【完結・BL】揺らめき、たゆたう

リビィ・ベル

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第2章

【大学生・それぞれのふたり8】

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 大学2年生、4月。

 春になって、女の子たちが花開くように綺麗に咲いていくのを翔真は眺めていた。

《ほんと……みんなすげぇキラキラしてる。オレも負けてられないよなマジで》

 そんなことを思っていると、フットサルサークルの友達がやって来た。

「翔真! 誰見てたんだよ~」

「誰ってわけじゃないけど……女の子たち。みんなキラキラしてんなーって」

「だよなー、わかる! みんなキレイだしカワイイ! あぁ彼女ほし~」

「そうだ! 翔真! おまえどうなってるんだよ、最近周りの女の子たちからおまえの名前急上昇してんぞ? 何か翔真雰囲気変わったよな」

「いや! オレはまだまだなんだよ! 女の子たちが綺麗になるならオレはもっと先を行かなくちゃいけないんだって!」

 翔真は自分に言い聞かせるように言うと、どゆこと? と友達が不思議そうに顔を見合わせた。


 5月のある日、翔真のスマートフォンにルイ先生から着信があった。内容は11月に行われるダンスの発表会で、毎年各クラスの講師たちひとりひとりによるステージ発表のコーナーに翔真を選びたいというルイ先生からの申し出であった。
 ひとりで披露する講師はもちろん、友人のダンサーをゲストに呼ぶ講師や、生徒とタッグを組む講師それぞれのフリースタイルのステージは、プロのステージを目の当たりに出来るとあって毎年人気のコーナーであり毎回盛り上がりを見せていた。翔真はまたとないチャンスに即答した。

 毎週木曜日の夜のレッスンとは別に、ルイ先生との個人レッスンは毎週土曜日に入ることとなった。

「翔真、ステージで使おうと思ってる楽曲なんだけど数曲ピックアップしておいた。今回大人っぽいサウンドで攻める『ルイ・スタイル』をステージで披露したいんだよね」

 ルイ先生が楽曲を流し始めた。

「あ……」

イントロが流れた瞬間、翔真の口から声がもれた。洋楽のサウンドだった。切なげなイントロから始まったこの楽曲は、単なる静かなバラードではなく聴く人を魅了させるテンポが華やかで耳に心地よかった。
 翔真は目を閉じ英語の歌詞に集中して頭の中で翻訳していった。それは愛する人に愛を乞いたいのに、勇気がなくいつも堂々巡りばかりの自分に呆れ嘆くひとりの男の心情を歌ったものだった。
 翔真は、まるで過去の自分と重ね合わせるように耳を傾けた。

《でも、もうオレは違う、あいつに告白すると決めた。だからおまえも堂々巡りはもうやめろ、オレがステージで舞い踊っておまえと一緒に飛んでやるから》

「もう、他の曲流さなくていいみたいだな」

 翔真の胸の内を察したルイ先生が笑顔で言った。

「はい。この曲でルイ先生と一緒にダンスしたいです」

「決まりだな! 実はオレもこの曲がよかった」

 しばらくふたりは笑い合った。

「なぁ翔真、オレはおまえの恋愛のことは知らん。応援するつもりでおまえを選んだわけじゃない、ただ単純に、純粋に、オレが翔真とダンスを楽しみたかっただけ」

「はい。わかってます」

 翔真は、何度礼を言っても言い尽くせないほどの感謝を胸にルイ先生を見るのだった。



 大学2年生になって、専門分野の講義も増え少しずつ内容も難しくなってきていた。週2回のダンスレッスンにアルバイト、毎日やることがたくさんあったが翔真はなぜか楽しくて仕方がなかった。

 6月、来週翔真は20歳を迎えようとしていた。誕生日が近いことを知ってか知らずか、司が翔真を映画に誘った。

 日曜日、駅の改札口を出た辺りで待ち合わせをすることになっていた。待ち合わせ時間よりも余裕を持って改札口に向かった翔真だったが、そこにはすでに司がスマートフォンを見ながら立っていた。
 少し離れた場所から見る司のすんなりとした肢体とスマートな立ち姿は、今更ながらいつまでも見ていたくなるほど、あまりに魅力的だった。そう思うのは翔真だけではなく、行き交う人々もまた美しい司の姿を盗み見るのだった。

「司」

 声をかけられた司は、落としていた視線だけを翔真に向け、やがてスマートフォンの画面からゆっくりと顔を上げた。透き通る白絹のような肌に少し垂れ目がかった優しげな目元、髪の色と同じ明るいセピア色をした瞳を翔真に向けたまま、おそ、とだけ言うとふわりと笑った。
 この美しい司のお相手に翔真が現れたことで、何かの奇跡を見るように周辺にいた人々からざわめきと小さな歓声が上がったが、翔真と司はすでにその場から動き出していた。

 話題作の映画を観終わったあと、カフェでコーヒーを飲みながら映画の感想や気になったシーンをどう捉えたかを互いに話し合った。

「中学の頃、司とよく映画に行ったよな」

「そうそう、今みたいにカフェなんて行かないから自販機のジュース買ってその辺のベンチでずっと喋ってた」

 それからふたりは夕食をとり、駅に向かって歩いていると、ゆっくりと司が立ち止まり翔真に声をかけた。

「西澤、これ」

 司はポケットに入れていた手を出すと、グーの手を翔真の前に突き出した。翔真の目の前で司の指がゆっくりとほどかれると、銀色に光るシルバーのチェーンネックレスが司の白く細い指に絡まりながら揺れていた。 

「来週だけど、忘れないうちに渡しとくわ」

 翔真は揺れるチェーンネックレスの下に手を差し出すと、司の体温を宿したそれは指先からするりとこぼれ落ち、今度は翔真の手の中の体温をまとっていくのだった。手の中の銀色に光るものをただ黙って見ているだけの翔真に司が何かを察したように慌てて言った。

「言っておくけど、ちゃんとショップで買った新品だからな?」

「…………」

「ラッピングとか言われたけど……」

「……わかってるって」

 翔真は銀色に光る美しいものにそっと指先で触れた。

「……いいな、これ。ありがとな、司」

 愛おしいという感情を知っている気でいたけれど、本当はまだ何も知らなかったのだと翔真は改めて思い知らされた。

 いつ、どこのショップでどのように選んでくれたのかを、どのカラーがいいか、どのデザインを選ぶか悩む司を頭の中で描いてみては、叫び出したいほど嬉しいはずなのに、腹の底から込み上げてくるものに心臓を鷲づかみにされ、苦しくて、痛くて、それでいて心地よくて、泣きたくなった。この甘い痛みは嫉妬心や独占欲からは生まれてこないものなのだと、翔真は知るのだった。

 

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