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第15話「月夜の庭、そして王子のドS発言」
「月が明るい……」
宮廷の石造りの回廊を抜けると、夜の庭には大きな月が昇っていた。淡い光が噴水を照らし、草木のシルエットが静かに浮かび上がる。晩餐の喧騒が遠くに感じるような、落ち着いた空気だ。
「夜は嫌いじゃない。むしろ人が減って静かなところがいい」
ロイ王子はそう言いながら私の横を歩く。ドレスの裾が揺れ、足元の砂利が控えめな音を立てる。私は自然と大きく息を吸い込んだ。
「私も、こういう落ち着いた雰囲気は好きです。眠くなるけど……」
少しだけ冗談めかして言うと、王子は小さく笑う。
「いつも眠そうな顔をしているおまえが、どうしてこんなに俺の気を引くのか、自分でも不思議だ」
「……まだそんなこと言ってるんですね」
呆れたように返すと、王子は立ち止まって私の方に向き直った。そのまま、私を見下ろすように視線を合わせてくる。金色の瞳が夜風の中で冷たく光っているように見えた。
「ねえ、シルヴィア。おまえは俺にとって何になりたいと思う?」
「え……?」
突拍子もない質問に、私は息を飲む。恋人とか、婚約者とか、そんな言葉を期待しているわけでもないが、急に核心に迫られると動揺が走る。
「俺はおまえが欲しいと思ってる。……他の男じゃなくて、俺だけを見てほしい」
「そ、それは……あまりにも急じゃないですか」
私がしどろもどろになると、王子は静かに笑みを含んだ。
「急?俺はおまえと最初に会った時から、そう思っていたんだが。……ただ、この気持ちを口にするのはまだ早いとも思っていた」
「だ、だって、あなたは王子で……」
家柄がどうとか、年の差がどうとか、そんな言い訳をしようとしても、声が上ずって言葉が続かない。そんな私を面白そうに眺めながら、王子は一歩近づいてくる。
「遠慮はいらない。もしおまえが逃げたいなら逃げろ。……俺は追いかけるが」
「ドS発言……」
思わず口から出た言葉に、王子は「ははっ」と笑い声を立てた。少し驚くほど楽しそうな笑い方で、私は目を瞬かせる。
「いいだろう?俺はもともとこういう性格だ。王族だからといって綺麗事ばかり言うつもりはない。おまえが何を望むのか、もっと聞かせてくれ」
「私の望み……?」
じっと見つめられて、また心臓が騒ぎ出す。これほどまでに正直に、私との関係を意識してくる人は初めてだ。断る理由はなくても、どう受け止めていいかわからない。
「おまえが本心を話してくれるまで、俺は追い詰める。……それが俺の“ドS”たる由縁だ」
「……ひどい人」
呆れ交じりに呟くと、王子は少し嬉しそうに微笑む。その姿が月明かりの下で妙に神秘的に見えて、私はまた視線をそらせなくなっていた。
「ひどい奴でいいさ。……おまえのことは、絶対に手放さない」
その言葉が耳に強く残る。私はどうするべきか、頭の中がぐるぐると回っていた。けれど、はっきりしているのは、今の私がこの人の存在を嫌っているわけでは決してない、ということだった。
宮廷の石造りの回廊を抜けると、夜の庭には大きな月が昇っていた。淡い光が噴水を照らし、草木のシルエットが静かに浮かび上がる。晩餐の喧騒が遠くに感じるような、落ち着いた空気だ。
「夜は嫌いじゃない。むしろ人が減って静かなところがいい」
ロイ王子はそう言いながら私の横を歩く。ドレスの裾が揺れ、足元の砂利が控えめな音を立てる。私は自然と大きく息を吸い込んだ。
「私も、こういう落ち着いた雰囲気は好きです。眠くなるけど……」
少しだけ冗談めかして言うと、王子は小さく笑う。
「いつも眠そうな顔をしているおまえが、どうしてこんなに俺の気を引くのか、自分でも不思議だ」
「……まだそんなこと言ってるんですね」
呆れたように返すと、王子は立ち止まって私の方に向き直った。そのまま、私を見下ろすように視線を合わせてくる。金色の瞳が夜風の中で冷たく光っているように見えた。
「ねえ、シルヴィア。おまえは俺にとって何になりたいと思う?」
「え……?」
突拍子もない質問に、私は息を飲む。恋人とか、婚約者とか、そんな言葉を期待しているわけでもないが、急に核心に迫られると動揺が走る。
「俺はおまえが欲しいと思ってる。……他の男じゃなくて、俺だけを見てほしい」
「そ、それは……あまりにも急じゃないですか」
私がしどろもどろになると、王子は静かに笑みを含んだ。
「急?俺はおまえと最初に会った時から、そう思っていたんだが。……ただ、この気持ちを口にするのはまだ早いとも思っていた」
「だ、だって、あなたは王子で……」
家柄がどうとか、年の差がどうとか、そんな言い訳をしようとしても、声が上ずって言葉が続かない。そんな私を面白そうに眺めながら、王子は一歩近づいてくる。
「遠慮はいらない。もしおまえが逃げたいなら逃げろ。……俺は追いかけるが」
「ドS発言……」
思わず口から出た言葉に、王子は「ははっ」と笑い声を立てた。少し驚くほど楽しそうな笑い方で、私は目を瞬かせる。
「いいだろう?俺はもともとこういう性格だ。王族だからといって綺麗事ばかり言うつもりはない。おまえが何を望むのか、もっと聞かせてくれ」
「私の望み……?」
じっと見つめられて、また心臓が騒ぎ出す。これほどまでに正直に、私との関係を意識してくる人は初めてだ。断る理由はなくても、どう受け止めていいかわからない。
「おまえが本心を話してくれるまで、俺は追い詰める。……それが俺の“ドS”たる由縁だ」
「……ひどい人」
呆れ交じりに呟くと、王子は少し嬉しそうに微笑む。その姿が月明かりの下で妙に神秘的に見えて、私はまた視線をそらせなくなっていた。
「ひどい奴でいいさ。……おまえのことは、絶対に手放さない」
その言葉が耳に強く残る。私はどうするべきか、頭の中がぐるぐると回っていた。けれど、はっきりしているのは、今の私がこの人の存在を嫌っているわけでは決してない、ということだった。
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