【完結】【R18】断り続けた見合い『まさか17回目で捕まるなんて……』

えるろって

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第3話「初対面で牽制されるなんて、聞いてない」

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「さて、今回の縁談について、グレイメリア公爵家としてはどのように考えている?」

応接室に移動して席に着くと、ロイ王子が第一声を発する。まるで単刀直入な交渉の場だ。父とセレナは同席しているが、私が主となって答えなければならない。

「えーと……まだお話を十分にお聞きしていないので、何とも」

そう返すと、ロイ王子は軽く肩をすくめて続ける。

「なるほど。ならば、まずは俺の自己紹介からしよう。ヴェルディーン王国の第二王子で、将来的には隣国との同盟強化に尽力する立場だ。表向きは王妃候補を公募しているが、正直な話……王太子である兄に所有欲が強い。だから俺には自由があるぶん、周りは好き勝手言うわけだ」

「それは……大変ですね」

当たり障りなく答える私を、ロイ王子はじっと見つめる。その眼差しに少し寒気を覚えるほどだ。

「……ならば、シルヴィア嬢は?おまえ自身はどう思っているんだ」

「私自身?」

突然の問いに、私は目を瞬かせる。こんなふうに自分の意見を真正面から尋ねられることは珍しい。だいたいの場合、相手は私の家柄や資産、あるいは“悪役令嬢”の噂を警戒して、適当に話を合わせてくるだけだった。

「はい……うーん」

言葉に詰まっている私を見て、ロイ王子が少し口元を歪めた。まるで私の反応を面白がるような、その仕草。

「眠そうな割には、言葉を選んでいるようだ」

「え」

「何を考えているか、その表情だけじゃわからない。けど、目が綺麗だ。……暗い瞳だけど、奥底では何か動いている感じがする」

「……っ」

唐突な指摘に息をのむ。からかわれているのか、それとも見透かされているのか。どちらにしても、初対面の相手にここまで踏み込まれるのは初めてだ。

すると、父・アーネストが慌てて言葉を差し込んできた。

「ロイ王子、少々無遠慮ではありませんか。娘は、まだこういった場慣れが不足しておりまして……」

「いいえ、公爵殿。俺はただ、本音で話したいだけです。形式ばった会話に興味がなくてね」

柔らかな口調でも、その言葉は鋭い。セレナが「シルヴィア、大丈夫?」と心配そうに目で合図してくるけれど、私は無言で小さくうなずくしかない。

「確かに形式は苦手かもしれません。私もあまりしゃべるほうではなくて……」

重い空気を和らげたいと思ったのか、私は意を決して言葉を返した。すると、ロイ王子の瞳がわずかに細まる。

「そうか。なら、今日はお互いの苦手を克服する機会にしてみようか?」

「……?」

「たとえば、俺は“相手に優しく接する”ことに慣れていない。おまえは“自分の気持ちを言葉にする”のが苦手だろう?……実践してみるのはどうだ?」

「そんな、いきなり言われても……」

あまりにも突然で、私は困惑する。けれど“ドS”というよりは、何でもハッキリ言いすぎる人……という印象を受けてしまった。

「ま、気が向いたらでいい。焦らなくても、俺はすぐには帰らないから」

ロイ王子はそう言うと、まるで私の表情を観察するかのようにじっと眺めた。私は思わず視線をそらす。なんだろう、この奇妙な感覚……怖いけれど、少し胸がざわつく。

17回目のお見合い、最初から波乱の予感を感じる。これまでとは違う危うさを含んだ空気が、私たちの間に流れていた。
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