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第17話「悪意の計略、ロイ王子が庇う瞬間」
「さあ、これからが本番よ」
大きなホールに入ると、既に舞曲が始まっていた。中央では何組もの貴族たちが優雅に踊り、周囲のテーブルでは社交の花が咲いている。セレナは知り合いを見つけてすぐに談笑を始め、父も要人と話し込んでいる。
「シルヴィア、踊れるか?」
ロイ王子が私の隣に立ち、ゆっくりと問いかける。いつもの威圧感は少しだけ控えめで、どこかエスコートを意識した佇まいだ。
「……踊りは一応習いましたけど、あまり上手じゃないです」
「いい。下手でも構わない。……ほら、手を」
王子が手を差し出す。私は周囲の視線を感じて一瞬たじろいだが、断るわけにもいかず、その手を取った。すると、王子は上手にリードしながら私をホールの中央へと導いていく。
「意外と身長差があるな」
「すみません、子供っぽい体型で……」
「いや、悪くない。……踊りにくいか?」
少し顔を赤らめながら質問してくるロイ王子に、私は首を振るしかない。案外、相手がしっかりリードしてくれると、それなりに踊れている気がするから不思議だ。
優雅な曲に合わせてステップを踏むうち、だんだん緊張も薄れてくる。ロイ王子の手に引かれるまま動くと、眠いというより心地よい浮遊感に包まれた。
しかし、そんな時間は長くは続かなかった。周囲を一回転したとき、視界の隅にリリアンの姿が映る。まるで待ち構えていたかのように、彼女は人混みを縫って私たちに近づいてきた。
「ロイ殿下、ごきげんよう。今日はまた珍しい方と踊っていらして」
リリアンはにっこりと作り笑いを浮かべる。言葉にこそ棘はないが、その瞳には明らかな敵意が宿っていた。踊りの流れを中断するように、あえて話しかけてきたのだろう。
「リリアン・ノースバレー嬢か。どうした」
ロイ王子が顔を向ける。リリアンはその一瞬の目線を見逃さず、私を値踏みするような視線で見た。
「悪役令嬢の噂は本当なのかしら、と気になって。グレイメリアのシルヴィア様ですよね?いろいろと問題を起こしていると聞きましたけど」
舞踏会の最中とは思えない、露骨な悪意。私は言葉に詰まる。一方、ロイ王子はまったく動じる様子もなく、きっぱりとした口調で言い放った。
「問題?具体的には何のことだ?」
「それは……私も噂でしか存じませんけど。いろんな男性との縁談を断り続け、公爵家を困らせているとか、意地悪をして侍女を泣かせたことがあるとか……」
「それのどこが問題だ?」
リリアンが得意げに並べた言葉を、ロイ王子はまるで興味がないかのようにあしらう。その瞳には冷たい怒気がわずかに宿っていた。
「殿下、悪役の方と踊るのはイメージ的によろしくないのでは……」
「リリアン、今すぐその口を閉じろ」
ピタリと凍りつくリリアンの表情。私も心臓が止まるかと思うほどの鋭さ。ロイ王子は私の腰に手を回し、守るような仕草を見せた。
「俺が踊りたい相手と踊る。それに文句をつける権利がおまえにあるのか?」
「い、いえ……そのようなつもりでは」
もはやリリアンは後退するしかない。周囲の人々が視線を集めるなか、彼女は苦々しい表情で口を噤んだ。そして小さく頭を下げたあと、踵を返して去っていく。
私はまだ心臓の鼓動が荒いまま、ロイ王子の腕の中にいた。
「助けてくれたんですね……」
「当然だ。……おまえを侮辱する言葉は許さない」
短い言葉ながら、その響きは頼もしくて、胸が熱くなる。意地悪でドSな王子だけど、今はひたすら心強い存在だった。
人々の視線を感じながらも、私はもう一度曲に合わせてロイ王子と踊り始める。まるでさっきの出来事など取るに足らないかのように、彼は私を優しくリードしてくれた。
