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「……やっぱり、わたし王子との婚約なんて、絶対に嫌なんだけど」
わたしの名前はシロエ・シャーロット。金髪で童顔、身長も低いからかよく子ども扱いされる。でも、もう十七歳の立派な(?)乙女だ。とはいえ、普段は眠そうな顔をしていて、「静かそう」「大人しそう」なんてよく言われる。実際は行動的で力持ちという恐るべきギャップを秘めてるのだが、さすがに周囲には秘密にしている……わけではない。むしろ隠しようがないレベルなのだが、みんななぜか見て見ぬふりをしてくれている。ありがたいやら恥ずかしいやら。
「お嬢様、もう少し小さな声で……」
そう忠告してきたのは、わたしの専属メイドのサラ。いつも淡々とした態度で、わたしが何を言っても「さすがでございます」なんて肯定してくる、ちょっと変わった子だ。
「だってサラ、聞いてよ。あの王子ったら、わたしのことを『将来の妃』呼ばわりしてさ、目を合わせるたびに『お茶でもご一緒に』とか言ってくるんだよ。どう考えても無理に決まってるじゃん。こんな眠そうな顔の嫁、恥ずかしくないのかな」
「お嬢様は大変可愛らしいお顔をしておられますし、それに王子殿下はとても優しいお方です。むしろ、他の令嬢方が羨ましがっておりますよ」
「そう、それが問題なの。みんな勝手に『いいなあ、シロエさまは王子に寵愛されて』とか言ってくるんだよ。でもわたしの本心は、あの人から絶対に離れたいわけ。……だから決めたんだ。王子に嫌われるしかない!」
ガタン! と椅子を大きな音を立てて立ち上がる。手元のティーカップが揺れて、サラが慌ててそれを支える。
「嫌われる、ですか?」
「そうよ。悪役令嬢になってでも、王子の心を遠ざけるの。意地悪なことを言って、派手にやらかして、『こんな娘、婚約なんてごめんだ!』って思わせて、婚約破棄してもらう」
力を込めて宣言するわたしを見て、サラは相変わらず淡々とした表情で「さすがでございます」と頷く。
「……さすが、ってどういう意味……いや、いいや。とにかくそう決めたの。覚悟して。いろいろやらかすよ?」
「はい。お嬢様の決断を全力でサポートいたします。ですが、あまり周囲にご迷惑はかけない程度に……」
「ふふ、そこを気にしちゃダメなの。わたしは今から――悪役令嬢になるんだから!」
バンッと机を叩いて笑うわたしを、サラが目を細めて見守っている。それは心配しているというより、むしろ嬉しそうに見えるから不思議だ。
とはいえ、いざ悪役令嬢を名乗っても、具体的に何をすればいいのか。わたしはまだそこまで考えていなかった。周囲の令嬢方の話を聞くに、「お茶会でマウントを取る」「わざとドレスを汚して失礼を働く」とか、その程度ならできなくもない。でも、それくらいで王子が本気で嫌うかって言われると……ちょっと心もとない。
「もっと、決定的に嫌われる手段が欲しい。わたしの計り知れない力を使って、王国に迷惑を……じゃなくて、ちょっとした騒動を起こすのもアリかも」
そう、わたしは――なぜか人並み外れた怪力の持ち主なのだ。魔法でも異能でもなく、ただ単に筋力と度胸だけで岩を砕いたり、壁を壊したりができてしまう。周りからは恐れられ、「あれは公爵家のゴーレム娘だ」なんて囁かれたこともあるくらい。でも普段は「小柄で可憐そう」なんて思われているから、誰も本気で信じていないようだ。
「よーし、まずは手始めに――そうだ、日常の中でちょいちょい小悪事をして王子に嫌われてやろう。遠慮はいらないよね?」
そう意気込むわたしに、サラは小さく拍手をする。まったく、どこまでも肯定的な子だ。
「素晴らしいお考えです、お嬢様。きっと殿下も驚かれることでしょう」
「でしょでしょ。びっくりして呆れて、さっさと婚約解消してくれればいいのに。まぁそんなすんなりいくとは限らないだろうけど」
わたしがこうして悪役令嬢を目指す理由は、ひとえに「婚約を破棄して自由になる」ため。どこか遠くの国へでも行きたい。ちょっと冒険者生活なんかもしてみたい。お菓子屋さんだってやってみたい。こんな堅苦しい公爵家の暮らし、そして王子の監視下みたいな立場はどうにも合わないのだ。
「さて、悪役令嬢としてふさわしい第一歩を踏み出そうじゃないの。次に王子と顔を合わせる時こそ、派手にやってやるんだから」
わたしは高らかに宣言し、ぐっと腕まくりをした。メイド服に身を包むサラはそれを見て、にこりと微笑む。そんな彼女の笑顔に少しだけ不安を感じながらも、わたしはこれからの波乱万丈な悪役令嬢計画に胸を弾ませるのだった。
