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決心
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両手両足が焼け焦げ、辺りにかすり傷が絶えない状態の指輪が俺たちの方へゆったりとした足取りで向かってくる。
足取りも何も、ただ肉塊を引きずっているだけのように見える指輪。それを見兼ねた俺は指輪に寄っていき、体を持ち上げる。
「きゃっ」
「大丈夫か?取り敢えず向こうまで行くぞ?」
「え、えっと...すみません。でも、流石にこの体勢は...」
「ん?」
「...いえ、なんでもありません。ありがとうございます」
流石にお姫様抱っこは恥ずかしかったか?
頬を赤く染めている指輪を横目に、そんなことを気にすることなく俺は指輪をゆっくりと試験場の外へと連れて行く。
「...先ほどの戦いでは、お見苦しい所をお見せしてしまい、すみません」
「そんなことはないさ。まぁ、もうあんな戦い方はしない方がいいな」
なりふり構わず、周りや自身すらも苦しませるような戦い方。それを見ていると、昔の自分を思い出す。
俺は周りから否定される程、反発して、傷つけ、多くのものを犠牲にしてきた。
大事な人も、自分自身も...。
「大丈夫ですか?」
「ん、顔に出てたか?大丈夫だよ」
「...私は間違えてしまったのでしょうか?」
ん?
急に問われたその言葉に俺はいまいちピンとこなかった。
「間違えたって、何を?」
「今まであなたを傷つけ、そして今もあなたを侮辱し続けている彼を私は許せなかったんです。だから、この試験を彼との闘いだとは考えず、あなたの汚名返上のつもりで戦っていました。彼はあれでも、私との闘いに真摯に向き合った戦士なのにも関わらず」
「なんだ。そんなことで悩んでいたなんて」
「...」
そんなことで悩んでいてくれてよかった。
しかし、彼女は俺の答えに対して、そんなこととはなんだといった顔でこちらをじっと見つめる。
ただ本当に、彼にコテンパンにされたことがショックで悩んでいるとか、彼女のこれからに繋がるような悩みじゃなくて。
些細な、一瞬の出来事に悩んでいるんだったら、俺でも相談相手にはなれる。
「確かに、神崎には今まで色々されてきたけど、俺自身がそういった道を選んでしまったのが悪い。とはいえ、そんな俺を救おうとしてくれた指輪が、俺は嬉しいよ」
「ッ...」
指輪の顔が先ほどよりもより頬を真っ赤に染める。
自分で言っていて、かなり恥ずかしい気分になる。それなら、それを聞いている指輪もかなり恥ずかしいのだろう。
「それに、指輪はその闘いの中でちゃんと理解することができたんだろ?だから、本気の片鱗を見せた」
「そうですけど、それでも私は自分が最良の選択をできたと思えないんです」
「いいじゃないか。そうやって、君も真摯に向き合えているのだから。それにきっと、彼はそんなに気にしていないよ」
「...いいんでしょうか?そんな、あなたの悪魔の様な言葉を呑んでしまって」
「はは、ひどい言われようだな。天使の救済が差し伸べられてたと思ってほしいな」
まだまだ、俺も指輪も神崎も誰も彼も精神が爆発しまくっているような高校生なのだ。
本気の戦場に出向いてすらいない、命を賭けた戦いを経験していないひよっこだ。
なら、今そうやって考えられるだけで指輪は立派なのだろう。
彼女の顔にはもう、先ほどまでのドス黒い色は消えていた。
「ふふ、あなたが天使ですか?」
「おい、そこか笑うところ?」
ま、そりゃそうかもな。
「さてと、次は俺の番か...。指輪がこれじゃあ、俺もぼこぼこにされるかな?」
「...すみません。お願いを一つ聞いてもらっていいですか?」
「お願い?」
「はい、先ほど私の悩みを聞いてもらって、更に図々しいと思うのですが、これだけは...」
「分かった。いいよ」
「え、まだ何も言っていないのですが」
「指輪の願いだ。変なことは要求されないだろ」
俺は指輪を信頼している。まだ短い付き合いだが、彼女が既に俺にそうしてくれているように、俺も返してやらないとな。
それに、彼女がこれから俺に何を言うのかはだいだい想像がついている。
「神崎くんとの試合を、全力で戦ってもらえないでしょうか?」
「...」
「あなたが、その力を隠したいのは分かります。今まで信じてもらえず、逆に周囲からの自信の価値を貶める要因になっていることも。ですが、それでも...」
「俺の、全力...」
この力のお陰で俺は生きる理由を持ち続けることができた。
しかし、それとは裏腹にこのタイトルは俺の生活を苦しいものへと変貌させた。
このタイトル至上主義の世界で、一度見放された俺に与えられた希望の光。それは、諦めることを決して許さず、進むことのみを強要してきた。
もし、次の試合でこのタイトルを使い、周りから俺の力を否定されたら?