大きなホールに入ると、既に舞曲が始まっていた。中央では何組もの貴族たちが優雅に踊り、周囲のテーブルでは社交の花が咲いている。セレナは知り合いを見つけてすぐに談笑を始め、父も要人と話し込んでいる。
「シルヴィア、踊れるか?」
ロイ王子が私の隣に立ち、ゆっくりと問いかける。いつもの威圧感は少しだけ控えめで、どこかエスコートを意識した佇まいだ。
「……踊りは一応習いましたけど、あまり上手じゃないです」
「いい。下手でも構わない。……ほら、手を」
王子が手を差し出す。私は周囲の視線を感じて一瞬たじろいだが、断るわけにもいかず、その手を取った。すると、王子は上手にリードしながら私をホールの中央へと導いていく。
「意外と身長差があるな」
「すみません、子供っぽい体型で……」
「いや、悪くない。……踊りにくいか?」
少し顔を赤らめながら質問してくるロイ王子に、私は首を振るしかない。案外、相手がしっかりリードしてくれると、それなりに踊れている気がするから不思議だ。
優雅な曲に合わせてステップを踏むうち、だんだん緊張も薄れてくる。ロイ王子の手に引かれるまま動くと、眠いというより心地よい浮遊感に包まれた。
しかし、そんな時間は長くは続かなかった。周囲を一回転したとき、視界の隅にリリアンの姿が映る。まるで待ち構えていたかのように、彼女は人混みを縫って私たちに近づいてきた。
「ロイ殿下、ごきげんよう。今日はまた珍しい方と踊っていらして」
リリアンはにっこりと作り笑いを浮かべる。言葉にこそ棘はないが、その瞳には明らかな敵意が宿っていた。踊りの流れを中断するように、あえて話しかけてきたのだろう。
「リリアン・ノースバレー嬢か。どうした」
ロイ王子が顔を向ける。リリアンはその一瞬の目線を見逃さず、私を値踏みするような視線で見た。
「悪役令嬢の噂は本当なのかしら、と気になって。グレイメリアのシルヴィア様ですよね?いろいろと問題を起こしていると聞きましたけど」
舞踏会の最中とは思えない、露骨な悪意。私は言葉に詰まる。一方、ロイ王子はまったく動じる様子もなく、きっぱりとした口調で言い放った。
「問題?具体的には何のことだ?」
「それは……私も噂でしか存じませんけど。いろんな男性との縁談を断り続け、公爵家を困らせているとか、意地悪をして侍女を泣かせたことがあるとか……」
「それのどこが問題だ?」
リリアンが得意げに並べた言葉を、ロイ王子はまるで興味がないかのようにあしらう。その瞳には冷たい怒気がわずかに宿っていた。
「殿下、悪役の方と踊るのはイメージ的によろしくないのでは……」
「リリアン、今すぐその口を閉じろ」
ピタリと凍りつくリリアンの表情。私も心臓が止まるかと思うほどの鋭さ。ロイ王子は私の腰に手を回し、守るような仕草を見せた。
「俺が踊りたい相手と踊る。それに文句をつける権利がおまえにあるのか?」
「い、いえ……そのようなつもりでは」
もはやリリアンは後退するしかない。周囲の人々が視線を集めるなか、彼女は苦々しい表情で口を噤んだ。そして小さく頭を下げたあと、踵を返して去っていく。
私はまだ心臓の鼓動が荒いまま、ロイ王子の腕の中にいた。
「助けてくれたんですね……」
「当然だ。……おまえを侮辱する言葉は許さない」
短い言葉ながら、その響きは頼もしくて、胸が熱くなる。意地悪でドSな王子だけど、今はひたすら心強い存在だった。
人々の視線を感じながらも、私はもう一度曲に合わせてロイ王子と踊り始める。まるでさっきの出来事など取るに足らないかのように、彼は私を優しくリードしてくれた。
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