わたしの名前はシロエ・シャーロット。金髪で童顔、身長も低いからかよく子ども扱いされる。でも、もう十七歳の立派な(?)乙女だ。とはいえ、普段は眠そうな顔をしていて、「静かそう」「大人しそう」なんてよく言われる。実際は行動的で力持ちという恐るべきギャップを秘めてるのだが、さすがに周囲には秘密にしている……わけではない。むしろ隠しようがないレベルなのだが、みんななぜか見て見ぬふりをしてくれている。ありがたいやら恥ずかしいやら。
「お嬢様、もう少し小さな声で……」
そう忠告してきたのは、わたしの専属メイドのサラ。いつも淡々とした態度で、わたしが何を言っても「さすがでございます」なんて肯定してくる、ちょっと変わった子だ。
「だってサラ、聞いてよ。あの王子ったら、わたしのことを『将来の妃』呼ばわりしてさ、目を合わせるたびに『お茶でもご一緒に』とか言ってくるんだよ。どう考えても無理に決まってるじゃん。こんな眠そうな顔の嫁、恥ずかしくないのかな」
「お嬢様は大変可愛らしいお顔をしておられますし、それに王子殿下はとても優しいお方です。むしろ、他の令嬢方が羨ましがっておりますよ」
「そう、それが問題なの。みんな勝手に『いいなあ、シロエさまは王子に寵愛されて』とか言ってくるんだよ。でもわたしの本心は、あの人から絶対に離れたいわけ。……だから決めたんだ。王子に嫌われるしかない!」
ガタン! と椅子を大きな音を立てて立ち上がる。手元のティーカップが揺れて、サラが慌ててそれを支える。
「嫌われる、ですか?」
「そうよ。悪役令嬢になってでも、王子の心を遠ざけるの。意地悪なことを言って、派手にやらかして、『こんな娘、婚約なんてごめんだ!』って思わせて、婚約破棄してもらう」
力を込めて宣言するわたしを見て、サラは相変わらず淡々とした表情で「さすがでございます」と頷く。
「……さすが、ってどういう意味……いや、いいや。とにかくそう決めたの。覚悟して。いろいろやらかすよ?」
「はい。お嬢様の決断を全力でサポートいたします。ですが、あまり周囲にご迷惑はかけない程度に……」
「ふふ、そこを気にしちゃダメなの。わたしは今から――悪役令嬢になるんだから!」
バンッと机を叩いて笑うわたしを、サラが目を細めて見守っている。それは心配しているというより、むしろ嬉しそうに見えるから不思議だ。
とはいえ、いざ悪役令嬢を名乗っても、具体的に何をすればいいのか。わたしはまだそこまで考えていなかった。周囲の令嬢方の話を聞くに、「お茶会でマウントを取る」「わざとドレスを汚して失礼を働く」とか、その程度ならできなくもない。でも、それくらいで王子が本気で嫌うかって言われると……ちょっと心もとない。
「もっと、決定的に嫌われる手段が欲しい。わたしの計り知れない力を使って、王国に迷惑を……じゃなくて、ちょっとした騒動を起こすのもアリかも」
そう、わたしは――なぜか人並み外れた怪力の持ち主なのだ。魔法でも異能でもなく、ただ単に筋力と度胸だけで岩を砕いたり、壁を壊したりができてしまう。周りからは恐れられ、「あれは公爵家のゴーレム娘だ」なんて囁かれたこともあるくらい。でも普段は「小柄で可憐そう」なんて思われているから、誰も本気で信じていないようだ。
「よーし、まずは手始めに――そうだ、日常の中でちょいちょい小悪事をして王子に嫌われてやろう。遠慮はいらないよね?」
そう意気込むわたしに、サラは小さく拍手をする。まったく、どこまでも肯定的な子だ。
「素晴らしいお考えです、お嬢様。きっと殿下も驚かれることでしょう」
「でしょでしょ。びっくりして呆れて、さっさと婚約解消してくれればいいのに。まぁそんなすんなりいくとは限らないだろうけど」
わたしがこうして悪役令嬢を目指す理由は、ひとえに「婚約を破棄して自由になる」ため。どこか遠くの国へでも行きたい。ちょっと冒険者生活なんかもしてみたい。お菓子屋さんだってやってみたい。こんな堅苦しい公爵家の暮らし、そして王子の監視下みたいな立場はどうにも合わないのだ。
「さて、悪役令嬢としてふさわしい第一歩を踏み出そうじゃないの。次に王子と顔を合わせる時こそ、派手にやってやるんだから」
わたしは高らかに宣言し、ぐっと腕まくりをした。メイド服に身を包むサラはそれを見て、にこりと微笑む。そんな彼女の笑顔に少しだけ不安を感じながらも、わたしはこれからの波乱万丈な悪役令嬢計画に胸を弾ませるのだった。
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