俺は今後、そんな暗闇の道を進んでいくことができるのか?
「安心してください」
「え...」
「例え、あなたが絶望の淵を歩くというのであれば、私が必ず手を伸ばします。決して、あなたが絶望へ堕ちることはさせません」
俺の力を知っていて、否定せず、信頼してくれている彼女が俺を押してくれている。
今までの俺には言われたことのない、心動かされる言葉。
「ふっ。確かに、天使は俺じゃないらしいな。そうだろう?天使様」
「...私ですか?!なぜ?!」
「ははっ」
俺は指輪を試験場の外へと連れて行き、牧村や柳沢がいる場所へと降ろす。
「二人とも、指輪のことを頼んだ」
「大丈夫か?もしあれなら、早々に棄権していいからな」
「...ほどほどにして、怪我のないようにね」
悪意のない、純粋な、俺を気遣う言葉がとても心地よかった。
「大丈夫。絶対勝つよ」
「...」
「...」
二人は黙ったまま、真剣な眼差しを俺へと向ける。
「ただ、二人には先に誤っておかないとな。騙すような真似をして悪かった」
「あ?今、なんて...」
「...それは、どういう意味?」
「ま、それは一度見てもらってからで」
じゃっと手を振りながら俺は試験場へと上がる。
♢
注目される。
それもそうだろう、今更どの面下げてこんな場所に立っているんだ。
学校最強の指輪と同じチームで、器用貧乏という俺だけが戦力外。そして、俺以外はもうすでに敗れてしまった。
なら、お前には何ができる。
そういった目が俺の体中に突き刺さる。
「教えてやるさ。俺を受け入れてくれた彼女らを勝利へと導いてやる」
そう誰に言うでもなく、一人呟く。
「はぁ、結局指輪との決着はつかず。おまけに、その次に出てきたのがお前みたいな雑魚だなんてな」
「...」
試験場の上には、やはりすでにいる神崎が鬱陶しそうにしている。
「お前、御託はどうでもいい。早いとこ戻れ」
「悪いが、それはできないな」
「あ?俺は別に構わないが、今は虫の居所が悪いんだ。お前に手加減してやることもできねぇぜ?」
「それで構わない。むしろ、そうでないと困る」
「...チッ。指輪の奴といい、お前といい。どいつもこいつも頭が悪くて困ったもんだ」
神崎はこちらを本気で睨みつける。
今まで彼から向けられた目は嘲笑、軽蔑といった悪戯の範疇だったのだろう。
だが、俺が今浴びているこの威には怒りを強く感じる。
「先に言っておく。すまないな、神崎」
「...」
神崎は何も言わずに俺の言葉に耳を傾ける。
返答する気すらないほどの怒りを彼は必死に押さえつけているのだろう。
ずっと戦いたがっていた相手との勝負が、途中で終わってしまったのだ。それもそうか。
「俺が思っている以上にお前は努力し、誰にも負けないような力を身に着けていた。今更言っても遅いが、それは俺も同じだ。それを信じる、信じないはお前自身が決めてくれ」
俺が努力していたように、神崎だって努力していた。
ただ、神崎は堂々と、誰にも負けまいとこの世界で必死に抗い続けていた。そしてそれは、Sランクに届くまでに。
俺にはできなかったこと。それをやってのけた。
俺は、神崎を尊敬している。
「だから今ここで、お前に俺の本気を見せてやる」
ようやく、俺はこのタイトル至上主義の世界で生きる覚悟ができた。
足取りも何も、ただ肉塊を引きずっているだけのように見える指輪。それを見兼ねた俺は指輪に寄っていき、体を持ち上げる。
「きゃっ」
「大丈夫か?取り敢えず向こうまで行くぞ?」
「え、えっと...すみません。でも、流石にこの体勢は...」
「ん?」
「...いえ、なんでもありません。ありがとうございます」
流石にお姫様抱っこは恥ずかしかったか?
