【完結】「婚約破棄ですか?分かりました」おしまい?

えるろって

文字の大きさ
8 / 100

あざといアドバイス

しおりを挟む
午後、アリスはいつものように部屋でローズティーを啜っていた。すると、玄関先で「こんにちはー!」という明るい声が聞こえる。ほどなくして侍女がドアをノックし、フローレンス・ローベルの来訪を告げた。

「お邪魔しまーす。アリス、元気そうね!」

「フローレンス……いらっしゃい。どうぞ、お茶飲みます?」

「ええ、頂くわ。ちょうど喉が渇いてたの」

フローレンスは豪華なフリルのついたドレスをひるがえし、アリスの隣へと腰を下ろす。あざといほど華やかな見た目だが、内心はアリスを心配している……というより面白がっている節もある。

「ふふ、アリス、最近ちょっとモテモテじゃないの。子爵家とか男爵家とか、いろいろ言い寄られてるって噂よ」

「うーん……モテてるというより、狙われてるって感じですけど」

「まあ同じようなものじゃない? 婚約破棄された途端にこんなにも注目されるだなんて。普通なら『破棄されて可哀想』って同情されるか、あるいは敬遠されるかだから、ある意味すごいわよね」

アリスはフローレンスの言葉に苦笑する。社交界というのは、ひとたび噂が立てばそれをチャンスと見る者も多い。自分の家の力を上げたいと考える若手貴族なら、シャーベット家との縁を欲しがっても不思議ではない。

「それでアリスはどう思ってるの? 誰かいい人がいたりするわけ?」

「いい人……? うーん、特にいないですね。わたし、寝るの嫌いだし、結婚はもっと先でいいかなって」

「それ、意味がわからないわよ。寝るのが嫌いと結婚は関係ないでしょうに」

フローレンスは呆れながらも楽しげに笑う。アリスが何を言ってもマイペースであることは承知だが、そんな彼女のユニークな発想に興味を抱いている節があるようだ。

「そうそう、クライヴさまのことはどうなの? あれ以来、お会いしてないんでしょ?」

「はい。夜会で少し話したきり……特に用事もないですし」

「そっか。……クライヴさまも、なんだか複雑そうな顔をしてたわよ。婚約破棄してスッキリしたはずなのに、モヤモヤが残ってる感じ?」

アリスはフローレンスの言葉に一瞬考えるが、あまり深い答えは出ないまま「そうかもしれませんね」と相槌を打つ。実際、クライヴがどんな気持ちで過ごしているのか、アリスには想像がつかない。

「でも、もしクライヴさまが『やっぱり婚約破棄を撤回したい』って言い出したら、あなた、どうするの?」

「え……」

フローレンスはわざとらしく目をぱちくりさせる。アリスは意外そうに少し黙り込んだ。そんな可能性は考えていなかったらしい。

「……クライヴさまが、もう一度? うーん……そのときは、どうしましょう?」

「自分のことなのに、そんな他人事みたいに言わないの。そこで『やっぱりわたしはクライヴさまが好きなんです』とか『お断りします』とか、はっきり言ってみればいいのに」

「……そうですね。もしそうなったら、考えます。でも今は、わたしまだ寝るのが嫌いだし……」

「ちょっと、また寝る寝るって……もういいわ!」

フローレンスは冗談めかして手を振る。アリスの脳内ロジックは彼女には理解不能だが、そこがまた面白い。

「それより、最近はあざとさが足りないんじゃない? 狙ってくる男たちに流されないためには、あえて上手く手玉に取るのが一番よ。アリスみたいなロリっ子フェイスなら、なおさらそのギャップが効くわ」

「あざとく……手玉に取る、ですか?」

「そうよ。あなたって、わりと天然で大胆なことするでしょ? それが武器になるのよ。わざと距離を詰めて相手をどぎまぎさせたりとか、上目づかいでお願い事をしてみるとか……まあ、いろいろあるわよ」

アリスはフローレンスの“テクニック講座”に目を丸くする。たしかに意識せずにエリックの手を取ったり、クライヴに急接近したりといったことはしてきたが、それを「狙って」やる気にはなれない。

「わたし、普段あざとくしてるつもりはないんですけど……周りからは、そう見えるんでしょうか」

「そう見える人には見えるわよ。それならいっそ、活かしちゃえばいいのに」

フローレンスは悪戯っぽくウインクしてみせる。彼女自身は計算づくであざとさを発揮するタイプだが、アリスはそれを無意識でやってしまうタイプだ。だからこそ危うさがあるし、逆にそれがモテ要素ともなる。

「とにかく、アリス。このままだと、どこかの貴族にうっかり攫われちゃうかもしれないわよ? エリックがいつでも守ってくれるとはいえ、あなた自身も少しは男性の扱いに慣れておいたほうがいいわ」

「男性の扱い……寝るの嫌いだから、どうしたらいいかわからないですね」

「だから寝るのは関係ないってば!」

フローレンスのツッコミが室内に響く。アリスは真顔で「そうですか」と返すだけ。このかみ合わなさこそ、二人の友情の証といえるかもしれない。  
そんなやりとりをしながらも、フローレンスは一通りあざと可愛いポーズや仕草をアリスに教えていく。アリスはそれを興味深そうに聞き、実践する気は薄そうだが、頭の片隅には入れておくようだ。

「まあ、いざというときに役立つかもしれないし。あとは気持ちの問題ね。自分が『この人にはこう接したい』と思えば自然と行動に出るものよ」

「うーん……いつかそんなときが来るんでしょうか。わたし、まだピンとこないんです」

「来ると思うわ。クライヴさまなのか、エリックなのか、あるいは新しい誰かなのか。いつかあなたが本当に“好き”だと思える相手が現れたら、そのときは自然とあざとくなるはず」

フローレンスは力説してから、そっと手鏡を取り出し、自分の化粧をチェックしている。一方アリスは「好き」という感情をあまり想像できないまま、フローレンスの言葉を反芻する。

(いつか好きな人ができたら……わたし、どうなるんだろう? ちゃんと寝るようになるとか?)

彼女の思考は奇妙な方向に逸れていくが、フローレンスに言わせれば「それもアリスらしさ」なのだろう。周囲はどれだけ騒ごうと、アリスはこの“眠たげ”なペースを崩す気配がない。  
だが、その天真爛漫な姿勢が人を惹きつけ、やがて騒動を大きくしていくのかもしれない。フローレンスの予感は、そんな暗示を含んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...