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※R18の描写含む
最終話(BAD END)
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「……やめて……もう、放して……」
王子の私室へと連れ込まれたわたしは、昂る気配を感じながら後ずさる。しかし、背後はすぐ壁。王子の長い腕がわたしの逃げ道を塞ぐ。ドレスの胸元は呼吸のたびに上下し、心臓の鼓動が収まらない。
「シロエ、怖がらなくていい。僕は君を傷つけたいわけじゃない。ただ、もう逃がす気もない。それだけだ」
「そ、そんなの嫌……わたしを自由にしてよ……!」
懇願するような声が出てしまう。でも王子はわずかに首を振るだけで、その瞳からは慈悲と狂おしい欲望が入り混じったような光を放っている。
「君がどれだけ暴れても、一生僕の花嫁だ。……いや、花嫁という言い方も生ぬるいかもしれない。僕のもの、僕だけの所有物だ」
「意味が……わからないよ。わたし、人じゃないみたいじゃない……」
その表情を見ていると、本当にわたしを“物”として扱っているのかもしれない、と思えてしまう。そんな狂気じみた独占欲に震えが止まらない。
しかし、さらに恐ろしい展開が待っていた。王子はそっと引き出しから何かを取り出し、わたしの首に手を添える。その瞬間に冷たい金属の感触が伝わった。
カチリ、と留め具の音がして、細い首輪のようなものがはめられる。薄い鎖までついていて、わたしはその存在感に戦慄した。
「何……これ……」
「首輪だ。君を逃がさないための、僕なりの拘束具。これでどこへも行かせない。……似合っているよ、シロエ」
「嘘……」
声が出ない。胸がぎゅっと締め付けられるような、絶望と屈辱に涙が浮かぶ。首輪なんて、犬猫のように扱う象徴ではないか。まさかこんな形で終わりを迎えるなんて。わたしは力なくドレスの裾を握りしめ、抗議する言葉も見つからない。
「さらに……君にはもっと相応しい装いがある」
王子がそう言うと、侍女たちが静かに入ってきて、わたしを強引に着替えさせようとする。胸元が大きく開いたドレスよりも、さらに華やかで純白――まるでウェディングドレスのような衣装を準備していた。どこか神聖な雰囲気すら漂うが、わたしにとっては恐怖の衣装でしかない。
「やだ……触らないで……いやぁ!」
必死に抵抗するが、侍女たちの手は容赦ない。あっという間に肩や背中の布が外され、しっかり締め上げられたコルセットやレースが取り付けられる。首には依然として首輪があるのに、その下に純白のレースが重なり、余計に異様な姿になった気がする。
「殿下……準備が整いました」
侍女たちが退室し、部屋にはわたしと王子だけが残された。息が詰まるほどの沈黙が落ちる。王子はドレス姿のわたしを満足そうに見下ろし、そのままわたしの顎を軽く持ち上げた。
「や、やめて……」
その抗議の言葉もむなしく、王子の顔が近づいてくる。唇に強引なキスを受け、わたしはぎゅっと目を瞑る。心臓が痛いほど鳴り、頭が真っ白になる。逃げ出そうとしても、首輪があるせいでどうにもできない。
「ん……く、は……」
息苦しいキスが終わったとき、わたしは唇を押さえて震えるしかなかった。王子は満足げに微笑み、さらに何かを持ち出す。それは小さなティアラのような装飾品。宝石がきらめき、不思議な力を感じさせる一品だ。
「これは、古くから王家に伝わる“記憶を変える”魔具らしい。君を僕のことだけ想ってくれるようにするんだ。……これで君が望む自由もなくなるな」
「記憶を……変える……?」
信じられない言葉に、わたしは愕然とする。首輪だけでなく、わたしの心まで縛りつけようというのか。王子はそのティアラを手に取り、わたしの頭にそっと乗せた。
「ねぇ、やだ……それだけはやめて……」