頬を赤く染めている指輪を横目に、そんなことを気にすることなく俺は指輪をゆっくりと試験場の外へと連れて行く。
「...先ほどの戦いでは、お見苦しい所をお見せしてしまい、すみません」
「そんなことはないさ。まぁ、もうあんな戦い方はしない方がいいな」
なりふり構わず、周りや自身すらも苦しませるような戦い方。それを見ていると、昔の自分を思い出す。
俺は周りから否定される程、反発して、傷つけ、多くのものを犠牲にしてきた。
大事な人も、自分自身も...。
「大丈夫ですか?」
「ん、顔に出てたか?大丈夫だよ」
「...私は間違えてしまったのでしょうか?」
ん?
急に問われたその言葉に俺はいまいちピンとこなかった。
「間違えたって、何を?」
「今まであなたを傷つけ、そして今もあなたを侮辱し続けている彼を私は許せなかったんです。だから、この試験を彼との闘いだとは考えず、あなたの汚名返上のつもりで戦っていました。彼はあれでも、私との闘いに真摯に向き合った戦士なのにも関わらず」
「なんだ。そんなことで悩んでいたなんて」
「...」
そんなことで悩んでいてくれてよかった。
しかし、彼女は俺の答えに対して、そんなこととはなんだといった顔でこちらをじっと見つめる。
ただ本当に、彼にコテンパンにされたことがショックで悩んでいるとか、彼女のこれからに繋がるような悩みじゃなくて。
些細な、一瞬の出来事に悩んでいるんだったら、俺でも相談相手にはなれる。
「確かに、神崎には今まで色々されてきたけど、俺自身がそういった道を選んでしまったのが悪い。とはいえ、そんな俺を救おうとしてくれた指輪が、俺は嬉しいよ」
「ッ...」
指輪の顔が先ほどよりもより頬を真っ赤に染める。
自分で言っていて、かなり恥ずかしい気分になる。それなら、それを聞いている指輪もかなり恥ずかしいのだろう。
「それに、指輪はその闘いの中でちゃんと理解することができたんだろ?だから、本気の片鱗を見せた」
「そうですけど、それでも私は自分が最良の選択をできたと思えないんです」
「いいじゃないか。そうやって、君も真摯に向き合えているのだから。それにきっと、彼はそんなに気にしていないよ」
「...いいんでしょうか?そんな、あなたの悪魔の様な言葉を呑んでしまって」
「はは、ひどい言われようだな。天使の救済が差し伸べられてたと思ってほしいな」
まだまだ、俺も指輪も神崎も誰も彼も精神が爆発しまくっているような高校生なのだ。
本気の戦場に出向いてすらいない、命を賭けた戦いを経験していないひよっこだ。
なら、今そうやって考えられるだけで指輪は立派なのだろう。
彼女の顔にはもう、先ほどまでのドス黒い色は消えていた。
「ふふ、あなたが天使ですか?」
「おい、そこか笑うところ?」
ま、そりゃそうかもな。
「さてと、次は俺の番か...。指輪がこれじゃあ、俺もぼこぼこにされるかな?」
「...すみません。お願いを一つ聞いてもらっていいですか?」
「お願い?」
「はい、先ほど私の悩みを聞いてもらって、更に図々しいと思うのですが、これだけは...」
「分かった。いいよ」
「え、まだ何も言っていないのですが」
「指輪の願いだ。変なことは要求されないだろ」
俺は指輪を信頼している。まだ短い付き合いだが、彼女が既に俺にそうしてくれているように、俺も返してやらないとな。
それに、彼女がこれから俺に何を言うのかはだいだい想像がついている。
「神崎くんとの試合を、全力で戦ってもらえないでしょうか?」
「...」
「あなたが、その力を隠したいのは分かります。今まで信じてもらえず、逆に周囲からの自信の価値を貶める要因になっていることも。ですが、それでも...」
「俺の、全力...」
この力のお陰で俺は生きる理由を持ち続けることができた。
しかし、それとは裏腹にこのタイトルは俺の生活を苦しいものへと変貌させた。
このタイトル至上主義の世界で、一度見放された俺に与えられた希望の光。それは、諦めることを決して許さず、進むことのみを強要してきた。
もし、次の試合でこのタイトルを使い、周りから俺の力を否定されたら?
