」の文字が印刷された半纏の背中は消え去っていた。
はぁ、とお頭がため息をつく。
「Rheinポイントゲーム、するか…」
着物の裾から出した最新型のスマホをお頭がいじり出す。ゆったりとした表情とは相反し、手指はものすごい速さで動き、あっという間に世界最高得点を叩き出していた。
「もっといいゲームはないのかねぇ」
そう、この鯛焼き屋店長、プロゲーマーである。スマブラフォトナ、エーペックスは常識、スプラトゥーン最新作にさらにはあつ森も全てしっかりやりこんでいるタイプだ。君がもしゲームをしていて、「粒あんバター ~シトラスの香り~」というユーザー名で、連続最高得点を出しまくっているユーザーを見つけたら、それはお頭だ。一字でも違っていたらそれは違う人だし、一位じゃなくてもそれは違う人物だ。クソゲーから神ゲーまで全てお頭は知っている。
「お頭、こし餡ひとつ」
淡々とした静かな声がお頭の集中を破った。
「うっさいねぇ、こちとらいまクソゲーしてr…おぉ、侑くんかい!」
かったるそうに見上げたジト目が輝く。
「なんのゲーム?」
「クソゲー」
「あぁ、それか。これ、ここの設定いじったら面白くなるよ」
「ほんとだ!ゆーくんすげぇ!」
ゆーくんとはゲー友である。お頭の話を唯一理解できるのはこの自宅警備員のみである。
「けどクソ重くなるからやっぱゴミゲーだよ」
淡々とした口調で世紀末の暴言を吐き出す顔はそれなりに整っている。この性格はゲームのおかげだ。
『現実は俺を傷つける』が人生のモットーとなっている。
「そういえばゆーくん今日プロセカにいなかったねぇ」
ニコニコこし餡をたい焼きに詰めるお頭。
「あぁ、それは愛と希望と充電が足りなくて…」
「それは災難だねぇ」
はいどうぞ、とお頭がたい焼きを手渡した。
「ありがとう」
片手でスマホを操作しながら片手で受け取る。
「またマイクラで万里の長城作ろうな」
「一時間でできるかい?」
「いけるいける、そのあとは琵琶湖に富士山浮かべよう」
「気ぃつけてね~」
「ウィ~」
会話は青春の一ページ(?)だが、話している内容はやばいし、相手がクソニートとクソババァだから呆れたものである。
「お頭。カスタード三つだ」
ゆーくんと別れたのち、ずっとニコニコしていたお頭の顔がこわばる。
「はぁ…やっぱりあんたかい、クソたこ焼き店店長」
「どうも、クソ鯛焼き店マスター」
ここに現れるは、「ねぇ店長!たこ焼きにタコが入ってないよ!」と訴えた子供に「うっさいねぇ!鯛焼きに鯛は入ってるかい?」と返したことで有名なたこ焼き店の店長だ。会話のキャッチボールというより会話のドッジボールを得意とする人種である。
「はいどうぞ」
お頭が冷凍食品の蓋を開ける。
「ちゃんと作れ」
「へいへい」
店長がじとっと店内を睨め付ける。
「はいお待ち」
「うん、うまい」
「ありがとよ」
なんだかんだ言って仲のいい二人である。
「お頭、お頭ぁ!」
「なんだいリア充」
あくる雨の日。最近読モと付き合い出したというやっさんの孫が屋台のテーブルに駆け寄った。
「じいちゃんがっ…!末期の癌で…っ‼︎」
「⁉︎」
「はい。はい…ありがとうございました、こんな父に今まで」
「こちらこそ今までありがとさん」
「これ…父から、お頭さんへ」
やっさんの葬式。やっさんの娘から預かった一枚の封筒を開けて、お頭が涙ぐんだ。
『お頭
ありがとう』
そっけない文章だったが、シミのついた便箋は何度も消しゴムで消された跡が残っている。
「あんた…ツケはこんなに頼んでないよ」
そして、一万円札が十枚入っていた。
「お頭、いつものやつ」
「なんだいリア充」
「じいちゃんの墓に持ってくんだ。三つくれ」
「三つもかい?」
「一つは俺が食べんだ。悪りぃかよ」
「はっ、そうかい」
どうぞ、とお頭が粒あん鯛焼きを手渡した。
「もう一つはサービスだよ」
「…ありがとう」
リア充が涙ぐむ。
「墓にそれ持ってったらとっとと彼女と爆死するんだな」
「じゃあなお頭、また来る」
会話が噛み合っていない。
お頭が、カスタードとこし餡のハーフをパクッと齧った。
「今日は、閉店かねぇ」
あとがき
こんにちは。碧ヶ岳です。
店長の「お頭」は、タイのお頭とかけてたりもします。これ、最初はコメディのはずだったんですけど、だんだんだんだんと哀愁エピソードになりました。なんででしょう。
うっすらはげかかった頭にねじり鉢巻を締めた男が屋台の奥に向かって叫ぶ。
「へいへい、やっさん。ちょいとお待ちよ!」
荒々しく叫び返すのが、近隣住民に人気のある鯛焼き店「めで鯛鯛焼き店」店長のさっちゃんさんだ。本名、年齢不詳。少し皺の寄った顔と、白髪の混じった髪をお団子にしている様は一見七十代にも見えるが、この間女子高生と「シーインの新作見た⁉︎」と話していたのをやっさんが目撃した。
「お頭⁇マスターと呼びな!」
本人はこう言っているが、常連の客はほとんどみんな「お頭」か、親しい間柄の人は「さっちゃん」としか呼んでいない。