懇願する。しかし彼の指は優しくわたしの髪を撫で、宝石を固定する。次の瞬間、奇妙な光がティアラから放たれ、頭の奥がじんと痺れるような感覚に襲われる。
「……あ……あれ……?」
視界がぼやけ、王子を見ているはずなのに焦点が定まらない。わたしの胸を締めつけていた恐怖が、まるで雪が溶けるように薄れていく。代わりに言いようのない安心感が込み上げてきた。
「シロエ、僕の名前を呼んで?」
「ルー……カス……?」
口にした瞬間、頭がふわりと優しい気配に包まれる。首輪の存在すら気にならなくなり、王子を見つめると愛おしさに似た何かが胸をかき立てる。
「お前は……僕のものだ。そうだろう?」
「……はい、わたし……ルーカス様の……」
おかしい、こんなのおかしいのに……そう思う意識はほんの一瞬で消え失せる。頭の中は王子への想いで満たされ、先ほどまでの絶望や嫌悪感が嘘のように霧散していく。
「大丈夫、君はもう僕から離れられない。――シロエ、愛してる」
「……愛してます……」
わたしは王子に微笑み返す。目尻に涙がにじんでいるのは、なぜだろう。心は幸福感に包まれているのに、体のどこかが冷たい。首元には首輪、そして頭には記憶を変えるティアラ。自分の本当の思い出はどこへ行ったのか、もう思い出せない。
こうしてわたしは“首輪”と“ティアラ”の二重の拘束によって、王子のものとなった。すべてを奪われ、自由も記憶も失い、ただ彼を慕うだけの存在――。周囲はこの結末を知らないまま、“婚約者のハッピーエンド”を祝うのだろう。
その実態は、冷酷なバッドエンド。
自分で選んだ破滅とも言えるが、もう何も考えられない。王子の胸に抱かれ、首輪をはめられたままキスを受ける。甘い陶酔と満足を感じながらも、きっと奥底では叫んでいる――わたしの“本当”を返して、と。
だが、その声は誰にも届かない。物語はここで幕を閉じる。わたしは王子に支配され、記憶さえ塗り替えられ、“幸せ”の名の下に檻の中へと囚われ続ける――どうしようもないバッドエンド。それが、最終的にわたしが手にした運命だった。
王子の私室へと連れ込まれたわたしは、昂る気配を感じながら後ずさる。しかし、背後はすぐ壁。王子の長い腕がわたしの逃げ道を塞ぐ。ドレスの胸元は呼吸のたびに上下し、心臓の鼓動が収まらない。
「シロエ、怖がらなくていい。僕は君を傷つけたいわけじゃない。ただ、もう逃がす気もない。それだけだ」
「そ、そんなの嫌……わたしを自由にしてよ……!」
懇願するような声が出てしまう。でも王子はわずかに首を振るだけで、その瞳からは慈悲と狂おしい欲望が入り混じったような光を放っている。
「君がどれだけ暴れても、一生僕の花嫁だ。……いや、花嫁という言い方も生ぬるいかもしれない。僕のもの、僕だけの所有物だ」
「意味が……わからないよ。わたし、人じゃないみたいじゃない……」
その表情を見ていると、本当にわたしを“物”として扱っているのかもしれない、と思えてしまう。そんな狂気じみた独占欲に震えが止まらない。
しかし、さらに恐ろしい展開が待っていた。王子はそっと引き出しから何かを取り出し、わたしの首に手を添える。その瞬間に冷たい金属の感触が伝わった。
カチリ、と留め具の音がして、細い首輪のようなものがはめられる。薄い鎖までついていて、わたしはその存在感に戦慄した。
「何……これ……」
「首輪だ。君を逃がさないための、僕なりの拘束具。これでどこへも行かせない。……似合っているよ、シロエ」
「嘘……」
声が出ない。胸がぎゅっと締め付けられるような、絶望と屈辱に涙が浮かぶ。首輪なんて、犬猫のように扱う象徴ではないか。まさかこんな形で終わりを迎えるなんて。わたしは力なくドレスの裾を握りしめ、抗議する言葉も見つからない。
「さらに……君にはもっと相応しい装いがある」