俺は今後、そんな暗闇の道を進んでいくことができるのか?
「安心してください」
「え...」
「例え、あなたが絶望の淵を歩くというのであれば、私が必ず手を伸ばします。決して、あなたが絶望へ堕ちることはさせません」
俺の力を知っていて、否定せず、信頼してくれている彼女が俺を押してくれている。
今までの俺には言われたことのない、心動かされる言葉。
「ふっ。確かに、天使は俺じゃないらしいな。そうだろう?天使様」
「...私ですか?!なぜ?!」
「ははっ」
俺は指輪を試験場の外へと連れて行き、牧村や柳沢がいる場所へと降ろす。
「二人とも、指輪のことを頼んだ」
「大丈夫か?もしあれなら、早々に棄権していいからな」
「...ほどほどにして、怪我のないようにね」
悪意のない、純粋な、俺を気遣う言葉がとても心地よかった。
「大丈夫。絶対勝つよ」
「...」
「...」
二人は黙ったまま、真剣な眼差しを俺へと向ける。
「ただ、二人には先に誤っておかないとな。騙すような真似をして悪かった」
「あ?今、なんて...」
「...それは、どういう意味?」
「ま、それは一度見てもらってからで」
じゃっと手を振りながら俺は試験場へと上がる。
♢
注目される。
それもそうだろう、今更どの面下げてこんな場所に立っているんだ。
学校最強の指輪と同じチームで、器用貧乏という俺だけが戦力外。そして、俺以外はもうすでに敗れてしまった。
なら、お前には何ができる。
そういった目が俺の体中に突き刺さる。
「教えてやるさ。俺を受け入れてくれた彼女らを勝利へと導いてやる」
そう誰に言うでもなく、一人呟く。
「はぁ、結局指輪との決着はつかず。おまけに、その次に出てきたのがお前みたいな雑魚だなんてな」
「...」
試験場の上には、やはりすでにいる神崎が鬱陶しそうにしている。
「お前、御託はどうでもいい。早いとこ戻れ」
「悪いが、それはできないな」
「あ?俺は別に構わないが、今は虫の居所が悪いんだ。お前に手加減してやることもできねぇぜ?」
「それで構わない。むしろ、そうでないと困る」
「...チッ。指輪の奴といい、お前といい。どいつもこいつも頭が悪くて困ったもんだ」
神崎はこちらを本気で睨みつける。
今まで彼から向けられた目は嘲笑、軽蔑といった悪戯の範疇だったのだろう。
だが、俺が今浴びているこの威には怒りを強く感じる。
「先に言っておく。すまないな、神崎」
「...」
神崎は何も言わずに俺の言葉に耳を傾ける。
返答する気すらないほどの怒りを彼は必死に押さえつけているのだろう。
ずっと戦いたがっていた相手との勝負が、途中で終わってしまったのだ。それもそうか。
「俺が思っている以上にお前は努力し、誰にも負けないような力を身に着けていた。今更言っても遅いが、それは俺も同じだ。それを信じる、信じないはお前自身が決めてくれ」
俺が努力していたように、神崎だって努力していた。
ただ、神崎は堂々と、誰にも負けまいとこの世界で必死に抗い続けていた。そしてそれは、Sランクに届くまでに。
俺にはできなかったこと。それをやってのけた。
俺は、神崎を尊敬している。
「だから今ここで、お前に俺の本気を見せてやる」
ようやく、俺はこのタイトル至上主義の世界で生きる覚悟ができた。
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