【完結】【R18】断り続けた見合い『まさか17回目で捕まるなんて……』

えるろって

文字の大きさ
6 / 50

第6話「ロイ王子再訪。翻弄されるお茶会」

しおりを挟む
「シルヴィアお嬢様、ロイ王子が訪問されました」

数日後、アリスの報告に私は思わず聞き返した。

「もう?……早すぎない?」

「公爵様が了承されましたので、お部屋でお待ちですわ」

私は額を押さえて、ぼんやりと立ち上がる。姉のセレナが一緒に応接室へ行くと言ってくれたが、なぜか今回は「二人で話すほうがよい」とのロイ王子の要望らしい。

「なんなの、あの人……」

嘆きつつも、客人を放置するわけにはいかない。私はできるだけ無表情を保ちながらドアを開いた。すると、そこには上等なブルーのジャケットを着たロイ王子が、ゆったりと紅茶を楽しんでいる姿。

「失礼します」

軽く頭を下げると、王子は私をまっすぐ見て、静かに微笑んだ。

「待っていたよ、シルヴィア嬢。……元気そうだな」

「まあ……普通です」

「はは、らしい返事だ」

私の素っ気ない言葉を楽しんでいるのか、ロイ王子はどこか満足げだ。私はソファに腰掛けると、執事がすぐにお茶を注いでくれた。

「今日はどのようなご用件で?」

本音を言えば、あまり踏み込んでほしくない。でも、聞くしかない。ロイ王子は短く息を吐き、紅茶のカップを置いてから口を開く。

「おまえに会いたかった。ただそれだけだと失礼か?」

「……」

目が合うと、不思議な圧力を感じる。彼の言葉はストレートすぎて、私の心臓をどきりと揺らしてくる。

「……失礼とは思わないです。でも驚きます」

ようやくそう返すと、ロイ王子は満足そうにうなずいた。

「そうか。ならよかった。……最近、王宮でおまえの噂を耳にしたんだ。悪役令嬢だとか、縁談を蹴り続けるとか。興味深かった」

「興味深い……ですか」

「噂の多い女性は、たいてい中身が違う。俺はそういうほうが面白いと思ってる」

言葉をつなぎながら、ロイ王子は私の手元をじっと見つめる。その視線の熱さに、なんだか居心地が悪い。それでも目線をそらさないよう、私は頑張って意識を保つ。

「……私が実際どうだろうと、王子にとっては関係ないのでは?」

「おまえが王太子の妃になる意思があるなら、関係ある話だと思うが?」

「……っ」

ズバリと突かれて、口をつぐむ。まだそんな先の話なんて、考えたくもない。

「ま、まだ焦らなくてもいい。けれど、俺は思ったよりおまえの存在が気に入った。……それが事実だ」

「な、何をもって気に入ったと言ってるんですか?」

緊張から勢いづいて問い返す。するとロイ王子は心底楽しそうにクスッと笑った。

「言葉にしなくても、少しは察しろ。……でも正直に言うなら、おまえのその淡泊そうな表情が動く瞬間を見たいんだ」

「………」

私にとっては、まさに“ドS”とも思えるほどの言い草だ。表情を作るのが苦手な私にとって、それは試練に近い。けれど、否定はしない私を見て、ロイ王子はさらに微笑みを深くする。

「もう少し付き合え。お茶会に誘いたい。……俺が主催するから、近い内に宮殿に来い」

「宮殿……私を呼ぶんですか?」

「もちろんだ。嫌なら断ればいい。けれど……断ったら、余計に追いたくなるかもしれないな」

その台詞に、私はぞくりとした。これがロイ王子のやり方なのだ。相手を逃がさず、しかし強引すぎない程度に追い詰める。

「……考えておきます」

絞り出すように答えるのが精一杯だ。ロイ王子はその返事に満足した様子で、カップを口に運ぶ。静寂が降りる応接室で、私の心臓はまだ早鐘を打ち続けていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

処理中です...