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私が神、神は私

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 指輪のやつ、マズったな。
 いつも受け応えが早くて、丁寧なあいつに限ってさっきの会話での一呼吸開けるのは何かあると思ったが。あれは気のせいじゃなかった。
 俺の勘違いであってほしかった。

「おいおい、指輪のやつ大丈夫か?」
「...まさか神崎のやつがあそこまでだなんて」

 となりで疲弊していた二人も、流石にこの状況に驚いて飛び上がる。
 確かに、それだけの大事だ。
 Sランクのタイトル保持者が反撃された。もし、これがニュースとかで取り上げられたら、少なくとも一週間はこの話で持ち切りだろう。
 神崎は俺たちが想像していた以上の強敵だろう。なにせAランクのタイトルを六つも保持しているのだ。
 Sランクという異例を除けば、この世界で最強格のタイトルばかりだ。果たして、世界最強のタイトル保持者と世界最凶のタイトル保持者のどちらが勝つのだろうか。


 ♢


 こんなに息が荒くなったのはいつぶりだろう。
 そんなことが一瞬だけ脳をよぎったが、そんなことを考えている時間すら惜しい。

「はぁ、はぁ、はぁ...」
「おらおら、どうしたっ!」

 自身に降りかかる攻撃の数々を避けて、避けて、避け続ける。
 右から黒い大剣が振り落とされたと思い後退すれば、それに呼応するよりも先に私へと近づかれていて、真正面から炎の渦が超至近距離から顔に目掛けて飛ばされる。

「くっ!」

 全身に<いかずち>を帯電することである程度防ぐことができた。
 しかし...。

「はっ!やっぱりその程度だったってことだな。もうボロボロじゃねぇか」
「はぁ、はぁ、はぁ...」
「へっ。疲れて声も出せないか」

 五分も経たないうちの出来事だった。
 避ける、防ぐの後手だけで手いっぱい。終いには疲れが回り、攻撃を喰らってしまった。
 致命傷は避け、できる限り防御したが、さっきの炎の渦で私の四肢はすでに焼け焦げてしまい、見るも絶えない状態だった。

「やっぱり、Sランクなんてのはただのまやかし。Aランクのタイトルで勝つことができるただのタイトルだ。...ずっとこの時を待っていた。たまたまタイトルが強かったくらいで、今まで血の滲むような日々を過ごしてきた俺より強い?そんなことは決してない。はは、現に今俺はお前を押している!なぁ、違うか?」
「...はぁ。...無駄話は済んだでしょうか?」
「へぇ。まだそんな口をきける力があるなんてな」
「あなたにも色々思うことはあったのでしょう。ですが、それは私も同じこと。私は今まであなたがしてきたことを許すつもりはありません。だから、この話はおあいこです」
「あぁ?」
「ここからは、私自身のプライドのために戦わさせてもらいます」

 辺りの空気が振動する。
 この事象は私を中心にその区域を広げていく。
 雷という電力を超高力まで圧縮した莫大なエネルギーの塊。
 その塊を何十、何百と私自身へと集める。

「この圧力は...、これに耐えているだと?」

 神崎くんが一歩後ろへ下がったのが見えた。
 その一挙手一投足が私への自信に変わる。
 これだけの力を人間という脆弱な体では受け止めることはできない。
 それでも、私は雷を自身へ集めることを止めない。それどころかより早く、より多く、より大きな雷を、その体へと集める。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ...!!!!!!!!!!!!!!」

 バチバチ...。どおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!!!!

 蒼い雷が、私へと落ちる。
 その中で私はただ笑顔でいた。

「<神成かみなり>」

 この瞬間、この雷を纏っている間だけ、私は神という全知全能の最強へと成る。
 
「くっ。いい加減認めやがれ!そんなただの電気を帯びたくらいで、何ができるって言うんだっ!」

『煩い』

「うっ。五月蠅いのはどっちだよ...」

 口を開くことなく、私の言葉は彼へと届く。
 この雷は普通のものとは違い、神が扱う聖なる雷。
 そのため、神聖力が高いこの雷が辺りに漂うことで、一時的にこの場所に神感力が上がったためだろう。
 私の声は発せられることはなく、ただ相手に直接啓示される。

