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第1章
【中学生・あの頃のふたり4】
しおりを挟むいよいよ、6月末に行われる期末テストの範囲が発表された。部活は今日から一斉停止期間に入った。
部活のない日は、掃除があったとしても16時過ぎには下校出来た。今日から《定期テスト対策》の6人のメンバーが翔真の家で勉強会を行うことになっていた。
基本自由参加で、平日のみ18時には解散を約束することで母から場所提供の承諾を得ていた。
翔真はメンバーと一緒に自宅に帰り、インターフォンを鳴らした。母が玄関ドアを開けるものと思っていたため、紗希が現れたのには少し驚いた。
「あれ? もう家にいるじゃん」
「今日は短縮授業だったから、お母さん今買い忘れたものを……って……あ……」
紗希はそう言いかけて、翔真の後ろに控えて立っている中学生5人を見た。
「あ、そっか! 勉強会今日からだったっけ、ごめん、いらっしゃい、どうぞ」
紗希はドアクローザーにストップがかかるまで、大きくドアを開けて迎えた。
翔真の後ろから、こんにちは、やら、お邪魔します、などの声が飛び交う。
「翔真のお姉ちゃんだ、こんちは!」
翔真と同じ小学校だった、バドミントン部の隆誠が元気よく声を掛けた。
「あ! 隆誠くん、久し振りだね」
隆誠とは小学校5年・6年と同じクラスで仲も良かった。何度かここにも遊びに来たことがあり、人見知りをしない性格のうえ賑やかでクラスのムードメーカー的存在だったため、翔真の家に遊びに来ては紗希とも普通に話した。
全員が家の中に入り、翔真を先頭に2階の自室へ向かおうと階段を上がりかけたとき、紗希が翔真に声をかけた。
「ちょっと」
と翔真に手招きしながら紗希はリビングへと入っていった。
翔真は後を隆誠に頼み、隆誠も勝手知ったる他人の家という様子で階段をとんとんと上がって行った。
翔真はリビングへ入り、何? と言って紗希を見た。
「リビングは絶対に立ち入り禁止だからね!」
「どんな格好で寛ぐつもりだよ」
そう言うと翔真はキッチンに向かった。
西澤家の一体型のLDKは、このドア1枚によって来客の目から守られていた。
「今日はライブDVDを観るって決めてたの!」
紗希は勢いよくソファに飛び込んだ。
2階からは、ここがトイレだの、ここが翔真の部屋だのと、隆誠の大きな声が聞こえている。
翔真は紗希に適当に返事をして、キッチンのお菓子が入っている棚の扉を開け、スナック菓子の袋をいくつか掴んでリビングを出た。
2階の翔真の部屋では、6人が各自進めたい教科のワークを広げ、わからない問題はわかるものが教えた。
数学の問題を解く翔真の隣りに隆誠が座り、翔真のワークを覗き込みながら言った。
「いいか翔真、数学はとにかく公式を丸暗記すること、で、ワークは最低3周はする」
「え? 3周も?」
翔真が目を丸くして言った。
「最低が3周な、1周じゃすぐ忘れる。翔真は暗記得意だろ? オレは数学もう5周目入ってるし」
隆誠は得意げに笑った。
「オレ、ワーク何周もするって概念がなかったんだけど」
翔真がげんなりしながら呟いた。翔真にとって、小学校の頃から見てきている隆誠の授業態度は適当で決して真面目とはいえなかったが、算数の授業だけはスイッチが入ったように目の色が変わるのを知っていた。算数のテストは常に90点台で、解き方がわからない友達への教え方も上手だった。
中学生になってクラスは離れてしまったが、きっと数学の授業のときだけは目を輝かせているのだろう、と翔真には簡単に想像がついた。
「隆誠、他の教科は何周目?」
翔真は意地悪な笑みを作って聞いた。
「え? 1周もいってないけど?」
やれよ! と翔真含め5人の声が一斉に上がり、そして笑い声に変わった。
18時を少し過ぎた頃、階段を下りる複数の足音を合図に母がリビングから出てきた。簡単な言葉を交わし合い、翔真は玄関先で友達を見送った。
翔真がリビングに入ると、紗希が声をかけてきた。
「ねぇねぇ、あの背の高い子、モデルとかやってんの?」
「背の高い? ああ、司のこと?」
翔真は冷蔵庫から麦茶ポットを取り出し、グラスに注ぎながら答えた。