「はいお待ち、いつもの粒あんね」
「おう!有難うよ!」
ダン、と叩きつけるように小銭を置いてやっさんが去っていった。
「ひいふうみい…十円足りないよ、やっさん!」
お頭が叫ぶ。
「ツケにしといてくれ!」
「昨日も一昨々日もおんなじこと言ってたよ!毎回毎回十円足りないんだよ!やっさんのツケのおかげでこちとら一万円分損してんだ!」
お頭が負けじと捲し立てるが、「匠」の文字が印刷された半纏の背中は消え去っていた。
はぁ、とお頭がため息をつく。
「Rheinポイントゲーム、するか…」
着物の裾から出した最新型のスマホをお頭がいじり出す。ゆったりとした表情とは相反し、手指はものすごい速さで動き、あっという間に世界最高得点を叩き出していた。
「もっといいゲームはないのかねぇ」
そう、この鯛焼き屋店長、プロゲーマーである。スマブラフォトナ、エーペックスは常識、スプラトゥーン最新作にさらにはあつ森も全てしっかりやりこんでいるタイプだ。君がもしゲームをしていて、「粒あんバター ~シトラスの香り~」というユーザー名で、連続最高得点を出しまくっているユーザーを見つけたら、それはお頭だ。一字でも違っていたらそれは違う人だし、一位じゃなくてもそれは違う人物だ。クソゲーから神ゲーまで全てお頭は知っている。
「お頭、こし餡ひとつ」
淡々とした静かな声がお頭の集中を破った。
「うっさいねぇ、こちとらいまクソゲーしてr…おぉ、侑くんかい!」
かったるそうに見上げたジト目が輝く。
「なんのゲーム?」
「クソゲー」
「あぁ、それか。これ、ここの設定いじったら面白くなるよ」
「ほんとだ!ゆーくんすげぇ!」
ゆーくんとはゲー友である。お頭の話を唯一理解できるのはこの自宅警備員のみである。
「けどクソ重くなるからやっぱゴミゲーだよ」
淡々とした口調で世紀末の暴言を吐き出す顔はそれなりに整っている。この性格はゲームのおかげだ。
『現実は俺を傷つける』が人生のモットーとなっている。
「そういえばゆーくん今日プロセカにいなかったねぇ」
ニコニコこし餡をたい焼きに詰めるお頭。
「あぁ、それは愛と希望と充電が足りなくて…」
「それは災難だねぇ」
はいどうぞ、とお頭がたい焼きを手渡した。
「ありがとう」
片手でスマホを操作しながら片手で受け取る。
「またマイクラで万里の長城作ろうな」
「一時間でできるかい?」
「いけるいける、そのあとは琵琶湖に富士山浮かべよう」
「気ぃつけてね~」
「ウィ~」
会話は青春の一ページ(?)だが、話している内容はやばいし、相手がクソニートとクソババァだから呆れたものである。
「お頭。カスタード三つだ」
ゆーくんと別れたのち、ずっとニコニコしていたお頭の顔がこわばる。
「はぁ…やっぱりあんたかい、クソたこ焼き店店長」
「どうも、クソ鯛焼き店マスター」
ここに現れるは、「ねぇ店長!たこ焼きにタコが入ってないよ!」と訴えた子供に「うっさいねぇ!鯛焼きに鯛は入ってるかい?」と返したことで有名なたこ焼き店の店長だ。会話のキャッチボールというより会話のドッジボールを得意とする人種である。
「はいどうぞ」
お頭が冷凍食品の蓋を開ける。
「ちゃんと作れ」
「へいへい」
店長がじとっと店内を睨め付ける。
「はいお待ち」
「うん、うまい」
「ありがとよ」
なんだかんだ言って仲のいい二人である。
「お頭、お頭ぁ!」
「なんだいリア充」
あくる雨の日。最近読モと付き合い出したというやっさんの孫が屋台のテーブルに駆け寄った。
「じいちゃんがっ…!末期の癌で…っ‼︎」
「⁉︎」
「はい。はい…ありがとうございました、こんな父に今まで」
「こちらこそ今までありがとさん」
「これ…父から、お頭さんへ」
やっさんの葬式。やっさんの娘から預かった一枚の封筒を開けて、お頭が涙ぐんだ。
『お頭
ありがとう』
そっけない文章だったが、シミのついた便箋は何度も消しゴムで消された跡が残っている。
「あんた…ツケはこんなに頼んでないよ」
そして、一万円札が十枚入っていた。
「お頭、いつものやつ」
「なんだいリア充」
「じいちゃんの墓に持ってくんだ。三つくれ」
「三つもかい?」
「一つは俺が食べんだ。悪りぃかよ」
「はっ、そうかい」
どうぞ、とお頭が粒あん鯛焼きを手渡した。
「もう一つはサービスだよ」
「…ありがとう」
リア充が涙ぐむ。
「墓にそれ持ってったらとっとと彼女と爆死するんだな」
「じゃあなお頭、また来る」
会話が噛み合っていない。
お頭が、カスタードとこし餡のハーフをパクッと齧った。
「今日は、閉店かねぇ」
あとがき
こんにちは。碧ヶ岳です。
店長の「お頭」は、タイのお頭とかけてたりもします。これ、最初はコメディのはずだったんですけど、だんだんだんだんと哀愁エピソードになりました。なんででしょう。
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