『...<雷>』

 最初に飛ばされた剣を回収するために、周囲全体に雷を放つ。

『あった』

 雷の末端が剣へと触れると、光鳴り響く剣はその姿を雷に変え、放たれた雷の一部へとなる。
 そして、私の手の中にまったく同じ剣が再び現れる。
 この剣は実体が存在するが、無形の存在でもある。私が持つタイトルで作られた雷剣。

『<雷霆剣らいていけん>』

 元より輝き、轟いていた剣は聖なる雷によってより一層眩しく、唸り響いていた。
 切っ先を神崎くんへと向ける。

『お披露目はここまで、そろそろ始めましょうか』
「あぁいいぜ。とはいえそんな腕でどうしようってんだ」
『...こんなもの、関係ありません』

 ひゅっ——

 風切り音が微かに聞こえた。

「なっ!?」

 カキンッ!

 私の剣が彼に当たる直前ギリギリ、その瞬間に間一髪という具合に大剣が滑り込む。
 勿論、私の攻撃はそれだけで終わることなく、右、左、上、下。様々な方向から剣を振るう。
 そのまま神崎くんを試験場の端まで追いやっていくが、途中で腕が震えてしまった。

「はぁ!」

 その瞬間を逃さないとし、体を大きく回したカウンターが来る。
 私は地面の足へと雷を流し、雷速の如く後ろへと下がる。

「...なるほどな。雷を使って腕の神経を麻痺させ、その電気で更に腕を強制的に動かしているな?」
『お見事です。その通りですよ』

 神崎くんが言った通り、私の体は雷を使って半強制的に、無理矢理動かしている状態。
 私の腕が震えてしまったのは、私が電力の調節を誤ってしまったからだ。

「そんなんじゃ、いつまで持っていられるよ?」
『その前に、この無尽蔵の力であなたを止めてみせますよ』

 神崎くんが見せたタイトルは五つ。黒剣、黒煙、炎の渦、カウンター、そしてコンボ攻撃による火力上昇。
 まさかここまでとは。もうこれは本当に私と同じ地点に手を掛けている。
 更に、未だ使っていないタイトルが一つ。一体どんなものなのか。
 私と神崎くんは試験場真ん中を起点とし、互いに時計周りに歩き、相手の様子を伺い続ける。

「俺が、雷ごときに負ける訳にはいけねぇ。負けるはずがねぇ」
『またそれですか』
「たった一つのタイトルに俺の今までが否定されるなんてことはあって言い訳がねぇ!俺は特別で、最強なんだ!」

 ここまで感情を昂らせ、露わにしているのにも関わらず、一切の隙を見せないだけの集中力。
 だが、私にとってそれは意味をなさない。真正面から強大な力でねじ伏せるだけの余力はある。
 なのになぜか、私の体は動かなかった。
 私は”彼”に遠慮しているのでしょう。

『...』
「どうした?来ないならこっちから行くぞ!」

 私が一瞬考え事をしたことを見破り、途端に距離を詰めてくる彼の攻撃は直線的で、正面を雷で吹き飛ばせばいいだけ。
 しかし...。

 チャキン...

 彼の剣は私の首を刎ねる前で止まった。

「お前。防御も攻撃もしないとか、ふざけてんのか...?」

 私は何もせず、その場で立ち止まり続けた。
 そして、考えは決まった。

「...降参します」
「...なに?!」

 私は<神成>を解き、審判へとその言葉を告げる。

「...勝者。神崎 聖司」

 審判は何も聞かずに、私の負けを認めてくれた。
 まぁ、あちらは私が負傷でもう無理だと思ったのかもしれないが。

「お前...」
「あなたはさっき、自分で言ったことを覚えていますか?」
「あぁ?」
「俺は今まで努力してこの力を手に入れた。Sランク一つなんて、Aランク六つで覆してやるって」
「確かにそんなことは言ったが...、それよりも、逃げやがったなてめー」
「...ごめんなさい」

 それだけ言い残して、私はゆったりと足を引きずりながら皆の所へと戻る。
 なら、あなたが実現したかったそれは、彼がきっと証明してくれるでしょう。
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