【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

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エリックの護衛宣言と無自覚の大胆さ

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翌日、シャーベット家の庭園は初夏の陽射しを浴びていた。バラが咲き乱れるテラスで、アリスはゆったりと腰掛けている。今日は珍しく曇りがちではなく、陽光が眩しいぐらいだ。

「お嬢様、日傘をお持ちいたしました」

侍女が差し出す日傘を受け取り、アリスは「ありがとう」と微笑む。相変わらず眠たげな瞳をしているが、寝不足ではないと知る者は少ない。  
そこへ、エリック・ハリスンがやってきた。騎士見習いの正装ではなく、少しカジュアルな装いだ。

「アリス、今日は庭にいるって聞いたから、顔を見にきた。大丈夫か?」

「エリック……はい、大丈夫ですよ。お天気もいいし、ちょっと外の空気を吸ってました」

エリックは安心したように頷く。思えば、夜会の後からアリスに言い寄る男たちが増えている。ディーンのように直接邸に訪れる人もいれば、手紙を送りつけてくる者もいて、シャーベット家が妙ににぎやかだ。  
エリックは、それらの動きからアリスを守るべきだと考えていた。

「なあ、アリス。最近、いろんな男が近づいてきてるだろう? ……俺でよければ、護衛というか、身辺を守る役を買って出ようと思うんだ」

「護衛……ですか。わたし、そんな危ない目にあうんでしょうか」

「いきなり攫われる、みたいなことはそうそうないと思うけど……『公爵家と破局した』という噂が立ってるぶん、いろんな人がアリスを狙う可能性はある。お前のことを道具扱いするような輩もな」

エリックは真剣な表情で言葉を続ける。アリスはふわりとまばたきをしてから、小さく微笑んだ。

「ありがとう、エリック。でも……わたし、あんまり危機感がなくて。寝るのは嫌いだけど、そういう意味ではよく眠れてるのかもしれません」

「だからって、警戒しろよ。……お前は無自覚に隙だらけだから、心配なんだ」

エリックの言葉に、アリスは「そっか」と納得しているのかしていないのか微妙な反応を返す。それでもエリックは意を決したように、アリスの前へ進み出た。

「アリス、俺がそばにいてもいいか? あまり鬱陶しく思わないでほしいんだが……」

「鬱陶しくなんてないですよ。エリックがそばにいてくれると安心です」

「あ、ああ……それならよかった」

エリックは気恥ずかしそうに目をそらす。アリスはそれを見て小首をかしげるが、特に深い意味を読み取ってはいない様子だ。  
だが、そのときアリスはふと立ち上がり、庭の奥へ視線を向けた。

「そういえば、あっちの方にきれいなバラが咲いてるってミレイさんが言ってました。見にいきませんか?」

「いいぞ。付き合うよ」

アリスはエリックの腕を軽く引いて歩き出す。その仕草はどこかあざといほど自然で、周囲の人が見たら「仲がいいカップルのよう」と言いたくなるだろう。しかしアリス自身はただ単に「友達を誘っている」程度の意識しかない。  
バラの小径に入り込むと、背の高いバラアーチが二人を迎える。辺りは花の香りで満ちており、自然と会話も途切れがちになる。そんな空気の中、アリスは何気ない調子で言い出した。

「エリック、昔からわたしにくっついてくれてますよね。頼もしくてありがたいけど……迷惑じゃないですか?」

「迷惑? 俺は好きでやってるんだ。それに、アリスが危なっかしいから放っておけないだけだ」

「危なっかしい……そうですか?」

「そうだ。お前、寝るのは嫌いで、意外と夜更かしするんだろう? でも体はあまり頑丈じゃないし。そういうところも含めて放っておけないんだ」

「そっか……。ありがとう、エリック」

アリスは無意識にエリックの手を取る。その柔らかい感触に、エリックはどきりと胸を鳴らす。アリスのあざとい仕草は、本人に自覚はないのだろう。ほんの少し手を引いたりするだけで、エリックの心臓は跳ね上がる。  
しかし、アリスはひたすらマイペースだ。手をつないだまま、バラの茂みを覗き込み、鮮やかな花びらに目を奪われる。

「きれいですね……。わたし、寝るのは嫌いだけど、こういうのを見ると夢みたいでちょっと楽しい」

「……夢みたい、か。お前、寝るの嫌いなのに夢には憧れるのか?」

「んー……わかりません。でも、夢を見るより現実にこうやって好きなことを眺めるほうがわたしにはいいかな」

アリスの言葉に、エリックはほんの少し笑みをこぼす。なるほど、彼女らしい理屈だ。眠らなくても、おぼろげな夢より今の景色が大事なのだろう。  
そんなアリスを見ていると、エリックは自然と守ってやりたい衝動に駆られる。無防備で、いつ誰が彼女を攫ってもおかしくないほど油断している。だが、それがアリスの魅力でもある。

「とにかく、俺が近くにいるときは安心してくれ。何かあったら、すぐに助けに入るから」

「はい。頼りにしてますよ、エリック」

アリスはにこりと微笑み、エリックの手を離す。エリックはその余韻に少し頬を染めながら、さりげなく目を逸らした。  
二人がバラ園を後にすると、ちょうど屋敷から使用人が呼びに来た。アリス宛てに新しい手紙が届いているらしい。差出人は不明だが、文章からするとまた縁談の申し込みのようだ。

「ああ、またか……。わたし、どう返事すればいいんでしょうね」

「断れよ、気が乗らないなら」

「そうですね。エリックがそばにいてくれるし、今はもう婚約はいらないです」

天真爛漫に言い放つアリス。エリックは「婚約と俺は関係ないだろう」と思いつつ、苦笑するしかない。  
アリスの周囲は今後も騒がしくなっていくだろう。クライヴが去った“空き”を狙う者たちが次々に手を伸ばす。しかし、アリス自身はそんな喧騒を意に介さず、彼女の“ゆるやか”な日常を守ろうとしている。その裏で、エリックはしっかり護衛を名乗り出るのだった。
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