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第1章 龍の巫女クリム誕生
第12話 その名はクリム・クリムゾン
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絶対無敵の究極龍により産み落とされた少女は、親であるドラゴンと、少女の姿のモデルとなった聖女の記憶の、各々一部を受け継いでいたため、産まれた直後にもかかわらず自身が産み出された経緯と目的とを理解していた。
植え付けられた仮初めの記憶は、産まれたばかりの幼い精神で受け留めるには害となる可能性があったが、清廉潔白な聖女の記憶はもとより、悪龍などと揶揄されるものの、その実子供の様に純粋なドラゴンであるクリムゾンの記憶は、まっさらな少女の精神に悪影響を与える事は無かった。
そして少女はそれらの記憶を飲み下し、そのどちらとも異なる自己を確立して、1個の生命体へと進化を遂げたのだった。
―――舞台は変わらず、絶海の孤島の地下深くに存在する大空洞。怪龍クリムゾンは自身が産み出した眷属の名前を未だ考えているところである。
まだ名前もない少女は親である巨龍の願いを叶えるために知略を巡らせていた。とは言え細やかな状況が不明である以上、まずは情報収集が急務であると結論付けた。
少女は人間の聖女から受け継いだ知識並びに人間社会への一定の理解があるため、それに基づき戦略を練ろうと考えたのだが、その情報はかなり古く現代でも通用するかは未知数だった。というのもクリムゾンの記憶によれば、かつて災厄の龍が暴れていた時代、つまり聖女が生きていた時代から少なくとも数千年が経過しているものと推察されたからだ。
クリムゾンは既に魔導反響定位法により、戦争状態にある地域が無いかと世界中を観測していたが、それは各地に存在する生物の魔力の状態を観測するという方法である。現在戦闘中もしくは戦闘意欲が高まり間もなく戦闘を開始するであろうという、魔力の高ぶりを検知する事で間接的に戦争の有無を観測しているので、そこから世界各国の相互関係を推し量ることはできない。ゆえに世界情勢を正しく理解するには、現地に赴き直接確かめる必要があるのだ。
一応補足しておくと、魔導反響定位法は生物の魔力の状態を知るのみではなく、鯨などが行う通常の反響定位法と同様に、物体の形状や自身からの距離を測る事も可能である。また指向性を高めて強力な魔力波を発する事で攻撃にも転用可能だが、目に見えず超高速で飛来する魔力波は多くの生物にとって回避不可能の理不尽な攻撃となるため、できるだけ戦闘を長引かせて楽しみたいクリムゾンが、そのようなつまらない技術を使用する事はまずないので安心だ。
少女が思考をまとめ終えるのとほぼ同時に、巨龍は少女の名前を閃いた様で背中の翼をピンと伸ばして嬉しそうに少女の方へと転がってきた。
「お待たせー。きみの名前を決めたよ。」
「はいはい、なんですか?」
嬉しそうに報告するドラゴンに少女は優しく微笑み返した。
これではどちらが親か分からないが、当のクリムゾンはまるで気にしていないので、これはこれで良好な関係と言えるだろう。
そして無邪気なドラゴンは続けた。
「きみの名前はクリムだよ。クリム・クリムゾン。」
同じ語の繰り返しに少々間抜けな印象を受けたが、少女はドラゴンに聞き返した。
「なんとなくわかりますけど、どういう意図で付けた名前なんですか?」
「きみはぼくの初めての眷属だからね。ぼくの名前の一部をあげる事にしたんだよ。いい名前でしょ?」
「え?はい、まぁ。」
曇りのない笑顔で自信満々にそう言われてはケチを付けるのも憚られたので、少女はありがたく『クリム・クリムゾン』という名を受け賜わる事にしたのだった。
ここで一つこの世界におけるドラゴンの命名規則を解説しておこう。
ドラゴンの名前は上下二節から構成されており、上の名前がそのドラゴン自身の名前、そして下の名前は母の名前となっている。クリム・クリムゾンであればクリムが自身の名前であり、クリムゾンが母の名前といった具合である。
この規則に乗っ取れば、以前登場したクチナシ・グラニアとセイラン・グラニアの二頭はグラニアという共通の母を持つ姉妹であることが分かる。また、グラニアとは親龍王国グランヴァニアの守護龍であり、クリムゾンと聖女の戦いを止めた張本人(龍)である。
クリムゾンがクチナシ、セイラン姉妹と出会った際に、フルネームを聞いて態度を一変したのはこのためである。世界は広いが世間は狭いという言葉の通り、クリムゾンにとって初対面であった二頭だが、共通の知人であるグラニアの存在によって他人以上の存在に関係が深化していたのだ。
