【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

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あざといアドバイス

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午後、アリスはいつものように部屋でローズティーを啜っていた。すると、玄関先で「こんにちはー!」という明るい声が聞こえる。ほどなくして侍女がドアをノックし、フローレンス・ローベルの来訪を告げた。

「お邪魔しまーす。アリス、元気そうね!」

「フローレンス……いらっしゃい。どうぞ、お茶飲みます?」

「ええ、頂くわ。ちょうど喉が渇いてたの」

フローレンスは豪華なフリルのついたドレスをひるがえし、アリスの隣へと腰を下ろす。あざといほど華やかな見た目だが、内心はアリスを心配している……というより面白がっている節もある。

「ふふ、アリス、最近ちょっとモテモテじゃないの。子爵家とか男爵家とか、いろいろ言い寄られてるって噂よ」

「うーん……モテてるというより、狙われてるって感じですけど」

「まあ同じようなものじゃない? 婚約破棄された途端にこんなにも注目されるだなんて。普通なら『破棄されて可哀想』って同情されるか、あるいは敬遠されるかだから、ある意味すごいわよね」

アリスはフローレンスの言葉に苦笑する。社交界というのは、ひとたび噂が立てばそれをチャンスと見る者も多い。自分の家の力を上げたいと考える若手貴族なら、シャーベット家との縁を欲しがっても不思議ではない。

「それでアリスはどう思ってるの? 誰かいい人がいたりするわけ?」

「いい人……? うーん、特にいないですね。わたし、寝るの嫌いだし、結婚はもっと先でいいかなって」

「それ、意味がわからないわよ。寝るのが嫌いと結婚は関係ないでしょうに」

フローレンスは呆れながらも楽しげに笑う。アリスが何を言ってもマイペースであることは承知だが、そんな彼女のユニークな発想に興味を抱いている節があるようだ。

「そうそう、クライヴさまのことはどうなの? あれ以来、お会いしてないんでしょ?」

「はい。夜会で少し話したきり……特に用事もないですし」

「そっか。……クライヴさまも、なんだか複雑そうな顔をしてたわよ。婚約破棄してスッキリしたはずなのに、モヤモヤが残ってる感じ?」

アリスはフローレンスの言葉に一瞬考えるが、あまり深い答えは出ないまま「そうかもしれませんね」と相槌を打つ。実際、クライヴがどんな気持ちで過ごしているのか、アリスには想像がつかない。

「でも、もしクライヴさまが『やっぱり婚約破棄を撤回したい』って言い出したら、あなた、どうするの?」

「え……」

フローレンスはわざとらしく目をぱちくりさせる。アリスは意外そうに少し黙り込んだ。そんな可能性は考えていなかったらしい。

「……クライヴさまが、もう一度? うーん……そのときは、どうしましょう?」

「自分のことなのに、そんな他人事みたいに言わないの。そこで『やっぱりわたしはクライヴさまが好きなんです』とか『お断りします』とか、はっきり言ってみればいいのに」

「……そうですね。もしそうなったら、考えます。でも今は、わたしまだ寝るのが嫌いだし……」

「ちょっと、また寝る寝るって……もういいわ!」

フローレンスは冗談めかして手を振る。アリスの脳内ロジックは彼女には理解不能だが、そこがまた面白い。

「それより、最近はあざとさが足りないんじゃない? 狙ってくる男たちに流されないためには、あえて上手く手玉に取るのが一番よ。アリスみたいなロリっ子フェイスなら、なおさらそのギャップが効くわ」

「あざとく……手玉に取る、ですか?」

「そうよ。あなたって、わりと天然で大胆なことするでしょ? それが武器になるのよ。わざと距離を詰めて相手をどぎまぎさせたりとか、上目づかいでお願い事をしてみるとか……まあ、いろいろあるわよ」

アリスはフローレンスの“テクニック講座”に目を丸くする。たしかに意識せずにエリックの手を取ったり、クライヴに急接近したりといったことはしてきたが、それを「狙って」やる気にはなれない。

「わたし、普段あざとくしてるつもりはないんですけど……周りからは、そう見えるんでしょうか」

「そう見える人には見えるわよ。それならいっそ、活かしちゃえばいいのに」

フローレンスは悪戯っぽくウインクしてみせる。彼女自身は計算づくであざとさを発揮するタイプだが、アリスはそれを無意識でやってしまうタイプだ。だからこそ危うさがあるし、逆にそれがモテ要素ともなる。

「とにかく、アリス。このままだと、どこかの貴族にうっかり攫われちゃうかもしれないわよ? エリックがいつでも守ってくれるとはいえ、あなた自身も少しは男性の扱いに慣れておいたほうがいいわ」

「男性の扱い……寝るの嫌いだから、どうしたらいいかわからないですね」

「だから寝るのは関係ないってば!」

フローレンスのツッコミが室内に響く。アリスは真顔で「そうですか」と返すだけ。このかみ合わなさこそ、二人の友情の証といえるかもしれない。  
そんなやりとりをしながらも、フローレンスは一通りあざと可愛いポーズや仕草をアリスに教えていく。アリスはそれを興味深そうに聞き、実践する気は薄そうだが、頭の片隅には入れておくようだ。

「まあ、いざというときに役立つかもしれないし。あとは気持ちの問題ね。自分が『この人にはこう接したい』と思えば自然と行動に出るものよ」

「うーん……いつかそんなときが来るんでしょうか。わたし、まだピンとこないんです」

「来ると思うわ。クライヴさまなのか、エリックなのか、あるいは新しい誰かなのか。いつかあなたが本当に“好き”だと思える相手が現れたら、そのときは自然とあざとくなるはず」

フローレンスは力説してから、そっと手鏡を取り出し、自分の化粧をチェックしている。一方アリスは「好き」という感情をあまり想像できないまま、フローレンスの言葉を反芻する。

(いつか好きな人ができたら……わたし、どうなるんだろう? ちゃんと寝るようになるとか?)

彼女の思考は奇妙な方向に逸れていくが、フローレンスに言わせれば「それもアリスらしさ」なのだろう。周囲はどれだけ騒ごうと、アリスはこの“眠たげ”なペースを崩す気配がない。  
だが、その天真爛漫な姿勢が人を惹きつけ、やがて騒動を大きくしていくのかもしれない。フローレンスの予感は、そんな暗示を含んでいた。
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