「司くんって、あの子か……前髪のときの」
紗希はひとりごとのように呟いた。
「さぁ? そういうの聞いたことないからわかんないけど、何で?」
「何でって……司くん、めちゃくちゃカッコいいじゃん、カッコいいっていうか、何ていったらいいのかなぁ……そう! 綺麗な子、ほら、華があって何ともいえないくらい魅力的な顔立ちで……」
少し興奮気味に話す紗希の言葉を遮るように、翔真が話し出した。
「なぁ紗希……司、またうち来ると思うけど、そういうこと、あいつの前では……」
「言わないよ、そんなこと言うわけないじゃん」
紗希は、わかってるよ、と言わんばかりに翔真を睨み上げた。
「司くん、たぶんだけど近所や学校で相当有名だと思うよ? あれだけイケメンなんだもん、じろじろ見られたら、色々言われたりしてきたんじゃないかなぁ」
あの夕暮れの帰り道、自分の顔立ちについて必死に何度も聞いてきた司の様子が頭をよぎった。
「翔は司くんのこと初めて会ったとき、何とも思わなかったの?」
「何ともって何が? 別に何とも思わないよ。でも、司っていいヤツだよ、一緒にいて面白いし!」
「ふうん……まぁ翔みたいな友達がいて、司くんも気が楽なんじゃないかなぁ」
翔真は紗希の言葉に首を傾げた。
「誰の話?」
キッチンで夕食を作りながら母が聞いた。
「お母さんも見たでしょ? すっごくイケメンの男の子!」
紗希がソファから起き上がり、母のいるキッチンまでやって来た。
「ん? ん? あぁ~……いたっけ?」
「いたじゃん! まったくこのふたりは!」
紗希が母と翔真を交互に見ながら言い放った。
「何だかみんな、勉強するぞって感じが伝わってきて、お母さん頑張れって応援したくなっちゃったよね」
母はそう言うと、楽しそうに笑った。
「お母さんは綺麗な人を見て心がいっぱいになっちゃって、大変なことになるってことはないの? 紗希の推しの画像とかライブDVDとか観せても全然のってこないし」
紗希は母を責めるように言った。
「失礼ねぇ、お母さんだって一期一会の出会いに心が震えたこともあるのよ」
母は野菜を切りながら答えた。
「例えばどんな?」
食卓の椅子に座っていた翔真が聞いた。
「人ではないんだけどね、とっておきなのがひとつ。お母さんが大学生の頃、帰りの電車の車窓から見た夕焼け空なんだけどね、西の空いっぱいに翼を広げたような大きな鳥の姿をした雲でね、今まさに飛び立とうとしているようで……その雲が夕陽で赤色や金色に染まって、燃え上がるように輝いて見えて、お母さん感動しちゃって涙ぐんじゃったのよね」
「何だか鳳凰みたい」
紗希が言った。
「そうね、もう圧倒的なスケールだったから、ただただ記憶に留めておこうと見えなくなるまで車窓に張り付いてた覚えがあるわ、今でもその雲の姿を思い描くことが出来るくらい」
「私も見て見たかったなぁ……でも、同じ景色を見ても、紗希、お母さんみたいに涙ぐむまで感動しなかったかも」
「それでいいのよ、だって感性は人それぞれで自由でしょ? お母さんが見た夕焼け雲だってあの時たくさんの人が見てたと思うけど、ただのいつもの雲だって思う人がいて当然で、それがまた面白いわよね! でも感性って人それぞれだからこそ、いい刺激になる反面、人を簡単に傷つけてしまうこともあるよね」
母は夕飯を作る手元に目を遣りながら言った。
「感性は人それぞれ……」
紗希が呟く。
「……心が震える、一期一会の瞬間……なんかその感じ、オレも知ってるかも」
紗希の言葉に重ねるように、翔真も呟いた。
「なに翔、あんたもあんの?」
紗希が翔真に視線を遣った。
「これは絶対に忘れられないって感じで……」
「どんなの?」
紗希が身を乗り出して聞いた。
「今はちょっと思い出せないんだけど……」
「いや、しっかり忘れてんじゃんよ!」
紗希の早いツッコミに翔真は思わず噴き出した。
「違う違う違う! ほんとマジで! たぶん幼稚園にも通ってないくらいの時だから記憶が遠すぎんの! あ~もう何だっけ! すげぇ綺麗なものだったんだけど」
思い出せずに苦しむ翔真を見ながら、はいはい、と紗希が宥めるように翔真の肩を軽く叩いた。
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