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第6話「ロイ王子再訪。翻弄されるお茶会」
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「シルヴィアお嬢様、ロイ王子が訪問されました」
数日後、アリスの報告に私は思わず聞き返した。
「もう?……早すぎない?」
「公爵様が了承されましたので、お部屋でお待ちですわ」
私は額を押さえて、ぼんやりと立ち上がる。姉のセレナが一緒に応接室へ行くと言ってくれたが、なぜか今回は「二人で話すほうがよい」とのロイ王子の要望らしい。
「なんなの、あの人……」
嘆きつつも、客人を放置するわけにはいかない。私はできるだけ無表情を保ちながらドアを開いた。すると、そこには上等なブルーのジャケットを着たロイ王子が、ゆったりと紅茶を楽しんでいる姿。
「失礼します」
軽く頭を下げると、王子は私をまっすぐ見て、静かに微笑んだ。
「待っていたよ、シルヴィア嬢。……元気そうだな」
「まあ……普通です」
「はは、らしい返事だ」
私の素っ気ない言葉を楽しんでいるのか、ロイ王子はどこか満足げだ。私はソファに腰掛けると、執事がすぐにお茶を注いでくれた。
「今日はどのようなご用件で?」
本音を言えば、あまり踏み込んでほしくない。でも、聞くしかない。ロイ王子は短く息を吐き、紅茶のカップを置いてから口を開く。
「おまえに会いたかった。ただそれだけだと失礼か?」
「……」
目が合うと、不思議な圧力を感じる。彼の言葉はストレートすぎて、私の心臓をどきりと揺らしてくる。
「……失礼とは思わないです。でも驚きます」
ようやくそう返すと、ロイ王子は満足そうにうなずいた。
「そうか。ならよかった。……最近、王宮でおまえの噂を耳にしたんだ。悪役令嬢だとか、縁談を蹴り続けるとか。興味深かった」
「興味深い……ですか」
「噂の多い女性は、たいてい中身が違う。俺はそういうほうが面白いと思ってる」
言葉をつなぎながら、ロイ王子は私の手元をじっと見つめる。その視線の熱さに、なんだか居心地が悪い。それでも目線をそらさないよう、私は頑張って意識を保つ。
「……私が実際どうだろうと、王子にとっては関係ないのでは?」
「おまえが王太子の妃になる意思があるなら、関係ある話だと思うが?」
「……っ」
ズバリと突かれて、口をつぐむ。まだそんな先の話なんて、考えたくもない。
「ま、まだ焦らなくてもいい。けれど、俺は思ったよりおまえの存在が気に入った。……それが事実だ」
「な、何をもって気に入ったと言ってるんですか?」
緊張から勢いづいて問い返す。するとロイ王子は心底楽しそうにクスッと笑った。
「言葉にしなくても、少しは察しろ。……でも正直に言うなら、おまえのその淡泊そうな表情が動く瞬間を見たいんだ」
「………」
私にとっては、まさに“ドS”とも思えるほどの言い草だ。表情を作るのが苦手な私にとって、それは試練に近い。けれど、否定はしない私を見て、ロイ王子はさらに微笑みを深くする。
「もう少し付き合え。お茶会に誘いたい。……俺が主催するから、近い内に宮殿に来い」
「宮殿……私を呼ぶんですか?」
「もちろんだ。嫌なら断ればいい。けれど……断ったら、余計に追いたくなるかもしれないな」
その台詞に、私はぞくりとした。これがロイ王子のやり方なのだ。相手を逃がさず、しかし強引すぎない程度に追い詰める。
「……考えておきます」
絞り出すように答えるのが精一杯だ。ロイ王子はその返事に満足した様子で、カップを口に運ぶ。静寂が降りる応接室で、私の心臓はまだ早鐘を打ち続けていた。
数日後、アリスの報告に私は思わず聞き返した。
「もう?……早すぎない?」
「公爵様が了承されましたので、お部屋でお待ちですわ」
私は額を押さえて、ぼんやりと立ち上がる。姉のセレナが一緒に応接室へ行くと言ってくれたが、なぜか今回は「二人で話すほうがよい」とのロイ王子の要望らしい。
「なんなの、あの人……」
嘆きつつも、客人を放置するわけにはいかない。私はできるだけ無表情を保ちながらドアを開いた。すると、そこには上等なブルーのジャケットを着たロイ王子が、ゆったりと紅茶を楽しんでいる姿。
「失礼します」
軽く頭を下げると、王子は私をまっすぐ見て、静かに微笑んだ。
「待っていたよ、シルヴィア嬢。……元気そうだな」
「まあ……普通です」
「はは、らしい返事だ」
私の素っ気ない言葉を楽しんでいるのか、ロイ王子はどこか満足げだ。私はソファに腰掛けると、執事がすぐにお茶を注いでくれた。
「今日はどのようなご用件で?」
本音を言えば、あまり踏み込んでほしくない。でも、聞くしかない。ロイ王子は短く息を吐き、紅茶のカップを置いてから口を開く。
「おまえに会いたかった。ただそれだけだと失礼か?」
「……」
目が合うと、不思議な圧力を感じる。彼の言葉はストレートすぎて、私の心臓をどきりと揺らしてくる。
「……失礼とは思わないです。でも驚きます」
ようやくそう返すと、ロイ王子は満足そうにうなずいた。
「そうか。ならよかった。……最近、王宮でおまえの噂を耳にしたんだ。悪役令嬢だとか、縁談を蹴り続けるとか。興味深かった」
「興味深い……ですか」
「噂の多い女性は、たいてい中身が違う。俺はそういうほうが面白いと思ってる」
言葉をつなぎながら、ロイ王子は私の手元をじっと見つめる。その視線の熱さに、なんだか居心地が悪い。それでも目線をそらさないよう、私は頑張って意識を保つ。
「……私が実際どうだろうと、王子にとっては関係ないのでは?」
「おまえが王太子の妃になる意思があるなら、関係ある話だと思うが?」
「……っ」
ズバリと突かれて、口をつぐむ。まだそんな先の話なんて、考えたくもない。
「ま、まだ焦らなくてもいい。けれど、俺は思ったよりおまえの存在が気に入った。……それが事実だ」
「な、何をもって気に入ったと言ってるんですか?」
緊張から勢いづいて問い返す。するとロイ王子は心底楽しそうにクスッと笑った。
「言葉にしなくても、少しは察しろ。……でも正直に言うなら、おまえのその淡泊そうな表情が動く瞬間を見たいんだ」
「………」
私にとっては、まさに“ドS”とも思えるほどの言い草だ。表情を作るのが苦手な私にとって、それは試練に近い。けれど、否定はしない私を見て、ロイ王子はさらに微笑みを深くする。
「もう少し付き合え。お茶会に誘いたい。……俺が主催するから、近い内に宮殿に来い」
「宮殿……私を呼ぶんですか?」
「もちろんだ。嫌なら断ればいい。けれど……断ったら、余計に追いたくなるかもしれないな」
その台詞に、私はぞくりとした。これがロイ王子のやり方なのだ。相手を逃がさず、しかし強引すぎない程度に追い詰める。
「……考えておきます」
絞り出すように答えるのが精一杯だ。ロイ王子はその返事に満足した様子で、カップを口に運ぶ。静寂が降りる応接室で、私の心臓はまだ早鐘を打ち続けていた。
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