王子がそう言うと、侍女たちが静かに入ってきて、わたしを強引に着替えさせようとする。胸元が大きく開いたドレスよりも、さらに華やかで純白――まるでウェディングドレスのような衣装を準備していた。どこか神聖な雰囲気すら漂うが、わたしにとっては恐怖の衣装でしかない。
「やだ……触らないで……いやぁ!」
必死に抵抗するが、侍女たちの手は容赦ない。あっという間に肩や背中の布が外され、しっかり締め上げられたコルセットやレースが取り付けられる。首には依然として首輪があるのに、その下に純白のレースが重なり、余計に異様な姿になった気がする。
「殿下……準備が整いました」
侍女たちが退室し、部屋にはわたしと王子だけが残された。息が詰まるほどの沈黙が落ちる。王子はドレス姿のわたしを満足そうに見下ろし、そのままわたしの顎を軽く持ち上げた。
「や、やめて……」
その抗議の言葉もむなしく、王子の顔が近づいてくる。唇に強引なキスを受け、わたしはぎゅっと目を瞑る。心臓が痛いほど鳴り、頭が真っ白になる。逃げ出そうとしても、首輪があるせいでどうにもできない。
「ん……く、は……」
息苦しいキスが終わったとき、わたしは唇を押さえて震えるしかなかった。王子は満足げに微笑み、さらに何かを持ち出す。それは小さなティアラのような装飾品。宝石がきらめき、不思議な力を感じさせる一品だ。
「これは、古くから王家に伝わる“記憶を変える”魔具らしい。君を僕のことだけ想ってくれるようにするんだ。……これで君が望む自由もなくなるな」
「記憶を……変える……?」
信じられない言葉に、わたしは愕然とする。首輪だけでなく、わたしの心まで縛りつけようというのか。王子はそのティアラを手に取り、わたしの頭にそっと乗せた。
「ねぇ、やだ……それだけはやめて……」
懇願する。しかし彼の指は優しくわたしの髪を撫で、宝石を固定する。次の瞬間、奇妙な光がティアラから放たれ、頭の奥がじんと痺れるような感覚に襲われる。
「……あ……あれ……?」
視界がぼやけ、王子を見ているはずなのに焦点が定まらない。わたしの胸を締めつけていた恐怖が、まるで雪が溶けるように薄れていく。代わりに言いようのない安心感が込み上げてきた。
「シロエ、僕の名前を呼んで?」
「ルー……カス……?」
口にした瞬間、頭がふわりと優しい気配に包まれる。首輪の存在すら気にならなくなり、王子を見つめると愛おしさに似た何かが胸をかき立てる。
「お前は……僕のものだ。そうだろう?」
「……はい、わたし……ルーカス様の……」
おかしい、こんなのおかしいのに……そう思う意識はほんの一瞬で消え失せる。頭の中は王子への想いで満たされ、先ほどまでの絶望や嫌悪感が嘘のように霧散していく。
「大丈夫、君はもう僕から離れられない。――シロエ、愛してる」
「……愛してます……」
わたしは王子に微笑み返す。目尻に涙がにじんでいるのは、なぜだろう。心は幸福感に包まれているのに、体のどこかが冷たい。首元には首輪、そして頭には記憶を変えるティアラ。自分の本当の思い出はどこへ行ったのか、もう思い出せない。
こうしてわたしは“首輪”と“ティアラ”の二重の拘束によって、王子のものとなった。すべてを奪われ、自由も記憶も失い、ただ彼を慕うだけの存在――。周囲はこの結末を知らないまま、“婚約者のハッピーエンド”を祝うのだろう。
その実態は、冷酷なバッドエンド。
自分で選んだ破滅とも言えるが、もう何も考えられない。王子の胸に抱かれ、首輪をはめられたままキスを受ける。甘い陶酔と満足を感じながらも、きっと奥底では叫んでいる――わたしの“本当”を返して、と。
だが、その声は誰にも届かない。物語はここで幕を閉じる。わたしは王子に支配され、記憶さえ塗り替えられ、“幸せ”の名の下に檻の中へと囚われ続ける――どうしようもないバッドエンド。それが、最終的にわたしが手にした運命だった。
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