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第18話「二人きりの空間、結婚への問いかけ」
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「少し休憩しよう」
踊り終えたあと、ロイ王子は小声でそう言って私をホールの外へ連れ出した。廊下を抜け、静かなサロンに通される。そこは応接用の小部屋らしく、豪華な椅子が並んでいた。
「ここなら人目も少ない。……さっきの件、気にするな」
ロイ王子が椅子を勧めてくれたので、私はドレスの裾を整えながら腰を下ろす。心臓の高鳴りはまだ治まらないが、リリアンの悪意から解放されて少し息をついた。
「王子……その、助けていただいてありがとうございます」
「礼などいらない。……腹が立っただけだ。おまえを“悪役”扱いする輩が、俺の前で好き放題言うなど、見過ごせるわけがない」
淡々とした口調だが、その目にはまだ怒りの名残があるように見える。私はほんの少し微笑んだ。冷酷と思われがちな彼が、ここまで私を守ろうとしてくれるとは思わなかった。
「さっき、あなたはリリアンに“俺が踊りたい相手”って言いましたね」
「……ああ」
少し照れくさそうに答える彼に、私はさらに続ける。
「本当に……私でいいんですか?悪役令嬢なんて噂されていて、まわりに迷惑ばかりかけてる私を」
ロイ王子はすぐには答えず、テーブルに置かれた水の入ったグラスを手に取り、一口飲んだ。まるで言葉を探すように、ゆっくりと視線を合わせてくる。
「シルヴィア、俺はおまえをただの噂で判断するつもりはない。……そもそも、最初に会ったときから言っていただろう。眠そうな顔をして、何を考えているかわからない女だと」
「ええ、言われましたね。あれは馬鹿にされてると思ってました」
「違う。俺は興味を惹かれた。……それに、おまえの家や財産だけが目当てではない。そんなものには俺が手を出さなくても困らない立場だ」
その言葉に嘘はないのだろう。王族である彼が、ただ家柄目当てに近づくことは考えにくい。だからこそ、私は彼の好意をどう受け止めればいいのか迷ってしまう。
「このまま……結婚とか、そういう話になるんでしょうか」
勇気を出して口にすると、ロイ王子は深く息を吐いた。
「いずれは、そうなる。……おまえが拒否しなければ、な」
「拒否……」
「俺はおまえの意思を尊重する。けれど、もしおまえが逃げようとしても、俺は追いかける。そう言っただろう?」
「ええ、ドS発言で聞きました」
苦笑まじりに答えると、彼はわずかに微笑む。そして私の手をそっと掴むと、慎重にその指先を撫でた。
「おまえの気持ちを聞かせてくれ。……結婚を嫌がっているわけではないのか?」
「わからないんです。……嫌じゃないけど、王族との結婚は大ごとだし、私にはいろんな噂があるし」
「そんなものは、ひとつずつ解消すればいい。それが俺のやり方だ」
ロイ王子の言葉は実にシンプルだ。迷いがないというより、私に判断を委ねつつも自分の意志を曲げる気はないようだ。私は自然と目を伏せる。
「答えはすぐに出せません」
「いい。その代わり、何度でも機会を作る。おまえが俺をもっと知れば、いずれ決断できるはずだからな」
その強引さと優しさが混在した言葉に、私の胸はどうしようもなくドキドキする。まだ確信は持てないが、この人といると悪くない、むしろ嬉しいと感じる瞬間が増えているのは事実だった。
舞踏会の喧騒が遠くから聴こえる中で、私たちだけが静かな時間を共有している。どうにも逃げられそうにない――そんな予感がどんどん濃くなっていた。
踊り終えたあと、ロイ王子は小声でそう言って私をホールの外へ連れ出した。廊下を抜け、静かなサロンに通される。そこは応接用の小部屋らしく、豪華な椅子が並んでいた。
「ここなら人目も少ない。……さっきの件、気にするな」
ロイ王子が椅子を勧めてくれたので、私はドレスの裾を整えながら腰を下ろす。心臓の高鳴りはまだ治まらないが、リリアンの悪意から解放されて少し息をついた。
「王子……その、助けていただいてありがとうございます」
「礼などいらない。……腹が立っただけだ。おまえを“悪役”扱いする輩が、俺の前で好き放題言うなど、見過ごせるわけがない」
淡々とした口調だが、その目にはまだ怒りの名残があるように見える。私はほんの少し微笑んだ。冷酷と思われがちな彼が、ここまで私を守ろうとしてくれるとは思わなかった。
「さっき、あなたはリリアンに“俺が踊りたい相手”って言いましたね」
「……ああ」
少し照れくさそうに答える彼に、私はさらに続ける。
「本当に……私でいいんですか?悪役令嬢なんて噂されていて、まわりに迷惑ばかりかけてる私を」
ロイ王子はすぐには答えず、テーブルに置かれた水の入ったグラスを手に取り、一口飲んだ。まるで言葉を探すように、ゆっくりと視線を合わせてくる。
「シルヴィア、俺はおまえをただの噂で判断するつもりはない。……そもそも、最初に会ったときから言っていただろう。眠そうな顔をして、何を考えているかわからない女だと」
「ええ、言われましたね。あれは馬鹿にされてると思ってました」
「違う。俺は興味を惹かれた。……それに、おまえの家や財産だけが目当てではない。そんなものには俺が手を出さなくても困らない立場だ」
その言葉に嘘はないのだろう。王族である彼が、ただ家柄目当てに近づくことは考えにくい。だからこそ、私は彼の好意をどう受け止めればいいのか迷ってしまう。
「このまま……結婚とか、そういう話になるんでしょうか」
勇気を出して口にすると、ロイ王子は深く息を吐いた。
「いずれは、そうなる。……おまえが拒否しなければ、な」
「拒否……」
「俺はおまえの意思を尊重する。けれど、もしおまえが逃げようとしても、俺は追いかける。そう言っただろう?」
「ええ、ドS発言で聞きました」
苦笑まじりに答えると、彼はわずかに微笑む。そして私の手をそっと掴むと、慎重にその指先を撫でた。
「おまえの気持ちを聞かせてくれ。……結婚を嫌がっているわけではないのか?」
「わからないんです。……嫌じゃないけど、王族との結婚は大ごとだし、私にはいろんな噂があるし」
「そんなものは、ひとつずつ解消すればいい。それが俺のやり方だ」
ロイ王子の言葉は実にシンプルだ。迷いがないというより、私に判断を委ねつつも自分の意志を曲げる気はないようだ。私は自然と目を伏せる。
「答えはすぐに出せません」
「いい。その代わり、何度でも機会を作る。おまえが俺をもっと知れば、いずれ決断できるはずだからな」
その強引さと優しさが混在した言葉に、私の胸はどうしようもなくドキドキする。まだ確信は持てないが、この人といると悪くない、むしろ嬉しいと感じる瞬間が増えているのは事実だった。
舞踏会の喧騒が遠くから聴こえる中で、私たちだけが静かな時間を共有している。どうにも逃げられそうにない――そんな予感がどんどん濃くなっていた。
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