【R18】婚約破棄されたいから悪役令嬢になりたい

えるろって

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「シロエお嬢様、先ほど王城からお知らせが参りました」

 
朝食をとっていると、サラが小さなメモを手にやってきた。その顔はいつにも増して無表情だが、どこか緊張感があるように見える。

 
「うん? なに?」

 
「騎士団から正式に書状が届いております。『ここ数日の奇行に関して、警備上の観点から事情を伺いたい』とのこと」

 
「き、奇行って……失礼な。わたしはただ、道を塞いでる岩を壊したり、パーティでわざと態度悪くしたり……」

 
「それは十分奇行かと」

 
サラの容赦ないツッコミに、わたしはむむっと黙り込む。でも、これはチャンスかもしれない。騎士団が動いたということは、わたしを危険人物と見なしている証拠。もしこれが王子の耳に入れば、「あんなトラブルばかり起こす娘とは婚約解消だ!」となるはず……たぶん。

 
「よし、わかった。ならば潔く騎士団に乗り込んでやろうじゃないの」

 
「お嬢様、あちらは『お呼び出し』と書いていますので、本来は向こうが来るはずでは」

 
「同じことだよ。待ってられない。こちらから乗り込むほうがインパクトあるし、より悪印象を与えられるわ」

 
そう言い残して、わたしはそそくさと支度を始める。サラが「はぁ……」と溜め息をつきながらついてくる。いつも思うけど、サラはよくわたしに付き合ってくれるなぁ、と感心してしまう。

 
そしていざ王城に足を踏み入れると、門兵が目を見開いた。

 
「シ、シロエ・シャーロット様……? 本日はどのようなご用件で?」

 
「騎士団がわたしを呼んだんでしょ? 面倒だし、ここで待ってるより直接行くわ」

 
わたしはずかずかと進もうとするが、兵士が慌てて腕を広げて止める。

 
「ちょ、ちょっとお待ちください! 騎士団は城内の詰め所に――勝手に向かわれるのは困ります!」

 
ああ、もう。こういうときに厳重な警備を感じる。ま、相手は騎士団だもんね。でもだからこそ、ここで強行突破すれば相当悪名を高められそうだ。

 
「……はぁあっ!」

 
わたしは軽く兵士の体をつかむと、ひょいっと脇にどける。もちろん乱暴に投げたりはしていない(そこまではしない)が、相手は完全に面食らった顔をしていた。

 
「う、うわっ……!」

 
「ごめんなさいね。ちょっと通るだけだから」

 
あっけにとられている兵士たちを横目に、わたしは王城の廊下を駆け抜ける。サラは「お嬢様、お待ちください!」と慌ててついてくるけど、若干遅れている。ごめん、こんなときぐらいちょっとくらい無茶させてよ。

 
すると、奥から甲冑をまとった騎士たちが現れた。どうやらわたしが押し通ったのを察知して、迎撃に出てきたらしい。銀色の鎧がずらりと並ぶ姿は壮観だけれど、ここで引き下がるわけにはいかない。

 
「ちょっ、シロエ・シャーロット様、落ち着いてください! 騎士団長に面会の手続きが――」

 
「面会なら、わたしが直接するわ! さあ、どきなさい!」

 
わたしは突撃体勢で身構える。しかし、騎士たちの中心から現れたのは、精悍な面差しの青年――騎士団長その人だ。彼は少し驚いた表情を見せてから、すぐに口を開く。

 
「あなたがシロエ・シャーロット殿ですね。話は聞いていますが、まさかここまで強引にお越しとは……」

 
「そっちが呼んだんでしょう? どうせわたしを捕まえるか尋問でもするつもりなんでしょ?」

 
「あ、ああ……いえ、あくまで事情を伺いたいだけなのですが」

 
騎士団長は困ったように眉を下げる。わたしは内心ガッカリした。もっと威圧的に来てほしかったのに、意外と柔らかい態度だ。騎士団ってもっとゴツゴツした連中ばかりだと思ってた。

 
「あなたが岩を破壊したり、パーティで騒ぎを起こしたりしたと報告を受けています。その理由をお聞かせ願いたい」

 
「……別に、理由なんてないわ。気に入らなかったから壊しただけ。それがいけない?」

 
わざと挑発的に言ってみるが、騎士団長は冷静に「確かに違法行為も含まれる可能性があります」とだけ返す。もっと怒ってくれたらいいのに。

 
「そう。じゃあ逮捕でも何でもどうぞ」

 
「いえ、いきなり逮捕などしません。我々も王子殿下から『彼女には手荒な真似をするな』と厳命を受けております」

 
「なっ……また王子か。あの人、余計なことばっかりしないでよ……」

 
王子はわたしを放任しているようで、実はしっかりガードしているらしい。これじゃ、いつまでたっても婚約破棄どころか、わたしを危険視すらしてくれない。

 
「今はただ、あなたの力がどういうものか知りたいだけなんです。決して悪いようにはしません」

 
騎士団長は優しく微笑む。その背後の騎士たちも、わたしを見る目にどこか憧れの色が混ざっている。もしかして「岩を砕く力を持つ娘がいるらしい」と噂になって、妙にワクワクされてるんじゃ……。

 
「……もうやだ、こんなの」

 
わたしはその場に崩れ落ちるように座り込む。泣きそうになっていると、後ろからようやく追いついたサラが申し訳なさそうに声をかける。

 
「お嬢様……大丈夫でございますか?」

 
「大丈夫なわけないよ。こんなに暴走したのに、誰も本気で怒らないし、むしろ好意的じゃん。どうやって嫌われろって言うの?」

 
そう嘆くわたしに、騎士団長や騎士たちは困った顔をするだけ。むしろ「この子、案外素直じゃないか」「可愛らしい面もあるな」なんて囁いている。わたしの目論見は、ことごとく裏目に出てるようだ。

 
「くそぅ……わたしは悪役令嬢になりたいのに!」

 
そう嘆きながら、わたしはどうにもならないもどかしさを噛み締める。まだ始まったばかりだというのに、すでに早くも行き詰まりを感じつつ――それでも諦めるわけにはいかない。王子から嫌われる道を探して、わたしの“悪役令嬢”計画は続くのだ。
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