【R18】婚約破棄されたいから悪役令嬢になりたい

えるろって

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「皆さーん! さあさあ、年に一度の王都祭りが始まりますよー!」

 
カーニバルのような喧騒が広がる王都の大通り。色とりどりの旗が翻り、屋台が立ち並び、人々の笑い声が途切れない。年に一度の大祭りがいよいよ開幕したのだ。わたしはその熱気の中、うんざり顔で道端に佇んでいた。

 
「サラ……人が多すぎて疲れた。早く帰りたいよ」

 
「お嬢様、せっかくのお祭りですから、少しは楽しんだらいかがでしょう? 王城からもお誘いがあったではありませんか」

 
「王子と一緒にパレードに参加とか、冗談じゃないわ。目立つに決まってるでしょ。わたしは目立ちたくないんだよ……」

 
とはいえ、こんな大祭りのタイミングでわたしが出歩いていたら、周囲から注目を浴びるのは不可避。なにせすでに“破壊のお姫様”とかいう妙な二つ名で騒がれているのだから。狙ってるはずの“悪役令嬢”のイメージとまるで違うのがムカつくけど。

 
「いっそ、ここで暴れて大混乱を起こしてやろうかな……でも、どうせまた騎士団が止めに来るし、みんな喜んじゃうんだろうな……」

 
悶々と考えていると、見慣れた顔が大通りの向こうで手を振っているのに気づいた。幼馴染のエドワードだ。彼は「おーい!」と陽気にこちらへやってくる。

 
「シロエ、探したぞ。今ちょうど大道芸がはじまるらしくて、なかなか楽しそうなんだ。ちょっと見に行こうぜ」

 
「大道芸? そんなのわたしが見ても……」

 
「ま、そう言わずに。お前には重要な役目がある」

 
意外な言葉に首をかしげると、エドワードは意味深にニヤリと笑う。いったい何を企んでいるのか。とりあえず興味を引かれて、そのままエドワードについていくことにした。

 
やがて広場に到着すると、そこでは火吹きの芸人や曲芸師が人々を歓声の渦に巻き込んでいた。見ているだけなら華やかで楽しい……はずなのに、わたしは相変わらず人混みが苦手で落ち着かない。そんな様子を察したエドワードが、ひそひそ声で言う。

 
「シロエ、この芸人たちがお前に挑戦したがってるらしいぞ」

 
「挑戦?」

 
「そう。“破壊のお姫様”に力比べを挑みたいんだと。お前が彼らの曲芸に加われば盛り上がるし、下手すりゃステージをぶっ壊すかもしれないだろ? それならさすがに王子も引くだろう……って作戦さ」

 
「あ、なるほど」

 
わたしは気づけば興奮気味になっている。確かに、祭りのメインステージでわたしがうっかり大失敗をやらかしたら、さすがに王子も顔をしかめるかもしれない。何しろ大切なお祭りをぶち壊すようなことになるのだから……悪名を高めるには、ちょうどいい機会かも。

 
「いいわね。やってやろうじゃないの。祭りのメインステージで大暴れ……ふふ、これでこそ悪役令嬢!」

 
そう心に決め、わたしはエドワードとともに曲芸師のリーダーらしき男に話をつけに行く。すると相手は喜びを隠さず、ステージにわたしを上げて「火渡り」や「剣の輪くぐり」など派手な演目に参加してほしいと言い出す。そんなの、ただの芸当じゃ物足りない。むしろ壊しても構わないかと念押しすると、リーダーは目を丸くして笑った。

 
「おお、そいつは面白い! もしステージがぶっ壊れたら、それはそれで祭りの伝説になる。俺たちは度胸があれば何でもアリだぜ!」

 
「変わった人達……ま、いいわ。じゃあ手加減しないから」

 
こうして本番を迎えたわたしは、炎の輪を飛び越える曲芸に参加することになった。周囲には大勢の観衆が詰めかけ、期待と興奮の声が渦巻いている。ステージの端には騎士団の姿も見える。おそらく王子もどこかから見ているに違いない。

 
「よし……いくわよ!」

 
火の輪を勢いよくジャンプでくぐり抜け、着地と同時にドーン! とステージを踏み鳴らす。そこまでは見事に決まって拍手喝采。しかしわたしの怪力をもろに受けたステージの板が悲鳴をあげ、バキバキと割れ始めた。

 
「う、うわぁぁぁ!?」

 
観客から悲鳴とどよめきが起きる。ステージが大きく傾き、その上にいた芸人たちが次々に倒れていく。しかし怪我はなさそうだし、下にいた人にも被害はない。むしろこのハプニングを盛り上げに変えたのか、芸人たちは笑いながら客席に手を振る。

 
「イエーイ! まさかこんなに見事に破壊してくれるとは!」

 
「さすがシロエ様だ!」

 
え、喜んでる? わたしが周囲を見回すと、観客たちも大ウケしている。悲鳴があがったのも束の間、今や「すごいショーだ」「まさに破壊のプリンセス!」なんて歓呼の声が響いているのだから呆れる。

 
「やっぱり、こうなるんだ……」

 
わたしはがっくり肩を落とす。大暴れしてステージを壊したというのに、全然嫌われてない。むしろ「最高だ!」と祭りをさらに盛り上げた形になってしまった。遠くにいる騎士団もどう反応していいのか戸惑っている様子だ。きっと王子は……。

 
「あ、いた。王子……」

 
視線の先には、騎士団の中に佇む王子の姿。なんと微笑んでいるではないか。しかも少し困ったような、でも楽しんでいるような複雑な表情だ。まったく腹立たしい。どうして少しも怒らないの?

 
「もういや! わたしの“悪役計画”はいつになったら成功するのよ!」

 
盛大な拍手に包まれながら、わたしはステージの崩れた端に腰を下ろし、大きなため息をつく。こうしてまた、わたしの目論見は空回りし、周囲に歓喜と笑いを振りまいただけで終わってしまうのだった。
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