ドラゴン種は強力であるがゆえに個体数はそれほど多くないため、ドラゴンの中でも頂点に位置するロード・ドラゴンともなれば大体全員顔見知りであるし、そのほとんどが近縁関係にある狭いコミュニティである。それゆえに、クリムゾンと例の姉妹に繋がりがあったのは、それほど低くない確率の元に起こった偶然であり、ある意味必然と言える。
植え付けられた仮初めの記憶は、産まれたばかりの幼い精神で受け留めるには害となる可能性があったが、清廉潔白な聖女の記憶はもとより、悪龍などと揶揄されるものの、その実子供の様に純粋なドラゴンであるクリムゾンの記憶は、まっさらな少女の精神に悪影響を与える事は無かった。
そして少女はそれらの記憶を飲み下し、そのどちらとも異なる自己を確立して、1個の生命体へと進化を遂げたのだった。
―――舞台は変わらず、絶海の孤島の地下深くに存在する大空洞。怪龍クリムゾンは自身が産み出した眷属の名前を未だ考えているところである。
まだ名前もない少女は親である巨龍の願いを叶えるために知略を巡らせていた。とは言え細やかな状況が不明である以上、まずは情報収集が急務であると結論付けた。
少女は人間の聖女から受け継いだ知識並びに人間社会への一定の理解があるため、それに基づき戦略を練ろうと考えたのだが、その情報はかなり古く現代でも通用するかは未知数だった。というのもクリムゾンの記憶によれば、かつて災厄の龍が暴れていた時代、つまり聖女が生きていた時代から少なくとも数千年が経過しているものと推察されたからだ。
クリムゾンは既に魔導反響定位法により、戦争状態にある地域が無いかと世界中を観測していたが、それは各地に存在する生物の魔力の状態を観測するという方法である。現在戦闘中もしくは戦闘意欲が高まり間もなく戦闘を開始するであろうという、魔力の高ぶりを検知する事で間接的に戦争の有無を観測しているので、そこから世界各国の相互関係を推し量ることはできない。ゆえに世界情勢を正しく理解するには、現地に赴き直接確かめる必要があるのだ。
一応補足しておくと、魔導反響定位法は生物の魔力の状態を知るのみではなく、鯨などが行う通常の反響定位法と同様に、物体の形状や自身からの距離を測る事も可能である。また指向性を高めて強力な魔力波を発する事で攻撃にも転用可能だが、目に見えず超高速で飛来する魔力波は多くの生物にとって回避不可能の理不尽な攻撃となるため、できるだけ戦闘を長引かせて楽しみたいクリムゾンが、そのようなつまらない技術を使用する事はまずないので安心だ。
少女が思考をまとめ終えるのとほぼ同時に、巨龍は少女の名前を閃いた様で背中の翼をピンと伸ばして嬉しそうに少女の方へと転がってきた。
「お待たせー。きみの名前を決めたよ。」
「はいはい、なんですか?」
嬉しそうに報告するドラゴンに少女は優しく微笑み返した。
これではどちらが親か分からないが、当のクリムゾンはまるで気にしていないので、これはこれで良好な関係と言えるだろう。
そして無邪気なドラゴンは続けた。
「きみの名前はクリムだよ。クリム・クリムゾン。」
同じ語の繰り返しに少々間抜けな印象を受けたが、少女はドラゴンに聞き返した。
「なんとなくわかりますけど、どういう意図で付けた名前なんですか?」
「きみはぼくの初めての眷属だからね。ぼくの名前の一部をあげる事にしたんだよ。いい名前でしょ?」
「え?はい、まぁ。」
曇りのない笑顔で自信満々にそう言われてはケチを付けるのも憚られたので、少女はありがたく『クリム・クリムゾン』という名を受け賜わる事にしたのだった。
ここで一つこの世界におけるドラゴンの命名規則を解説しておこう。
ドラゴンの名前は上下二節から構成されており、上の名前がそのドラゴン自身の名前、そして下の名前は母の名前となっている。クリム・クリムゾンであればクリムが自身の名前であり、クリムゾンが母の名前といった具合である。
この規則に乗っ取れば、以前登場したクチナシ・グラニアとセイラン・グラニアの二頭はグラニアという共通の母を持つ姉妹であることが分かる。また、グラニアとは親龍王国グランヴァニアの守護龍であり、クリムゾンと聖女の戦いを止めた張本人(龍)である。
クリムゾンがクチナシ、セイラン姉妹と出会った際に、フルネームを聞いて態度を一変したのはこのためである。世界は広いが世間は狭いという言葉の通り、クリムゾンにとって初対面であった二頭だが、共通の知人であるグラニアの存在によって他人以上の存在に関係が深化していたのだ。
ドラゴン種は強力であるがゆえに個体数はそれほど多くないため、ドラゴンの中でも頂点に位置するロード・ドラゴンともなれば大体全員顔見知りであるし、そのほとんどが近縁関係にある狭いコミュニティである。それゆえに、クリムゾンと例の姉妹に繋がりがあったのは、それほど低くない確率の元に起こった偶然であり、ある意味必然と言える。
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